夏である。 青い空には大入道。 大きな木にはセミの鳴き声。 そして、気だるい位の暑さ。 いつも元気一杯の天馬もこれにはちょいとばかしグロッキー。散歩し過ぎた後の犬みたいになっている。 「あちぃ〜〜………」 「夏なんだから当然だろ。……それはそうとその格好をどうにかしろ」 思わず口を出た天馬の言葉に律儀に答え、次いで忠告を促す。 何しろ天馬と来たら、いくら自室とは言え短パン一枚、上には何も着てないのである。 「だぁぁってぇ〜……暑いんだもん……」 扇風機からの風は、確かに髪をかき上げるが、生暖かい空気をかき混ぜてるだけで、冷却の効果はない。 「うにゅ〜………」 ごろっと転がって冷たい所を探してみるが、勿論そんな所は無かった。 「あっちぃよー。ミッチー、暑くねぇの?」 「……まぁな」 「そっか」 自分は人間ではないから、という台詞を先回りして天馬が相槌を打つ。しかしそれは計算でも気遣いでもないのだった。 「で」 「?」 「……上に何か着ろ」 「ヤだよ。あちぃもん」 「着ろ」 「ヤだ!!」 むぅ、と頬を膨らまして帝月に迫る天馬。 (……!そんな姿で近寄るな!) つい、と視線を自然に逸らすことで難を逃れたミッチーだった。 ついでに飛天やら火生を出してなくて本当に良かったと思った。 一方天馬は帝月が着ろと言わなくなったので、扇風機の前を陣取っている。当然、前述の通り涼しくない。 「う〜………お?」 すぅっと風が冷たくなる。 気のせいではなかった。明らかに自分を取り巻く空気が冷たくなっている。 天馬は帝月を見た。 不思議な現象と出会ったら、まず天馬を仰ぐというのが癖になりつつある。 帝月の手には札があって。 「……冷却効果のある妖怪を括った事がある。今回だけ特別だ」 「そっかぁ〜、ミッチー、さんきゅうな!!」 に、と見せた天馬の顔は、まさに満面の笑みと呼ぶに相応しいものだ、と帝月は思う。
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さて。 「ミッチぃ〜……」 「どうした。もう暑くないだろ」 「じゃなくて。ちょっと寒いんだけど……」 半そでから覗く(服来た)腕を摩りつつ帝月に言う。 確かに室内の気温は涼しいを通り越して寒い、と呼ぶべきものだった。 しかし。 「寒いほうがいい。暑くしたらさっきのような格好になるだろうが」 「そんなぁー……もうだらしない格好しないってば」 「信用出来んな」 「ミッチーィィィィィィィィ!」 とりあえずもう少し。 自分以外の前でもあんな格好にならないくらいにまで、灸を据えてやってから。
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