クリスマス。
80%以上の人が宗教的意味合いを全く考えず、美味しい物を食べて皆で遊ぶ日。それは、天馬の家でも例外ではなかった。
本来異国の聖人の生誕日であるこの日に、日本の妖が関わるのはどうだろう、という声は全く上がらなかった。
そうするのは、両親が研究熱心である為、こういうイベントに飢えている子供の為であるのは、言うまでも無い。
まぁ、単に理由はどうでもいいからどんちゃん騒ぎがしたいというのも半分くらいはあるが。
「あー、食った食った」
満足そうに腹を叩いて、飛天がどっかりと背凭れに体を預ける。
「じゃ、そろそろケーキ持って来る」
天馬が言い、勢い良く立ち上がり小走りで去った。
隣の席が空いて、何だか横がすーすーする帝月だ。
「……ね、」
反対の隣の静流がこっそり呼びかける。
「天馬にプレゼント渡すんでしょ?その時、あたしら外に出ようか?」
「……………別に、いい」
妙に輝く眼の静流を素っ気無く返す。どうして他人の事に首を突っ込みたがるのか。
「あぁ、寝ている時にそっと枕元に置くのね。浪漫ちっくねーv」
「…………」
何も言う気になれない。なので、ひたすら沈黙を通した。
「ケーキを運ぶだけにしては遅くないか?」
凶門が呟いた。冷蔵庫から取り出して運ぶだけにしては、確かに時間が掛かり過ぎている。
「ま、色々準備があるんじゃない?」
静流がしたり顔で笑う。何か知っているらしいような顔だ。
帝月がそれについて問いただそうとした時。
「メリー・クリスマース!!!」
じゃじゃーん!と天馬が派手に登場した。
「……………」
帝月は、この時何かを口に含んでいたり手に持っていなくて本当によかった、と思った。もしそうだったら噴出していたり落としていたに違いない。
「……何、」
何のつもりだ、と訊こうとしたが、答えを待つまでも無い。
天馬は、サンタの格好をしていた。
鮮やかな真っ赤な生地に、ほわほわした白い毛の飾り。勿論帽子も忘れていない。その衣装は、天馬の色にとてもよく似合っているような気がした。
「ほら、皆、ケーキだぜー」
「このケーキ、わざわざ表参道まで行って買ったのよv」
説明する静流の影に隠れて、俺がな、とこっそり火生が呟いていた。
「ぶたのとトナカイのがあるから、適当に皆取ってくれよ」
大きなトレイを真ん中に置く。天馬が、まずぶたのケーキを取った。
しかしそれは天馬の前には置かれないで。
「ミッチー、半分食って交換しようぜ」
「………」
そうするのが当然と、決定事項みたいなとても自然な言い方。
帝月はそれを受け取るのが精一杯で、他の連中がどんな顔で自分を見ているかまでは気が回らない。
料理の時より一回りは小さいフォークを持ち、食べようとして、その手が止まる。
ケーキはぶたの顔をファンシーに作られていて、顔が正面を向いて、眼がじーっとこっちを見ているような気がする。
「………………」
食べる経過を考えると、結構食べるのが酷なのではなかろうか、と思う帝月だが。
「いただきまーす!!」
ザグシュ!
「…………」
隣で、天馬が美味しそうにもんぎゅもんぎゅと食べている。
「んー、美味い!!これ美味いぜ、ミッチー!」
「………お前は、」
「ん?」
「お前は、凄いな………」
その言葉に首を傾げる天馬。
帝月は、今更のようにそう思った。
その後にしたレクの罰ゲームで、天馬は後片付けを言い渡された。
ついてねーな、と喚いた声も、何処か楽しそうで。
帝月の口からは、自然と、今度のケーキはもっと普通の形をしたヤツにしろ、と言っていた。
<END>
|