嘘から出た誠というかひょうたんから駒というか。 ていうかむしろ晴天の霹靂っつーか。 あの。 あの凶門が人間の子供の「やきゅう」とかいう代物の監督になりやがった。 たっだいま、と無意味に元気な挨拶の次に出た、この突拍子も無い報告に、俺ならずとも飛天に静流、そしてぼっちゃんまでもが目を点にした。 「て事だから、ヨロシク」 いや、ヨロシクって、お前。 そんな眩しい笑顔で言われても。 第一凶門が天馬について行ってもいい、てのは今日一日の話じゃなかったのかよオイ! 「い、一体……何がどーなってるの?」 初めてその事について口に触れたのは静流だった。 俺なんかインパクトにやられ過ぎて、頭じゃ色々考えても口が動かねくて。 「だぁってさ、仕方なかったんだよ。ジジィが監督になってくれるまで帰さねぇってんだから」 なぁ、と凶門を見上げる。ちなみにその手はしっかり凶門の袖を握っていたりしてた。 その光景は、まるで中の良い兄弟みたいで。 ヤロー、この中じゃ一番の新参者のクセに! 「それでいいよな、ミッチー?」 と、室内の一番遠い所で固まっていたぼっちゃんに、顔と顔がくっつきそうな距離で言った。 やはり自分でも無理があるかも、と思ってるらしい天馬は、ちょっと不安げに瞳を揺らしてた。 俗に言う、「捨てられた子犬のような目」とはこれを指すに違いない。 「…………………っ」 あーあ、ダメだなこりゃ。 ぼっちゃんは天馬の”お願い”を断れない。先日の一件ですでに立証済みだ。 解ってないのは天馬のみ。……解っててやってたら、とんだ悪女だな(妙な表現だとは思うが他にいいのが思い浮かばない)。 「貴様はそれでいいのか?」 ぼっちゃんは凶門を見やる。 「……あぁ」 無愛想かつ素っ気無い返事。しかし、返事をしているという事だけでえらい事だ。 「なら、いい。許す」 対するぼっちゃんも投げかけた言葉は短かった。だというのに、許可されたのは凶門だというのに、 サンキュー、ミッチー!とさっきの表情を遠いお空の彼方までぶっ飛ばして、ぎゅう、とぼっちゃんに抱きつく天馬! あ、ぼっちゃんまた硬直してる。 …………今度のは解けるのに時間食いそうだな。 そんな2人とは別に。 「……で?実際の理由はどうなんだ?」 こっちでは飛天・アンド・凶門による偽親子面談。 「実際も何も……そのままだ」 「…………」 ふん、と鼻を鳴らし、それ以上飛天は何も聞かなかった。 ……どーでもいいけど、もーちょっと和やかに会話出来んかお前ら。 とは言ったものの、想像出来ないけどな。和気藹々と話し弾む飛天と凶門。 ……………あんまり精神衛生上好ましくない光景だ。 ま、それはそうと。 凶門が監督になったのは、さっき天馬が並べた「ジジイが帰してくれないから」らしい。 それは事実だけども、それだけじゃないだろう。 俺だって人の心をちょっとは操る事は出来るし、しがみ付いた所でンなもん振り切ってしまえばいい。 でもしなかった。 全くもって素直じゃねーよ。自分の意見だと認めれりゃいいのに。 「凶門ー、待ってろよ、野球の本出してやるから!」 ぼちゃんとの抱擁は終わったのか、自分の机を漁り始める天馬。ちなみにぼっちゃんまだ凝固中。 あれー、何処だー?と片っ端から引き出しを開けて、自分のテリトリー内のクセにきちんと把握出来て無い模様。見かねた凶門はそれに加わる。飛天はそれとちょっと離れて、色々複雑そうな表情で見ていた。 金縛りから解けたぼっちゃんは、じ、と自分の手……というか腕を見ていた。……さっき、しっかり天馬の背中に腕回してたもんなぁ…… でも、その気持ちは良く解りますよ、ぼっちゃん☆! さて、俺は。 飛天が他のモンに気を取られてる間に、いつもは占領されてるゲームでもするか! わーい、一人でやるの初めて! えぇっと、電源を入れるのには、ゲーム機についているボタンを……… ………て、2つあるぞ、ボタン。 …………どっちだったっけかなぁ……… 右……だったような気もするし、いや、左かも………… うーん……… (考え中) (考え中) …………よし! こっちだ!! ポチ。 「逆よ」 静流の言葉は簡素簡潔直球で、俺の心にとても響いた。
|