糧というもの




「ミッチー!ほら鬼まんじゅう!!」
 と言われつつ間の前に差し出されたのは紛れも無く鬼まんじゅうな訳で。
 (鬼まんじゅうが解らないっつー現代っ子はお母さんかおばあちゃんに聞いて見よう!!)
 そんなものの名称を元気良く言われた日には、果たしてどう対処すべきなのか。
 こんな事は結構長い帝月の人生でも初めての出来事である。
「……そんなものは見ればわかる」
 表情も声色も何一つなく変える事無く。
 こんなふうに返されたなら普通はそれ以上相手に関わろうとはしないはず。
 だというのに、目の前の憑カワレは。
「美味そうだろ」
 に、と笑っても見せる。
「ホラ、一個やるから」
 鬼まんじゅうの乗ってるおぼんを床に置き、帝月へと差し出す。
 しかしそんな事をされても返事は決まっている。
「いらん。僕はそういった物で生を繋げているのではない」
「遠慮すんなよ。やるってば。いっぱいあるし」
 天馬は呑気に言った。……おそらく言った意味が良く解らなかったのだ。
 やれやれ、と肩を竦めて、もう一度言う。
「僕は食物で栄養を摂取しなくても生きれる。だから、いらん」
 天馬は差し出している手はそのままに、もう片方の手ではむはむと鬼まんじゅうを食っている。
「んー、でもよ。それって食えないって事じゃないんだよな。なら食ってもいいんじゃんか」
 と言ってホイ、と手を伸ばす。
「……貴様、僕の言った事を理解してないな……」
 心の其処から呆れ帰った声に、さすがにむっとする。
「早い話がモノ食わなくても大丈夫って事だろ。それくらい解る」
「だったら何故勧める」
 食物に生きる為の糧として以外に、どんな効用があるというのか。
「美味いから、かな」
「?」
 帝月は意味を解りかねた。
「オレは何にどんなモノが入っててどういう風に身体にいいのか、なんて全く解らないけど。
 美味いモノ食うと幸せじゃん。だからさ」
「……………」
 一瞬、天馬の言葉だけで頭の中が埋め尽くされた。
 何度も何度も反芻する。

 コイツは
 僕に……―――?
 
「低俗な快楽だな。僕には必要ない」
 頭の中で、いや。
 体中をぐるぐるするなにかを出したくて、その元凶てあろう事柄に無関係であろうとした。
 そこまで言われてしまった天馬は、じゃあいいよ、とついにむくれてしまい、腹立ち紛れに鬼まんじゅうをぱくついた。
 その様子を見て、渦巻く何かは消えうせた。
 しかし、代わりにチクリと刺すものが現れた。
(罪悪感……?まさか)
 だったら何故視線を逸らしてしまったのか……?
「本当に、一人で全部食っちゃうからな!」
「構わんと言ってるだろうが」
 最後の一つに天馬が手を伸ばす。
 と。
「……何を口の端に付けている」
 まんじゅうの欠片が目に付いた帝月は、それを拭い、そして。
 無意識に自分の口へと運んだ。
「……………」
 天馬はそれをきょとんと見ている。
 初めて摂取した僅かな食物を飲み下した時、ようやく帝月は我に返った。
(い、ま……何を…………?)
 こんな時、自分が顔に出ない性質で本当に良かったと思う。心から。
 軽くパニクった帝月に天馬は至極明るく声をかける。
「なーんだ、やっぱり欲しかったんだろ。全く素直じゃないなー」
 気づいたのが全部食べてしまう前で良かった、と改めて差し出される鬼まんじゅう。
 それでも、その手を跳ね除ける事も出来るというのに。
 どうして自分はその手を取ってしまったのか。
 そして。
 自分は味の良し悪しなんて、今まで食べ物を口にした事がないのだから、わかるはずもないのに。
 どうして美味いだろ?と聞かれた時、ああ、と返事を返してしまったのか。
 そんな疑問も戸惑いも。
 隣のばかに嬉しそうな笑顔を見たら。
 どうでもよくなってしまったのは…………




えーと、初天馬ですね。なんかカップリは帝月×天馬のようで、まぁなるべくしてなった結果ではないかと。
てっちんが素直だから、ジバクに比べて甘いなぁ(しみじみ)
爆みたいに意地っ張りなのも困りますが
天馬みたいに明け透けなのも困り者ですね。
いずれにせよ、攻めの人は一苦労か……