新年と同時に送ろうと思ったメール作戦は、他でもない携帯電話会社から自粛してくれと封じられた。
ならば実際に初詣、とか思ったら。
「僕は冬休み一杯ノルウェーに行きますから」
「………ノルウェー」
に、乗る上ー。とか思わず下らない事考えてる場合じゃありませんよ。
ノルウェーっつったら、えーと何処だ。あぁ世界地図すら覚えさせないくらいテンパった……
とりあえず、初詣行けないのは確かだから、それでいいだろう(何が)。
半屍状態になりながらも、とりあえずデッドに何か言いたいから必死に言葉を捜してみて、
「じゃ、そのなんだ……身体には気をつけて」
「えぇ」
最後の最後までアホなセリフしか吐けなかったという。
今年の冬はいつもより寒い。
デッドが居ないからだ、とかセンチメンタルな事を思っていたが、実際に例年より下回った気温だった。
はふぅ、と溜息になりそこなった呼吸をして、とりあえず郵便受けに行く。これは自分の仕事だ。
「……おぉ、小包だ」
誰宛……って、俺?
誰から……って………
デッド--------!!!!?
その後、どう動いたのは定かではないのだが、部屋に居る、という事は走るか歩くかしたのだろう。膝が痛い。どこかでぶつけたのかも。
ッドッドッド、と心音が煩い。
デッドだ。デッドからだ。読み間違えとか、夢とかいうそんなオチじゃないのは、抓りすぎて痛くなった頬が証明している。
(デッドが俺に………
何を!!?)
すぐに浮かぶのは呪いの藁人形だけど、いやまさかそんな。
そんな筈はあるまいと思っているはずなのに、あぁ蓋を開けるのを躊躇う……
とは言え、開けずに放置するのはもっと怖いから、開けるけど。
「………………」
ごく、と喉を鳴らして。
……なんか、冬の綺麗な朝なのに、此処だけ(自分の机の付近)真夜中みたいだ……
恐る恐る(本当に恐る恐る)開けてみると。
「………パズル?」
思わず口に出たように、箱の中身はパズルだった。白い、無地のピースが入っている。それとA4サイズの透明のパネル。
それと、メモ。
(えー………「正月までに完成させてくださいね」…………
……正月?)
ハヤテ、29日の朝の事だった。
ぼぉ〜ん、と、ふとすれば聞き流しそうな音が聴こえた。
除夜の鐘である。
煩悩を打ち払う108つの鐘の音を聞き、あいつの煩悩は108で終わらねぇよな……とか逃避に走っているのに気づいて気を引き締める。
何せピースが真っ白だから、出来上がるパズルも真っ白で。完成する図に刺激がなくてこれまた眠気を誘った。6割がたは出来た。今日、無理すれば完成出来る。……と、思う。
(……つーか、本当なんだろうな)
表はツルツルとした無地の白で、裏はざらっとしたまだらの灰色。ピースをひとつ手で弄び、何度目の事を思う。
あのデッドが無駄な事をするとは思えないし。……とは言え、自分にはさっぱり意図が掴めないし。
無意識に10まで鐘を数えた後、慌ててパズルに向き直った。
爆に相談したら解るかな。
カイに手伝ってもらえば早く完成するかな。
いやいや。
自分で、やらないと。だってデッドは自分に言ったんだから。
何でか解らないけど。
手にしたピースに、ふと思う。
これも一片一片はわけの解らない欠片だけど、全部集めて並べればひとつのすっきりした形になってくれるもんだ。
デッドの事も同じかな。
もっと一杯一緒に居て、知って、デッドの事が沢山になればちょっとはデッドが解るんだろうか。
そんな理屈っぽいのは抜きにしても、一緒に居たいけど。
「出〜来〜たぁぁ〜〜〜………」
背凭れに全体重を預ける。椅子がぎし、といやな音を立てたが、気にしている場合じゃない。
徹夜して、頭はガンガンするし肩は凝るし。でも、やりきれた達成感は悪くない。
出来上がったのは当たり前に一面真っ白なパズルだ。疑いようの無い。
これは抽象的に何かを表していたりするのかな、としばしぼーっと眺めていたが、やっぱり何も解らなくて。
とりあえず、デッドに見せる為にしっかりパネルに仕舞っておかないと。
のりを垂らして全面に広げ、蓋を被せる。
そんなに大きくないサイズだから、本棚にも仕舞えるな、と持って行こうとした。
その時。
「………えっ?」
ハヤテは完成したパズルを見た。
近くに寄せたり、遠くで見たり。
「え、え、え、えぇぇ〜〜!!」
戸惑いとも関心ともつかない声が、出た。
その日の昼、デッドから電話が掛かってきた。
おう、と普通に出た後に、国際電話だという事に慌てふためく。
「落ち着きなさい見っとも無い」
の、一言で動きは止めたが(動きはね)。
「パズル。完成しました?」
「----した!したともさ!!」
待ってました、とばかりにハヤテは叫ぶように言う。日本とノルウェー。今は電気信号で声のやり取りをしている訳だが、デッドには受話器の向うのハヤテの顔が、実際目の前に居るかのように思い浮かべる事が出来た。きっと、アホみたいに喜んでいるに違いない。
「すっげーな、アレ!裏が表で表が裏みたい、っていうかなんていうか、裏だよ、裏!!」
知ってる人が聞いてもちょっと難解な発言だが、ハヤテが言いたいのは要するに。
件のパズル。表は真っ白なだけだが、裏を返すと絵になっていた。まだらなだけだと思っていたあれが、つまりは図柄だった訳だ。
白いだけだと思っていたパズルが、ふと横から見えた裏には、自転車の横に鎮座するダルメシアンが、モノトーンで渋く描かれていた。
「やっぱあれ、年賀状かわり?犬だから」
「えぇ、まぁ。普通に送ってもつまらないですし」
「つまらないって……… デッドって時々よくわかんねーなぁ………」
「何か言いましたか?」
「い、いや何も!」
今の呟きは、受話器の聴きとめる許容外だったと思うのだが。まぁそれはいいとして。
「まぁー、でも。俺もそういうの嫌いじゃないし、お前のそういう所も好きだなぁ。なんか可愛いっていうかさ」
「……………」
沈黙するデッドに、あれ、俺なんか不味い事言った?と青ざめるハヤテ。
「……新学期の前日に帰りますから」
「あぁ、うん」
「課題写させてあげませんよ」
「……あぁ、うん」
「では」
「あ、じゃあな」
デッドが切ったのを待って、自分も切る。
「…………」
一年の計は元旦にありとかいうけど。
だったら、今年はいい年……かな?パズルを見て、ハヤテは1人笑う。
そして「キモい」とか雹に言われながらどつかれた。
後日。
「爆君………」
「ん?なんだ、デッド?」
至極真剣な顔で訊いて来たデッド。その表情を崩さずに。
「僕って、可愛いのでしょうか……?」
唐突な内容に、少々面食らった。
「へ?……何だ、周りからそんな風に言われたのか?」
爆がそう言うと、デッドはいえ、と低く呟き。
「そんな事言うヤツ、1人で十分ですよ」
と、言った。
<END>
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