なるほどね・3



 嘘から出た誠というかひょうたんから駒というか。
 ていうかむしろ晴天の霹靂っつーか。
 あの。
 あの凶門が人間の子供の「やきゅう」とかいう代物の監督になりやがった。
 たっだいま、と無意味に元気な挨拶の次に出た、この突拍子も無い報告に、俺ならずとも飛天に静流、そしてぼっちゃんまでもが目を点にした。
「て事だから、ヨロシク」
 いや、ヨロシクって、お前。
 そんな眩しい笑顔で言われても。
 第一凶門が天馬について行ってもいい、てのは今日一日の話じゃなかったのかよオイ!
「い、一体……何がどーなってるの?」
 初めてその事について口に触れたのは静流だった。
 俺なんかインパクトにやられ過ぎて、頭じゃ色々考えても口が動かねくて。
「だぁってさ、仕方なかったんだよ。ジジィが監督になってくれるまで帰さねぇってんだから」
 なぁ、と凶門を見上げる。ちなみにその手はしっかり凶門の袖を握っていたりしてた。
 その光景は、まるで中の良い兄弟みたいで。
 ヤロー、この中じゃ一番の新参者のクセに!
「それでいいよな、ミッチー?」
 と、室内の一番遠い所で固まっていたぼっちゃんに、顔と顔がくっつきそうな距離で言った。
 やはり自分でも無理があるかも、と思ってるらしい天馬は、ちょっと不安げに瞳を揺らしてた。
 俗に言う、「捨てられた子犬のような目」とはこれを指すに違いない。
「…………………っ」
 あーあ、ダメだなこりゃ。
 ぼっちゃんは天馬の”お願い”を断れない。先日の一件ですでに立証済みだ。
 解ってないのは天馬のみ。……解っててやってたら、とんだ悪女だな(妙な表現だとは思うが他にいいのが思い浮かばない)。
「貴様はそれでいいのか?」
 ぼっちゃんは凶門を見やる。
「……あぁ」
 無愛想かつ素っ気無い返事。しかし、返事をしているという事だけでえらい事だ。
「なら、いい。許す」
 対するぼっちゃんも投げかけた言葉は短かった。だというのに、許可されたのは凶門だというのに、
サンキュー、ミッチー!とさっきの表情を遠いお空の彼方までぶっ飛ばして、ぎゅう、とぼっちゃんに抱きつく天馬!
 あ、ぼっちゃんまた硬直してる。
 …………今度のは解けるのに時間食いそうだな。
 そんな2人とは別に。
「……で?実際の理由はどうなんだ?」
 こっちでは飛天・アンド・凶門による偽親子面談。
「実際も何も……そのままだ」
「…………」
 ふん、と鼻を鳴らし、それ以上飛天は何も聞かなかった。
 ……どーでもいいけど、もーちょっと和やかに会話出来んかお前ら。
 とは言ったものの、想像出来ないけどな。和気藹々と話し弾む飛天と凶門。
 ……………あんまり精神衛生上好ましくない光景だ。
 ま、それはそうと。
 凶門が監督になったのは、さっき天馬が並べた「ジジイが帰してくれないから」らしい。
 それは事実だけども、それだけじゃないだろう。
 俺だって人の心をちょっとは操る事は出来るし、しがみ付いた所でンなもん振り切ってしまえばいい。
 でもしなかった。
 全くもって素直じゃねーよ。自分の意見だと認めれりゃいいのに。
「凶門ー、待ってろよ、野球の本出してやるから!」
 ぼちゃんとの抱擁は終わったのか、自分の机を漁り始める天馬。ちなみにぼっちゃんまだ凝固中。
 あれー、何処だー?と片っ端から引き出しを開けて、自分のテリトリー内のクセにきちんと把握出来て無い模様。見かねた凶門はそれに加わる。飛天はそれとちょっと離れて、色々複雑そうな表情で見ていた。
 金縛りから解けたぼっちゃんは、じ、と自分の手……というか腕を見ていた。……さっき、しっかり天馬の背中に腕回してたもんなぁ……
 でも、その気持ちは良く解りますよ、ぼっちゃん☆!
 さて、俺は。
 飛天が他のモンに気を取られてる間に、いつもは占領されてるゲームでもするか!
 わーい、一人でやるの初めて!
 えぇっと、電源を入れるのには、ゲーム機についているボタンを………
 ………て、2つあるぞ、ボタン。
 …………どっちだったっけかなぁ………
 右……だったような気もするし、いや、左かも…………
 うーん………
 (考え中)
 (考え中)
 …………よし!
 こっちだ!!
 ポチ。
「逆よ」
 静流の言葉は簡素簡潔直球で、俺の心にとても響いた。




火生視点凶門話の巻。……というか殆ど幕間話となりましたね。
いやもう……凶門が監督になってくれたのがそれはもう嬉しくて嬉しくて……!!
いいなぁ、一番生き生きしているてっちんが見れるなんて。超アリーナじゃん。
シッポ蛇のくせに(←偏見)