パプワの身長は同世代のかなり下にある。それで本人は特に不便だとも思っていないようだが。
本人は。
本人は。
「……なぁ、パプワ?」
「どうした」
食材探し兼散歩の道すがら、シンタローがパプワに言う。
「お前、その身体で本当にいいのか?青玉に頼んでもっと背伸ばしてもらったら?」
「何でそんな事言い出すんだ?」
「いや、まぁ………」
まさか青玉に頼んできっぱり拒否られたから、当人に頼んでもらおうと思いました、とは言えない。
「正直な所、不便じゃねぇの?」
「別に、そんな事は思った事ないな」
あっさり言うパプワ。
だろうなぁーとシンタローは思う。なにせスーパーでスペシャルなちみっ子だもの。ジャンプすれば天にも届く勢いだし、走れば自分より速い。そのうち空でも飛ぶんじゃないだろうか(右足が沈む前に左足を出すという理論を応用すれば、海の上だけでなく空中歩行も出来そうだ)。
「そーゆーもんかなぁ。俺なんて、子供の頃は毎日でっかくなりたくて仕様が無かったもんだけどな」
「そうか」
そのセリフを締めくくりに、とりあえずこの場でこの話題は終わりとなった。
それから暫くして、空の様子が嫌な感じになってきた。
「あ〜……こりゃ、雷も落ちるかもな」
シンタローが見上げて言う。そしてその側から、ドン、と落雷音がした。一瞬、視界が白くなる。
「て事はもーすぐ大雨になるな。パプワ、急ぐぞ」
「よし、シンタロー競争だ!」
「あ、ずりぃぞ!」
シンタローの返事待たずに走り出したパプワに、文句を言いながらも駆けて行く。まさに風のようにと比喩するのに相応しい速度で、しかも2人は風景もきちんと見えている。
だから、エグチくんとナカムラくんが草葉に隠れてしゃがんでいるのに、立ち止まった。
「どうしかしたか?」
シンタローが言う。
「カミナリ……」
「怖いよ、怖いよ〜〜」
震える声で言う。
「ちょうど今から帰る所だから、ウチで雨宿りしていけ」
パプワが言い、シンタローが片手でそれぞれを抱っこする。ひし、としがみ付く2匹。
……そう言えば、チャッピーはどうしているだろう。その光景を見て、パプワはふと思う。
家に帰っていれば、いい。
でもそうでなかったら。
まだ、外に居たのなら。
この2匹みたいに、震えていたのなら。
「…………」
「行くぜ、パプワ。……パプワ?」
走り出そうとしないパプワに、シンタローが訝しむ。
「お前はエグチくんとナカムラくんを連れて行け。
ボクは、チャッピーを探してくる」
そしてまた、返事を待たずに駆け出した。
チャッピーの居そうな場所は全部知っている。いつも一緒に行動していたから。
今は、それが何より喜ばしい。早くチャッピーを見つけ出せる。
シンタローの言ったとおり、大地に打ち付けるような大雨が振り出したが、苦にはならない。
「チャッピー!」
何度か叫んだ時、わう!と答える声があった。それを的確に聞き取り、そこへと向かう。そうすれば、相手の方から自分に寄って来る。
「チャッピー、家に帰ろう」
見れば後ろに穴の開いた大木がある。あそこで、雨宿りするつもりだったのだろう。
濡れて目にかかる毛を払い除けて、一緒に歩き出そうとしたのだが。
その時、また落雷。
「!!」
びく、と尻尾を毛羽立たせたチャッピーは、その場に蹲る。
「チャッピー、大丈夫だ。ボクがついてる」
チャッピーだって解っているのだろうけど、生理的なものなので自分でどうにも出来ないのだろう。
パプワは、何度も何度もチャッピーを優しく撫でてやる。
「…………」
自分は力持ちだから、チャッピーを運べる事は出来る。
けど、さっきのシンタローみたいに、相手を包み込んでやる事は出来ない。
短い腕、小さな手。抱擁するにはあまりに力不足。
そのままの身体でいいのか、と訊かれた。どうでもいいというのは自分の本心だ。大きくても小さくても、自分には変わりないのだから。
でも。
こんな時は。
大きくなりたいな、と。
思う。
また大きな雷が落ちた。
白くなった視界が開けると。
「…………?」
パプワは、歳相応の体つきになっていた。
青の秘石か?と思ったのだが、チャッピーはチャッピーのまま。青の秘石が活動しているのなら、チャッピーにとり付いている筈なのだが。
単体でも動けるようになったのだろうか。それとも、他の何かが関係してるのだろうか。
でも、今はそんな事はどうでもいいのだ。そう、そんな事は。
重要な事は。
「チャッピー」
ぎゅぅ、と大切な親友であり、家族である相手を抱き締める。余すところ無く、腕で包み込み。
いつもより大きな腕や体躯に一瞬驚いたチャッピーだが、顔を見上げてすぐ安堵した。見れば解る。パプワだ。間違えない。
そっと抱きかかえ、チャッピーが雨宿りしていた穴に潜る。いつもは楽に入れるスペースなのに、今は窮屈だ。不思議な感じ。
別に家に戻っても良かったのだが。パプワとしては。
でも以前青の秘石に成長したらシンタローから身を隠せと言われたのでそうしているのだ。
「……プワ、パプワ、」
「…………?」
シンタローの声で、目を覚ます。どうやらあれから昼寝に突入してしまったようだ。
落雷の中なのに、神経が太いというか。それともお互いが一緒だからだろうか。しっかり密着して、まるで団子みたいになっている(いや、まんじゅうかも)パプワとチャッピーを見つけた時、起こすより先に苦笑してしまう。
「雷も雨も止んだぞ。帰ろうぜ」
「言われんでも帰るわい」
シンタローを見上げた時、あれ、と思った。いつもの視界なのだ。
手を見てみれば、やっぱりいつも通り。
「…………?」
「どうした。首なんか傾げて」
「なんでもない。さっさと帰って、おやつにするぞ」
「……自分が帰ってこなかったくせに……」
「何か言ったか?」
ぶつぶつ文句を言うシンタローを、ひと睨み。
「いえ、全く」
シンタローは、慌てて首を横に振った。
2人と1匹は並んで歩く。いつもの光景だが、ちょっと前はパプワはいつもではなかったのだ。
雷がなって、そうしたら身体が大きくなってて。
………雷。
「なぁ、シンタロー」
「うん?」
「お前、前に雷についてなんか言ってなかったか?」
「え、あぁ、雷のでかい音は、神様が降りた時の音っていう言い伝えの事か?」
記憶の引き出しを開けて、答えるシンタロー。
「…………………」
そうか
神様、来てたんだ
隣のチャッピーを見たら、チャッピーも自分を見ていた。一緒に、笑う。
「……で、それがどうかしたのかよ?」
「んー、何でもないぞ。それよりさっさと帰るぞと言ってるだろうが」
「イテ!蹴るなよ!!」
ぎゃーぎゃーと賑やかに帰っていく。
シンタローも勿論大事な友達だけど。
これは、チャッピーとのだけの、ヒミツだ。
<終わり>
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