なるほどね。4



 ぼっちゃんも居ねぇ飛天も居ねぇ。
 静流と凶門は買出しに行っててまさにこの部屋は俺様の天下!!
 そんな時にする事と言やぁこれっきゃねぇ!!
 そう!
 酒盛りだ-----------!!!
 ぷしっ!ごっごっごっご……
「…………くっはぁぁぁぁぁ!!堪んねぇな!!」
 ちなみにつまみは干し貝柱でヨロシク!
 そんな満喫な俺タイムはそう長くは続かない。今日は練習が無いから天馬は真っ直ぐ家へ帰る。
 ま、それはそれで楽しいからいいけどな♪(その後がちょっと怖いけど)(かなり怖いけど)
「たっだいま〜〜!!」
 おお、早速来やがった。
 ばたばたと足音まで元気な天馬は、玄関からあっという間にこの部屋までやって来た。
「ただいまー!……って火生だけか」
「不満かよ、オイ」
 めちゃ不服そうな表情を浮かべた天馬にすかさず突っ込んだ。
「んー、別に不満って訳じゃ……」
 と、天馬の目が何かを見つけたみたいに止まる。
 視線を辿って、その先には俺が手にしている酒カップだというのが判明した。
「またそんなの飲んでんのかー?試合に来た時にも飲んでたけど。
 美味いのか?それ」
「当ったり前だっつーの。オメーも飲む?」 
 天馬はちょっと考えて、
「………止めとく。飛天や火生みたいになりたくねーもん」
 ……ほほー、言ってくれるなコイツ。
 そのセリフにこめかみを引くつかせ、同時にちょいとした苛虐心がムクムクと成長する。
「何事も試さないで物を判断するのは感心しねーなぁ、天馬くーん?
 て訳で、飲みやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「わーッ!止めろバカ------!!」
 逃げる前に天馬の服の裾をしっかりキャッチ。それをぐいっと引っ張れば、自然に身体はこっち倒れる。両手を使う必要があるから、動きを止めずに床へ押し倒した。
「の、飲まねーからな!!」
 それだけ言うと、天馬はム、と口を閉じた。いやー可愛い抵抗だねっと♪
 俺はその鼻をぎゅ、抓んでやった。
「…………。
 …………。
 …………。
 …………。
 …………。
 ……………………………っぶはー!!苦し……!!」
「はい、オマエの負けv」
「んぐッ!!」
 ぐいっと一口分にしておいた酒を口に注ぐ。天馬のヤツ、初めて味わう酒に目を白黒させてやんの。あっはっは。
「………ふにゃ」
 程なく、顔を赤く染め、引き剥がそうと俺の腕を掴んでいた手もぽて、と畳の上へ落ちる。
「お味のご感想はー?……ってダメだな、こりゃ」
 ただぼへーと寝ぼけたみたいに虚ろな目で天井を見つめる様子は、どう考えても酔っていた。寝ちまうのは時間の問題だな。
 座布団くらいは頭の下に敷いてやろうか……えーと、座布団座布団……
 と。押入れへ向かう俺に重力がかかる。
 ドシン!!
「ぅおッ!!」
「なぁ〜〜火生〜……」
 子泣き爺の如く、俺の背中に圧し掛かったのはもちろん天馬だ。
 ぼっちゃん曰くの”猫なで声”が俺の耳に直接当たる。
 ………何だかヤバめ?
 しかし、強靭な俺の理性はこの程度じゃブレもしねぇ。この程度なら。
「おい、降り……」
「なぁ、さっきの、くれよぉ〜〜。もっと欲しい……」
 まぁ。天馬くんては酒の味が解るのね、ってそうじゃねぇ!!
 あからさまにイケない台詞だろ!!今のはぁぁぁぁぁ!!!
 ボルテージが時速80キロはあろーかという速度でぎゅいーんと上がる。ヤバい以上にマズい。これはマズい。
 すかさず、俺は天馬を引きはがず。それもまた状況のマズさを加速させるものとなってしまったが。
 だって引きはがすにゃ必然的に天馬と向き合う訳で、そうなると自然に顔が合う訳で……
 酒のせい、とは解っているのけども……
 この、紅潮した頬。
 この、潤んだ瞳。
 この、気だるげな、けれどうっすら微笑をたたえた表情……
「な〜、火生の、欲し……」
 ……加えて、このセリフ。
 オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ。
 初の裏行きかよ。この話!!
「火生〜〜」
 えぇいそんな風に名前を呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁッ!!クる!!色々と!!
「あv見っけvv」
 悶々と湯気を出しそうな俺をさて置いて、天馬は俺の体の向こうへと手を伸ばす。そこには、酒がある訳で。
「だ------ッ!!待てッ!!待て待て待てぇぇぇぇッ!!オマエはそんな状態でまだ飲む気か!!」
「むー、寄越せー!ケチー!!バカー!ヘタレー!!脇役ー!!」
 まささっきみたく押し倒して、天馬は酔ってて自制が外れてるせいかその蹴りやパンチに容赦が無い。売り言葉にも容赦が無い(わ、脇役って……)
 あー、畜生どうするかなコイツ!!
 ……まてよ?更に飲まして眠らせる、という方法が……
「天馬?もう帰ったのか?」
 目の前の天馬に一杯一杯だった俺は、部屋に入ってくるまで家に誰かが帰ってなんて、全く気づかなかった。
 入ってきたのは凶門。……入ってきたままの姿勢で固まってやがる。
 ……そーいえば。
 今の格闘で天馬の服は乱れてるし、顔は赤いし涙はうっすら浮かんでいるし……
 ………これって、”そういう場面”に取れなくも……って多分絶対取った。凶門。
 次の瞬間、俺は吹っ飛んでた。
「んでぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
 ゴン!
「がはッ!!」
「天馬!?何をされた!!」
 壁にぶち当たった事でようやく俺の空中浮遊(強制的)は終わりを告げた。俺を吹っ飛ばした凶門は、天馬を抱きかかえて事の全貌を窺おうとする。
 いかん!!天馬、頼むから本当にありのままを誤解の無いように凶門に言ってくれ-------!!!
「凶門ぉ〜〜……」
 頼む-----------!!
「火生がぁ〜……無理矢理したのは火生なのに、オレが欲しいっつってもくれないで、意地悪すんだ〜〜」
「なッ………!!!!!」
 ダメでした。
 ゴ………ゴゴゴゴゴ………
 ……何、この、地響き。
 恐怖心と必死に戦い、突き止めた所発信源は、凶門さんでした。
「……オマエ……」
 お願い。誰か。
 俺の仲介人を、して欲しい。
 しかし。
 そんなヤツは、少なくとも一番欲しかったこの場には居ないのだった………


「ねぇ、カレー作るけど皆中辛でいいわよね?ていうかそれしか無いけど」
「俺は構わん」
「そうね〜、帝月は味覚に興味ないし、飛天様vは何だかんだで優しいから残さず食べてくれるしvv天馬はこの前マーボー豆腐おかわりしてたから、多分オッケーよね。
 じゃ、料理再開〜」
「………………………………………」
 と、めちゃくちゃナチュナルに俺を無視して階段を下る静流に。
 文句を言うまでの回復はまだしてなかった。






火生受難の巻き。本当に裏へ行きそうになったのはここだけの話です。
何気に天馬が皆に可愛がられてますが、それはまぁあいつもの事なので。