文字にしてしまえば、大変呆気ない事だ。
また、パプワがおっきくなった。
「……………」
朝。横にほどよい成長を遂げたパプワ(とても無防備で寝ている)を目の当りにした後、ふいにシンタローは外へ出て、5分後にはびしょ濡れで戻ってきた。何処へ何の目的で何をしたのかは、同じ成人男性として(もうこれ以上成長しないけど)リキッドは黙ってあげる事にした。てゆーかそもそも言いたくなかった。
「おい青玉」
シンタローはチャッピーを起こさないよう、最新の注意を払って青玉を起こした……いや、多分寝てないだろうけど。
『なんだ』
と、こいつは「あの」青の一族の総元締めなんだなぁ、というのがありありと解るくらい素っ気無い返事だ。
「今度はなんでまたこんな事になった」
シンタローさん、目が据わってます……!とシイタケを短冊切りにしながらリキッドは怯える。
『それがなぁ、』
もし、青い秘石に体があれば、顎でもぽりぽりと掻いてそうだ。
『此処最近、特に面白いこともなかったから。
景気づけにちょっとお前でも血迷わせたりさせてみよーかなぁ、と』
「……………」
シンタローを取り囲む空気が変わった。リキッドはそれをいやでも解る。それはとても純粋な殺気である。
「シンタローさん!ボディーはチャッピーです!チャッピーなんですよ!!」
「……わーってるよ……だからお前に八つ当たりするから、ヨロシク」
「……せめてこれで良かったのか最悪なのか断言したかったッス-------!!」
シンタローの力が篭った拳が飛ぶ。
リキッドに。
「おい、何時になったら元に戻るんだ?」
おお、また大きくなったな、と、目覚めて、自分の身体を見たパプワの第一声はとてもさっぱりしていた。さすがというか、少しの事では動じない(全然少しの事じゃないけど)。
『一日経てば元に戻す。それ以上やると体が持たないからな』
あいつの、といつも以上に家事に精を出しているシンタローに向けてこそっと呟いた。
「ふーん、そうか」
簡単な返事だなぁ、とリキッドは苦笑する。自分の形態が変わってしまったのだから、普通ならもっと慌てる。
最も。これが自分の身じゃなくて、他の誰かだったら、きっと違うのだろう。
「よし、それならさっそく散歩に行くか、チャッピー!」
いつもより大分下になってしまたチャッピーに呼びかける。チャッピーは、了解したというように、わんと一声鳴いた。
そして、パプワは歩き出す。以前、大きくなった時ついいつもの癖でうっかりチャッピーに乗った時、潰してしまったからだ。
と。歩き出そうとするパプワの前に回りこみ、チャッピーが背中を向けて座り込む。
パプワが首を傾げていると、チャッピーは背中をぽんぽんと叩いた。乗って、という事だろう。
「でもチャッピー。前みたいに潰れちゃうぞ」
するとチャッピーは、ガッツポーズを作って、大丈夫、任せとけ☆と意思表示をした。
「って、本気で平気なのか?前、すげー思いっきり潰れてたじゃねーかよぐはッ!」
「チャッピー、無理はしない方がごほぉッ!!」
「やかましい」
いらん事を言う外野2人に、回し蹴りと脳天踵落しで黙らせた。
「じゃぁ、ゆっくり乗ってみるぞ」
わぅ!とチャッピーは意気揚々と答えた。
実はこのチャッピーの自信には理由がある。以前ぷちっと潰されてから、合間を見ては筋トレに励んでいたのだ。今は秘石の力だけども、ほっといたらフツーにパプワは成長するのだ。来るべきその日の為に、チャッピーはちゃんと努力をしていた。
そして、思っていたよりも若干、というかかなり早いけど、その成果を見せる時!
「乗るぞ〜」
最初、手を乗せて、ゆっくり確かめるように乗り上げる。パプワは上で胡坐をかくような感じで乗った。いつもの姿勢だと、足が地面に着いてしまうのだ。
で。
チャッピーの努力の甲斐と、パプワがゆっくり乗ってくれたおかげで、前みたいぷちっと潰れる事はなかった。
なかったのだが………
「おいチャッピー。足震えてるぜ?」
(復活)したシンタローの指摘どおりであった。
やっぱりというかなんていうか、一朝一夕の筋トレではそんなに大した結果は生まれないのであった。
「チャッピー、」
「わ、わぅ!!」
気遣わしげにパプワが呼びかけると、チャッピーは歩き出そうとする。
そして。
べしゃ。
4本足でなんとか支えていた所を、1本上げてしまった為に、重さに耐え切れなく、やっぱり潰れた。
慣れ親しんだ潮の香りがする。
それに誘われるように目を覚まし、あぁやっぱり無理だったんだ、と思い返す。
情けない、と耳を垂れ下げていると。
「起きたか?」
と、パプワの声。ふと見てみれば、パプワの膝に乗せられていた。そういや、シンタローも自分と座る時はこうして膝に乗せてくれるな、と思った。
「なんとか乗れたんだけどな、歩くのはちょっと無理だったみたいだぞ」
向き合うように姿勢を変えて、パプワが言う。
「チャッピー、」
と、パプワは続ける。
「ボクはチャッピーに乗せて貰うのがとても好きだけど、それが出来なくたって、チャッピーとはトモダチだぞ」
「…………」
「ずーっと、トモダチだ」
「……わぅ〜」
そのセリフに、うるっと目を潤ませて、チャッピーはひし、と抱きついた。それをパプワも抱き返す。
それに、えぇシーンやなぁ、とこっそり付いて来た大人2人が鼻を啜っていたが、そんな事はどうでもいい。
さて後日。すっかりパプワは元通りになっていた。それはそれで、またリキッドがシンタローのやりきれない感情のぶつけどころになっていたりするが。
いつも通り。食事を終えたら散歩に出かける。
パプワはぴょんとチャッピーに乗っかり、
「行くぞ、チャッピー!」
「ぁおう!!」
パプワを背負って、走り出す。
今はこんなに当たり前の事なのに、そう遠くない未来、これが懐かしい思い出となってしまうんだろう。
それでも。
「チャッピー」
「わう?」
「チャッピーがボクを背負えなくなったら、ボクがチャッピーを背負って散歩するぞ」
「わう!」
それでも、そうなった時でも。
自分達はトモダチなのだ。
<END>
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