形容するには難しい、けれどけたたましいという事ははっきりしている轟音が響く。
台風到来。
チカチカっと電灯が点滅し、あ、と思ったら、停電した。
「っだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ----------!!!」
丁度ボス戦だった旦那の悲痛な声が部屋に響く。
「おっ、停電だ。久しぶりだなー」
能天気な声は天馬だ。
時刻は7時半。ちょうど夕飯食い終わったのは幸いだったな(旦那にとっちゃ大不幸かもしれねーけど)
坊ちゃんが俺に言う。
「明かりを何か持って来い」
”明かり”って言う時点でで天馬の為なのは丸解りだ。
俺ら妖怪は、物理的に物を見ている訳じゃねーから。
玄関のすぐ横にラジオ付きのいかついヤツがあるのを知ってるから、俺はそれを取りに降りた。何でもこの懐中電灯付きラジオ(逆かも)天馬の親父さんのお下がりらしい。
……うっかり落としたら、半殺しだな(坊ちゃんから)。
「操作解ねーから、オマエやれよ」
と、天馬に渡す。カチ、という小さく堅い音がして、明かりが付いた。
これっぽっちの動作で明かりが手に入るようになったんだから、世の中変わったよな。火打石なんて、要らないんじゃん。
「あーぁ、これから何しよ」
天馬が言う。こんな宵の口。いくら暗いからと言っても、中々寝付けないだろう。
「馬鹿ね、天馬」
にぃ、と妖艶な笑みをして、静流口を開く。コイツがこんな顔をするのは、大抵ろくでもない事ばかりだ。
「こんな暗い室内でする、とっておきなイベントがあるじゃないv」
「………それって…………」
感づいてしまった天馬が、口を引きつらせる。
「そ。怪談v」
「ヤだ!ゼッテー嫌だー!!!!」
さっきの旦那並みの音量で抗議する天馬。
括りの術者が人間のガキにのめり込んでるってのも可笑しいけど、妖怪退治の大御所の不動明王を宿している人間が怪談を怖がるってのも可笑しな話だよなーと他人事のように思う俺。
「どうせ話すんなら、何か楽しいのにしてくれよ!!」
「……そう、あの少年も、アンタみたいに怖がりな子だったわ……」
「さりげなく話しに入るなよー!!ミッチー!!!」
何とかしてくれ、という言葉は省いて坊ちゃんに助けを求める天馬。
坊ちゃんは困る。庇ってもいいが、そうすると静流の横槍に遭ってしまう。
からかわれて気持ちのいいやつも居ないだろう。
うぅ、と小さく唸るぼっちゃん。
こんな時こそ、俺がどうにかしなければ!
「おい、静流、止めろよ」
「うっさいアンタは黙れ」
……俺って蟻の前の塩みたいに存在感ないのね。
天馬はすっかり坊ちゃんの後ろに隠れて、「桑原桑原」と連呼している。どーでもいいけど天馬、それは雷を遠ざける呪文だぞ。
で、坊ちゃんは後ろの天馬が気になって気になって仕様が無いって表情をしている。
……2人で何処かへ抜け出すっていう手段は、思いつかねぇのかな。
「-----ね。こんな話はどうかしら」
また例の笑みを浮かべて、言い出す静流。
ぼっちゃんの肩からちょこっとだけ見える天馬は、痛くなるんじゃないか、ってくらいに耳を押さえていた。本当に怖いのねーとむしろ感心したような静流だ。
「大丈夫よ、天馬。これはあんたには怖くない話なの」
「……マジで?」
「マジマジ。で、特定の1人にだけ怖い話で、あんたがそれを当てるってのはどうかしら?」
「おっ、いいなー。面白そーじゃん」
「そんなに人数も居ないし、消去法で行かれたら詰らないわね。
うん、一発勝負。あとはダメって事で」
「オッケー。やろうぜやろうぜ」
現金って言葉を乗せながら、坊ちゃんから身を現す天馬。あぁ、坊ちゃん、そんな寂しそうな顔を。
「じゃ、始めましょうか」
無意識、懐中電灯を中心に円になる俺ら。自分には怖くないと言われたものの、この雰囲気がすでに苦手なのか、隣の坊ちゃんにピッタリ身を引っ付ける天馬。
良かったっすね、坊ちゃん!(って密かにエールを送ったら殺意の目で睨まれた)。
「まず、Aっていう子が居るのね」
うんうん、と頷く天馬。
「次にBって子が居て、BはAの事が好きなの。でも、Aはこれっぽっちも気づいてないのね」
ふんふんと頷く天馬。
と、同時に眉を顰める坊ちゃん。
「Bはいつか好きって言おうとしてるけど、Aの居る環境は何時も人が一杯居て、中々そのチャンスが来ないの」
ほうほうと頷く天馬。
と、同時に顔を顰める坊ちゃん。
「話はそれで終わりー」
「えぇー!?何だそれ、怖くもなんともねーじゃん」
「だから、アンタにゃ全然怖くないって言ってんじゃない。
でも、確実にこの中の誰かは肝を冷やしたわね♪」
「……………」
あ、ぼっちゃんが沈黙してる。
そのすぐ横で、うーん、誰だー?と首を捻る天馬。なんか、コントみたいな光景だ。
「怖い……んだよな」
確かめるように言う天馬に、そうね、と応える静流。
「で、こん中の誰か……ん〜〜」
「…………」
悩む天馬。沈黙をひたすら守る坊ちゃん。
うんうんと悩んでいた天馬だが、やがてぱっと顔を上げた。
「よし!解った」
「……………」
ぼっちゃん、沈黙。俺はそんなポーカーフェイスを通す坊ちゃんを尊敬した。
天馬は言う。
「火生だ!!」
「ンでだよ!!!!!」
ズビ、と空気に向かって突っ込む俺!
可笑しいだろその結論!
「何を思って俺にしたんだ」
「だって、この中で怖がりっぽいの、火生かなーって思ったから」
……………ほほぅ。
「そんじゃ天馬君は、怖いの平気ですのね。
そうだ、俺が昔立ち寄ったとある村での事を言ってあげよう。
……あれは蒸し暑く、人の瘴気の込み入った空間の中での事………閉鎖された特異な村での悲劇だった………」
「わー!やめろー!出だしイントロで思いっきり不吉じゃねぇかー!!」
「今思えば、村人全員が何かに取り付かれていたような、狂った目をしていた……それもその筈、何故なら」
「や-------だ-----------!!!!」
半分くらいで切り上げてやるとすっか。坊ちゃんが怖いしな。
1時間後。無事電気は復活した(が、今までの冒険のデータまでは復活しない)
「あ、そうだ天馬、さっきの続きなんだけど」
「ん?」
「そのBくん……今も実在するのよ」
「………………」
あ、坊ちゃんついに押入れに。
外の台風はすぐに去るけど……ある意味、坊ちゃんは毎日が台風到来みたいなもんなんだろうな。
<終わり>
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