実際”秋”なんてものは季節の中で一番儚いと思う。 暦上ではまだかもしれないが、気分的にはもう冬だった。 ある意味、この頃が一番寒い。 真冬のように、防寒耐寒の用意が整って無いからだ。 下校する天馬は、丁度自分を抱くような格好でしきりに腕を反対の手でこすってる。 「あ〜もう、すっげー寒ぃ…… ジャンパーとは出さないとな。手袋も要るな」 絶対出すぞ。と心に決める天馬。 ここ数日、そうは思っていても急に騒がしくなった室内。ころっと忘れてしまうのが難しくない。 そんな様子を隣で眺めていた帝月は、今日忘れていたら、自分が出してやろうと、と心に決めていた。 そして図らずとも2人同時に頷いたのだった。 「なぁ〜、ミッチィ〜〜……」 ん?と帝月は振り返った。この声色は大概何かを強請る時だ。全く持って解り易い。 ……と思っているのは帝月だけだ。他の人はその区別は解りづらい。 「何かさ、ぱーっと暖かくなるよーな札ってねーの?」 「そんな都合のいいのがある訳ないだろう。……だいたい”ぱーっと暖かく”という表現は何だ」 自分の願いが聞届けられないと判断すると、天馬は剥れた。 「ケチー!夏に暑い、って言った時には涼しくしてくれたのに!!」 「………あれは……」 あの時と違って、目のやり場に困るような姿をしてないから、別にいい。……とはさすがに言えない。 「ケーチ!ミッチーのケチケチケチケチー!!」 「ケチで構わん。僕は符を出す気は無い」 「むぅー」 という具合でこの言い合いには終止符が付いた。 その後の音と言えば、上の方で風が吹く音や、天馬が自分の手に息を吹きかけているものだけだった。 ………かなり寒そうだな。 極力袖の中に隠そうとした、けれど少し出てしまっている指の先は赤い。それにより温度を知る。 ……自分には、暑いとか寒いとか、そういう事を感じ取る事はない。 否、必要ないのだった。 故に、体温も無い。 ……もし、あったのなら、天馬の寒さを少しは紛らわす事が出来るのだろうか。 喜ばす事が出来るのだろうか……… と。 「……………?」 ふいに、自分の手を掴まれる。 「ん〜、こうすっと少しはマシかな? 手袋の代わり」 そう言ってから、にっこりと笑う。 「………温かいか?」 そんな訳ないと、知ってるくせに、自分は。 けれどその問いに、天馬はうん、と頷いた。 自分に温かさがあると言うのなら、 それは間違いなく彼から移ったものだ。
「たっだいま〜!!ひゃーッ!寒かったー!!」 バタバタバタと駆け込むように部屋へ雪崩れ込む。突如人口(……て”人”ではないけれども)密度の増えた室内は、暖房が無くても結構暖かい。 えいやぁッと勢い良くランドセルを脱ぎ、机に置く。今日は練習はない。 さて、どうしたものか。ここ最近、遊び道具のテレビゲームはすっかり占領されてしまってるし。 割り込もうか。そう思い、コントロールを握る飛天に、その左右を固めている静流と火生の側へと近寄る。 すると………… (ん?) 天馬が何かに気づく。 「きゃー!飛天様!死にかけてる死にかけてる!!早く回復ー!」 「バッカここは一人見殺しにしても更に攻撃………ぅおッ!?」 視界の端に金糸を見つけ、飛天がバッ!と振り返る。ピブー。仲間が1人死んだ。 火生が途中から驚きの声に代わったのは、後ろから天馬が抱きついたからだ。 「なななななななな何だぁ?」 「火生って、あったかいなー」 「ま、まぁそりゃそーだろうな。火だし」 天馬はなおも暖を求め、火生に擦り寄る。 飛天はそれを固まって凝視する。ピブー。仲間がまた死んだ。 「そうだ!火生!!これから一緒に寝ようぜ!!」 さも名案!という風に天馬は目を輝かせる。 飛天の手からコントロールが落ちる。ズギャーン。パーティー全滅。 「な!な!いいだろ?!」 「あ〜?テメー、この地王様を湯たんぽ代わりにする気か?」 なんて言ってる火生の心の中では万歳三唱である。 でもほらあからさまにがっつくのもアレだし?それにもーちょっとからかうのを堪能し……… 「………………」 「火生ー?」
本日、一番冷え込んだのは。 帝月からの視線による、火生の背後だった。
仕方ないので帝月は暖温効果のある符を使用したのは言うまでも無い。
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