年の暮れ、ハヤテは一大決心をした。
「デッド!一緒に初日の出を見ねぇか!?」
「嫌です」
ハヤテの一大決心終了。
「仕方ないじゃない。デッドは年越しライブがあるんだから」
「せやせや、頼んだアンタが浅はかやったんや」
「とりあず立ち直ってはくれないか。せっかくの料理がまずくなる」
アリババとルーシーとジャンヌに実に勝手な言葉を投げかけられ、いよいよ部屋の隅から抜け出す力の無くなるハヤテ。背中の羽も張りが無い。
(あーぁ、どうせ解っていたさ……デッドの中での公式は俺<コンサートだってくらい……でも、でももしかしたら、って思ったんだもん……それくらいは許してくれよ……)
と、ハヤテは口には出さず、心の中ではピンクの飛び蹴りが来そうなくらい、鬱陶しくぶつくさ呟いていた。
そんなハヤテの肩に、そっと手を置く誰かが居た。
「解りますよ、今の貴方の気持ち……」
「カイ……」
「私も、一緒に年を越そうとしたら……『予定が無いから約束はつけられん』とにべも無く……」
遠い目で話すカイの目を、つつーと一筋の涙が零れた。
「カイ……!そうか、俺が悪かったよ!辛いのは、俺1人だけじゃないんだな!?」
「はい!ですから、そんな寂しい目は止めて下さい!鏡見てる気分になるんですから!!」
「なぁ、シルバ、あの一角封鎖していいか」
「それより外におっ放り出してくれないかい」
そんなとある暮れの光景だった。
パーティーは夕方で終了。今年は、皆年越しを自分の国で過ごすのだ。
(……俺も、久しぶりに村に顔でも出してみようかな)
爆との一件以来、蟠りは消え、老人は孫のように、大人は子のように自分を見てくれるようになった。子ども達も、お兄ちゃんと呼んで慕ってくれる。
幸せな事だ。
それでも、自分はそれ以上を望んでいる。
(だって仕方ねーじゃん。知ったんだから)
自分にとっての、特別。
ずっと側に居たい。居てもらいたい。
今日の所は、村にでも行こう。
まずはその旨を雹に伝えないと、と自宅へ向かうハヤテだった。
空は空でそれなりに込んでいる。
飛べるモンスターはそこそこ居るし、それを操って移動する者だって居るのだ。
だから、それを避ける為、ハヤテはあえて少し高い所を飛ぶ。
そうすれば、かち合うのは1人だけだ。
「-----爆!」
その1人を見つけ、ハヤテは声を掛けた。目の前を通り過ぎる所だった爆は、それに立ち止まる。
「ハヤテか」
「何だよ、今日、お前も来れば良かったのに。
て、悪い、どっか行く途中……」
引き止めた事を詫びる最中に、ふと気づいた。
この、爆の向かう方角は。
「……サーに行くのか?」
「……まあな」
爆がぶっきらぼうに言う。その頬が薄っすら赤いのは、見間違いじゃない。
「……あー、カイに会いに行くんだな?いいんじゃねぇ、あいつ、寂しそうだったし……」
「何でお前も寂しそうなんだ」
「いや、気にしないでくれよ……」
何だ、俺だけなんじゃん……と孤独を噛み締めるハヤテだった。本当は噛み締めたくもないのに。
「な、最近デッドに会った?」
「この頃になるとイベントが目白押しだから、行っても迷惑掛けるだけだろ」
「そうだよなぁ、だよなぁ」
「……何だ、何を不貞腐れてるかと思ったら、会うのを断られたのか」
爆が少し呆れて言った。
「まーな。初日の出見ようっつったらあっさり断られて」
あはは、と自棄になって笑ってみる。
「…………」
「ん?爆?」
何だか深刻な顔になった爆に、訝む。
「それで、デッドは断ったんだな?」
「へ?あ、あぁ」
何を念を押すのか、と戸惑う。
爆はますます眉間の皺を深めた。
「だったら、貴様はとんでもなく無神経だ」
「は?」
訳が解らない。
爆は淡々と説明する。
「デッドは、以前は呪のせいで朝になれば消えていたんだ」
それくらい知っている、と言おうとして。
「お前は自分を消したものを、敢えて見たいと思うか?」
爆の言葉を訊き、ただ沈黙した。
滞りなくスケジュールをこなし、アンコールを2回。
未だファンからのコールは止まないが、それを背中に受けて退場しよう。
この時までライブだったのだが、ハヤテの姿を見つけたのでデッドに変わる。
「来ていたんですか」
「あぁ。……すげー声援だな」
「そうですか」
デッドがとても普通なので、彼にとってはこれが普通なのだな、と思った。
「それで、その、何だ……えーと……」
無意味な言葉を並べ、ようやく本件に入り込む。
「すまん」
「?」
「よく考えないで、あんな事言って……」
「あんな事……」
「初日の出を見ようって」
あぁ、とデッドが納得する。
「忘れた訳じゃねぇよ。でも、一緒に行きたいって気持ちが先走りして、あの時だけ失念してたんだ」
「それは忘れてたのと同義語ですよ」
ハヤテはう、と呻いて黙る。
「……別に、」
と、今度はデッドが言い出した。
「いいですよ、初日の出見ても」
「うぇ?えぇえええ!いいよ無理しなくても!!」
「無理も無茶もしてませんよ。生憎、過去には拘らない主義なんです。
断ったのはコンサート明けで疲れてるだろうと思ったんですが、まぁ、平気みたいですしね」
「……………」
デッドが多弁だ。珍しい……とハヤテが思う。
他の誰かがこの場面を見れば、それはハヤテがちゃんと想ってくれてるのがデッドに解ったからだ、と解説でもしてくれるのだろうけど、この場には2人きりだったから。
2人はそのまま出掛けるのだ。
その年最初の、太陽を見るために。
<END>
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