どうやら爆は今、自分の家に居るらしい。
いち早くその情報を入手した激は、傍から見て浮き足立ってるのが物分りなくらい浮かれながら爆の家に向かった。
それで特になるをするでもないけれど、でもそういう何気ない時間を共有するってヨクね?うん、イイよ、となんか妙な若者言葉になっちゃうくらいにも激は浮かれていた。どうでもいいが浮かれすぎだ。
さて、爆の家だ。ピーンポーンとインターホンを鳴らして程なくしたら。
「うぃーす」
やる気はないが眠気を込めた返事をしながら、ズボンだけを穿いた現郎が出てきた。
………………
「すみません、家を間違えました」
がちゃばたん。
思わず敬語になりながら、開けたドアをそっと閉じた。
んでもって改めて家を見ても、やっぱり場所も建物の爆の家で。
3分くらい掛かって、激は家を間違えてないという結論に達した。
それと同時に。
「なんで現郎がそんな格好で此処に居るんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!?」
という疑問にも達した。
3分くらい経っているというのに、ドアを開いたらやっぱり現郎が居た。
現郎は、そんな激を見て。
「オメー、声うっさい」
とだけ言った。
「うっさいじゃねぇよ!どうして現郎が爆の家に居るんだよ!爆は何処なんだよ!しかも何で半裸なんだよ!」
最後、言いながら半泣きになった激だった。
「えーと、」
現郎は頭をぽりぽりさせ、
「どれから答えりゃいいんだ?」
「よし、じゃ1つずつ行くぞ。
なんで、此処に居るんだ」
「散歩」
「ちょっそ底までのおでかけで星間移動すんなよ!」
「いーだろ。人の行動範囲にケチつけんなよ」
「じゃぁ次、爆は何処だ」
「台所で昼飯作ってる」
「で。どうして半裸なんだ」
ある意味核心にせまる質問である。現郎はやっぱり眠そうにしていて。
「あー、さっき水溜りひっかけられちまって、替えの服無ぇし、爆のじゃサイズ小せぇし」
水溜り……なぁ、そうか。なーんだ☆
激はほっと胸を撫で下ろした。
「……まー、オメーが都合よく間違えてくれりゃこれ幸いかと思ってこのまま出てみた」
「おまえ確信犯かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「よく確信犯て言うけどよ、それって政治犯に使うのが正しいらしいな」
「ンな事知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と怒鳴り散らす激の額を、計量カップがコーンと飛んできてぶつかった。
「……いってぇぇぇ……!!」
もの自体は軽いのかもしれないが、かなりの速度で飛んできた上、額のど真ん中に当たったのでじわじわとくる地味な痛さに悩まされた。頭抱えて蹲る激。
「全く。人の家の玄関で何を騒いどるんだ、貴様ら」
「いやぁ、騒いでたのは激だけだぜ」
しれっと言ったよ、現郎。がばちょ、と起き上がると。
そこにはエプロン姿な爆が居た訳で。
「…………」
「? 何をぼーっとした顔を殊更ぼーっとさせとるんだ」
「いやぁ……」
激はへにゃ、と顔を崩し、
「それ、いいなぁ、って思って」
「それ……?」
と一瞬訝しんだ爆だが。激の視線の先が己の姿にあるとわかるとすぐに、足の裏を激の顔にぶつけた。ぐぇ、と蛙が車にひき潰される瞬間にはこんな声を出すであろううめき声を上げて撃沈した。
「……包丁でも投げてやればよかった」
いや、それだと確実に俺死ぬから。轟沈しながら激は思った。
軒先に死体もどきが転がっているのは世間体以前に縁起が悪いので、激の足首を掴んでずるずると玄関まで引きずって招きいれた。常人だったら1日寝込んでいなければならないようなダメージだったが、そこはそれ、一応仮にも仙人なので、ほどなくしてから、うー、と唸りつつも復活した。
「はー、やれやれ」
何がどうやれやれかは知らないが、激は復活した。でもってここが爆の家の中だと判るとよし!ラッキー!とガッツポーズした。彼のようなタイプはほっとくと長生きしそうだが、よくよく命に関わるトラブルに巻き込まれるから諸刃の剣だ。さて。
「……爆ー?」
ここは爆の家なのだから、爆が居ないと可笑しい。うっかり現郎も居るけど。
「起きたかロクデナシ」
ロクデナシ発言されつつ爆登場。もうエプロンじゃなかったので、ちょっと残念そうにしたら爆が拳を作ったのが判った。
「あー、あー、現郎は!?」
どこでもいいから何か矛先を!と求めて激はそんな事を言ってみた。
「俺なら此処だー」
言ってみたらすぐ出てきたので、言わなきゃ良かったと早々に思った。爆はほぼ立ち代りで部屋出ちゃったし。
「……てかお前いい加減上着着ろよ!乾いてるだろもう!!」
「いやー、向こう居ると窮屈な服ばっかりだもんでよー、上半身裸すげぇ楽だわ。うん」
「そのままいっそ太古に還るか、おい」
「冗談だよ。今乾いたから持ってきたんだってーの」
と、言いながらもしょもしょと着始める現郎。
「そいでよ、」
と着終わった現郎が聞く。相変わらず流行も愛想もへったくれもない真っ黒のシャツだが、素材がいいせいか様になっている。
「何」
「オメーは何で此処に来たんだよ、激」
「えっ」
「人の事ばかり訊いてよ」
「………えーと、……爆に会いに?」
「なんで疑問系なんだよ」
「いや、そう改めて訊かれると、なぁ」
気まずそうに頭を掻いてみる激だ。
そんな激に、現郎は。
「重症だなぁ、お前」
「うるせーよ」
全く持ってその通りなので、せめて悪態ついてみる激だ。
「ま、人の事言えねーか」
「ふぅん……って、何をさらっと」
言ってくれちゃってんの、と。
「威嚇するなよ。今の所はぼちぼちだろ。爆のヤツ、オメーの分のメシ用意してるみてーだし」
「えっ、ホント?」
ぱぁ〜と顔が輝く激。
「まーその感情が特別なものか近所の野良猫にえさあげるのと同じ類かは知らねーけど」
「ぅをい」
「生憎敵に塩はやらねー主義なんだよ」
「な、」
「----激」
口を挟もうとした所に、爆が現れた。
「腹減らしてないか。余ったのでいいなら、やってもいいぞ?」
「……相変わらず斜め上から話すヤツだなー」
苦笑する激。
「……うん、でも好きだな」
「何か言ったか」
こっそり言ったつもりだったので、激は聞き返されて本気で驚いた。
「いやいやいや何でも!?あー!腹減ったー!!」
「そんな大音量で主張せんでもくれてやるというのに。さっさと来い」
「はーい!」
よく判らんままに返事をし、ほっと胸を撫で下ろ……してもいいのか?いっそ伝えちゃえば良かったんではかなろーか?
は、と振り向けばやっぱり現郎が居て。
こっち見ていて。
「……何だよ」
「別に」
じゃぁ見るなよ、とまで言うのはちょっと気が引けた激だ。それより今は訊きたい事があって。
「……なぁ、お前」
「んー?」
「……まさか爆に告白したとか?」
「……………」
何故だ現郎。何故返事をしないー!!慟哭する激に対し、現郎はマイペースに。
「……別に、早い者勝ちって訳でもないだろー?こーゆーのは」
「まぁそうだけど。……ってことは言ったのか!?お前、まさか言ったのかー!!?」
「あぁもうさっさと来いと言ってるだろうがー!!」
べぎょるご!!
痺れを切らした爆の蹴りが激に飛ぶ。
とりあえず現時点では未来は判らない。
当たり前の事だが。
<END>
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