食料の買出しに行くのは、主に天馬か静流。荷物持ちとしてよく凶門が同行する。 火生や飛天でも良いのだけれど、その際見返りとして必ず酒を要求される。酒は高いのだ、と天馬はぼやく。 帝月はいつも天馬に誘われているが、自分の何が許さないのか滅多についていかない。そのくせ、誰かと連れ立って出かける天馬を、窓に腰掛けてじっと見つめているのだ。 それから。 「……オイオイ、ただの買出しなんだから〜……」 呆れたように飛天が呟く。おそらく、天馬と一緒に出かけた静流や凶門も、その視線を感じて。 そんな飛天には目もくれず、帝月はまだ天馬の背を追っていた。 まるで、異変があればすぐ駆けつけると言わんばかりに。 天馬がまだ不動明王の力を覚醒させる前は、こっそりと護衛用の式神を付けさせていたのは、2人の最初からの付き合いの自分だけだろうと、飛天は帝月にばれないように笑うのだった。
天馬が帰って来たのを知るには、本人の声や気配の他にもう一つ、家中に満ちていたピリピリとしていた飢餓感が薄れる事。勿論、その発信源は帝月である。 「たっだいまー!あー!やっぱりゲームしてるし!」 オレが買ったんだぞ、そのゲーム!と少し不機嫌になりながらも、近づくのはどうしてだ。 帝月が心の中で毒づくのも知らないで、天馬はテレビゲームに興じてる飛天と火生に言う。 「今日、土産あるんだぜ。甘栗!半額でさ、ちょっとおまけして貰ったんだ〜」 へへ、と嬉しそうに笑いながら、部屋の隅にあった折りたたみ式のテーブルを取り出し、組み立てその上に甘栗をざらー!と出す。 それを一つ取り、パキンと殻を割って、綺麗に剥き出せた栗を口に放る。 「んー、美味いv」 もくもくとそれは幸せそうに食べる天馬。 単純だな、と帝月は感想を抱く。 「栗か。女子供の好きそうなこって」 体格の良い飛天の手に摘まれ、栗が余計に小さく見える。 「飛天、要らねーの?」 「さーて、酒の肴になるかね……」 と、飛天はそのまま殻のまま口へぽーん。 「うわ!そのまま食うか!?」 「ああ?一々剥いていられっか」 ごりぼりぼぎ、と最初から見ていなければ、何を食べているのか解らない咀嚼音が飛天から響く。 その様子に面食らった天馬だが、飛天らしーやと豪快に笑う。 「おーい、天馬、天馬」 「なに?」 「手、出せ、手」 何かその笑みは悪い予感がする……と天馬は警戒したが、火生の手にあるのが甘栗だけだと判断すると、言われた通りに手を差し出す。 「はい、栗v」 「………ぅわちッ!!?」 火生の手によって、出来立てさながらの熱さになった栗に、受け取った天馬が撥ねる。 「何すんだよ、もー!」 「ビビった、ビビったーvv」 「ちょっとー、先に食べてないでよね」 「うわー、これ焦げて不味そう。天馬やるわ」 「自分で食えよ火生!!」 冷凍食品等を冷蔵庫に仕舞っていた静流が来た。それに手伝わされていた凶門も。 2人もテーブルに付き、甘栗に手をつける。 もとより小さいテーブルだ。5人で囲う事すら許容オーバーの感じがある。 1人、窓際で座る帝月。 ……別に、今更だ。 そう、今更。 初対面は、あれだけ関わる事を禁じていたのに、その側に誰より近くに居たいだなんて。 だから自分は今までどおり、最初のとおり。 遠くから、沈黙を保つだけ。 しかし。 あんなに笑顔を振りまく天馬に、心がささくれる一方で。 平常心を戻す為に非難しようか、と帝月が押入れに意識を向けた時。 「ほら、ミッチーの!欲しかったらもっとあるぜ?」 いつの間にか寄っていた天馬。ティッシュに甘栗を一杯乗せて、帝月に差し出す。 「……………」 何だか……捨て猫にミルクを差し出す感覚と似たような…… それよりも気になるのは、天馬の背後、即ち帝月の正面で意味ありげに笑う面々である。 その意味を言葉にするななら、「良かったね。ちゃんと気にかけてもらって」という所であろうか。 「………要らん。手が汚れる」 例え永劫に似た道を歩もうと、人と関わりを持つようになったのは、持ちたいと思うようになったのは極最近で。 吐き出してしまったのはそんな言葉だ。 「……………」 目に見えて、天馬が不貞腐れているのが解る。 帝月も内心悔やんでいたりした。もっと言い方があっただろうに。 例え、この場でもう知らないと天馬が言っても、明日にはケロリと話しかけてくるのだろうが。 でも、そんな少しの時間でも。 さあ、どうすると帝月が頭の中をぐるぐるさせていると、 「----ほらよ」 「………?」 正面には、皮の剥けた甘栗。それを持つ、茶色に汚れた手。 何だか呆れたような、天馬の表情だった。 「ほい、あーん」 帝月はきっと何かを言いたくて、口を開いたのだろう。 しかし、セリフが出されるまえに、甘栗が押し付けられる。 落としてしまわないようにと、少し強引な力を持って押し込まれる甘栗。 唇に僅かに触れた指先に、体内が強く揺れた。 ----その様子に、凶門を覗く3人が噴出すのを堪えたように肩が撥ねる。 「ミッチーって結構お坊ちゃんだな」 どうやら天馬は、手が汚れるから要らないを、剥いてくれたら食べるという意味に解釈したらしかった。 「つーか甘えん坊?仕方ないよなー、全く」 しかし、滅多に自分の要望を口にしない帝月の我侭だから、と何処か嬉々として栗を剥く天馬。 「あーん」 「……………」 思ってもみなかった展開に、頭が上手く働かないのか、言われるままに口を開け、食べる。 猫のミルクやりが雛の餌さりになった、と飛天が上手いこと言ったので。 静流と火生は必死に笑いを堪え、身体を折り曲げた。 凶門は1人黙々と甘栗を食べる。 結局2人のそんなやり取りは、天馬が持ってきた甘栗が全部無くなるまで続いた。
「甘栗に蜂蜜かけて食べる感じ?」 「あーぁ、キムチ鍋食いてー」
この野菜炒め、なんか辛ぇよと文句を言う天馬に。 さっき甘い物食べたからいいの、特に帝月はね、と言って、帝月が咽るのはその日の夕食の時の事。
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