透明な雲の中で




 成長して、知識を得て
 そうしたなら確実に何かが失われて

 あの頃の自分は今の自分より何が優れていたのかも
 思い出せなくて



「うわー!!」
 見てるこっちがヒヤヒヤするくらい、天馬は窓から身を乗り出し、空を眺める。
「あー?何かあんのか?」
 何気ない振りをし、聞きだす飛天。
 天馬に喋りかけるのは好きだ。
 帰ってくる返事が好きだ。
 言葉も、その笑顔も。
「おう!雲がスッゲー近いんだ!!」
 どれ、と同じく身を乗り出すと、確かに。
 ぺったりとうす広がっている雲ではなく、重厚な綿の塊のような雲。
 影のお陰でとても立体的に。近くなったと錯覚するのはそのせいだろう。
「今にも届きそうだな」
 精一杯手を伸ばす。
「ンな訳ゃねーだろ」
 微笑ましさの照れでついそんな事を言う。
 ムッ、とする。
「……行ってみてぇ?雲まで」
 飛天の呟きに、天馬は目をパチクリさせ。
 ぱぁっと輝かせる。
「連れてってくれんのか!?」
「まぁ、暇だし」
 キミの笑顔も見たいし。
 なんて本音はまだ、頭も心も胸からも遠い場所で。
 天馬がしっかりしがみ付くのを確認して飛翔する。
 命綱はない。
 落ちたら確実に命を落とす。
 けれど、天馬はしきりに遠くなる大地に凄い凄いと繰り返すだけ。
 視線が下を向いているから、今度は微笑む。
 どんどん小さくなって、まるで地図みたくなる大地が、唐突に曇った。
「飛天、何か変だぞ」
「雲の中に入ったんだよ」
「…………えぇ?」
 きょろきょろと首を回して辺りを見る。
 不満げな声。
「これが雲の中か〜?霧とあんま変わんないじゃん」
 拗ねる。
「……まさか、オマエ、雲が綿菓子みてーに掴めるモンだとでも思ってたのか?」
「……思ってねぇよ!!」
 て事は思ってたんだな、と飛天は核心する。
 空を蹴って、さらに上へ。
 雲を下から見て。
 中を見て。
 それでは上から見て見ましょう。
「うわぁ…………!」
 目の前に広がった、今まで見たことのない景色に、天馬は感嘆の声を上げる。
 雲がまるで大地みたく。
 影の陰影は下からと明らかに違っていたから。
「おーい、あんま身を乗り出すなって」
 信頼してくれてるのはいいが、あまり危険なめには遭って欲しくないのだ。
「だってスゲーんだってば!!」
 オマエはスゲーしか表現の言葉がないんかい。
 景色に魅入った天馬の為、あまり声をかけず、小さな砂時計が落ちるに十分な時が過ぎた。
 伺うように訊く。
「……がっかりしたか?」
「?」
 くるん、と自分を見る天馬。
「雲の中」
 あぁ、さっき自分が文句言ってたから。
「そうでもないなぁ」

 それに、もしかしたら掴める雲もあるかも知ねーじゃん。
 こんなに一杯あるんだし

 そう言って。
 自分を見て無邪気に笑った。



 人の価値観も
 倫理や道徳が変わっても
 どうかキミは
 キミだけは
 変わらないでいてください




 

月瀬様リク!”カイ爆か飛天馬でコンセプトは霧”!
すみません!掲示板でカイ爆やも、ってしっかり飛天馬じゃん!!!
まぁ、”霧”ってので「そういえば雲の中は霧に似ている……」と思い、さてどうやって雲に入ってもらおうか、とすると翼を持ってる飛天の方が何かと都合がいいんで。
こんなんになりました……どうでしょう?