とある家にとある2人が住んでいました。
1人の名前は爆。もう1人はカイ。
ごくふつー(でもあまりないかもしれない)の2人はごくふつー(だと強ち言えないかもしれないような)出会いをして、ごくふつー(とは決して思えない)生活をしていました。
ただ、ふつーでなかったのは。
カイくんは、血を見るとウサギに変身してしまう、レパンストロピーだったのです。
そんな訳でカイはウサギになっていた。
『………………』
じっと手を見ている場合じゃないぞ、カイくんよ。
(だって、いきなり交通事故の現場に出くわすなんて、聞いてないです……)
聞いてたらそれは預言者ではないか。
血を見るとウサギになってしまう。幼い頃からのカイの特異体質であった。
小さい時はそれこそちょっとした、紙で切った後に滲む血ですら変身してしまったが、激の元で修行してかたらそんなに過敏に反応する事は無くなった。
が。
過敏でなくなっただけで、心の準備もなしにいきなり大量の血を見せられると、やっぱり変身してしまうのだ。あと、自分で「変身するぞ!」と思いながら血を見ると、少量で変身出来る様にもなっている。
一旦うさぎになってしまったら、うさぎになった時とは違う血を見ないと元に戻らない。これが一番厄介なのだ。最も、今回の場合変身のきっかけになったのは他人の血なので、自分のを見れば戻る事が出来る。逆だと、これが面倒なのだった。誰かの血を求めて彷徨わないとならない。外見が外見なので、必死さが伝わらないのが、また悲しいのだった。
(とりあえず、元に戻らなければ)
爆がこの街の図書館に言ってる間、自分は別行動で買い物をしていたのだ。爆の家にお邪魔している対価に、カイは家事一般を請け負っている。
爆が図書館に行っているのは、カイのこの特異体質を治す手がかりになるようなものを探している為だ。最も、それはカイが居つくためのいい訳なのだが。
カイ自身はこの体質について、諦めてる……というと聞こえが悪いが、何となく、自分はこういうものなんだと悟っているような気がする。右利きの人が居る。左利きの人が居る。うさぎになる人が居る。ならない人が居る。。そんなもんだと思う。
確かに昔はぽんぽん変ってしまって、こんな自分に産まれたのか、と嘆いていたが、今はすっかりそんな気持ちは飛んでいる。ある程度、激によって鎮静化されたのもあるし。
何より。
爆、が。
爆を見ていると、そんな事はどうでも良くなる……と、いうか、それを利用して楽しんでやろう、という気がしてくるのだ。
爆と居ると、自分が好きになってくる。そう表すのがぴったりだ。
とは言え、爆に「もういいです」とは言えない。それを口実に居ついているのだし(多分、爆の中でカイは自分の処遇を嘆き、苦悩している人物となっている)、それに、自分に一生懸命になってくれるのが、嬉しかったりするのだ。
そして何より。
バレた時の爆の反応が恐ろしい。
さて。
幸い、うさぎになった時に落ちてしまった荷物も、そんなに四散してないようだし、さっさと戻って……
と。
カイの視界が上がる。それは、人の姿に戻ったからでなく。
「?」
人に抱きかかえられたからで。
後ろを振り向くと、5歳くらいの女の子が居た。
『…………』
嫌な予感がする。すっごく。
「うさぎさん、見ーつけ!」
『!!!!!』
やっぱりか----------!!!!
『違います違います!!私はうさぎですけど本当はうさぎじゃないんです!人間なんですぅぅぅぅぅぅぅううう!!』
肉体は完全なうさぎなので、声を発する声帯もまたうさぎのものだから、カイの上の必死の主張もうさぎの鳴き声にしかならない。
「みんなー!うさぎさん見つけたよ------!!」
『爆殿、た----す----け----て---------!!!!』
カイの叫びは、誰にも聞かれなかった。
「ん?」
今一瞬、誰かの叫び声が聴こえたような気がしたが、気のせいだろう。ここは静かにしないと怒られる図書館だ。
とりあえず、変身術の書籍を中心に調べてみたが、だいたい家にあるものと似たり寄ったりの内容でしかなかった。
(国立図書館にまで足を運んだのにな……)
国立図書館の名誉に関わるので弁明するが、この場合図書館のライナップが貧相なのでなく、爆の家の蔵書が豊富すぎるのだ。おまけに、爆の家の方には、一般に公開されてない、真の知り合い等のレポートもある。
それでも、と望みを託してこうして来たのだが、空振りに終わってしまった。
(カイの両親は別に変身してしまうような事は無いとの事だし……呪いにしては性質が他のと異なるな。やはり何代目か前の変身術の失敗が、先祖返りみたいに……)
そんな風につらつらと考えていた爆だが、待ち合わせ場所に来て、カイの姿が一向に見えないのが気になった。律儀なカイは、5分前行動を心がけている。今は待ち合わせ時間を10分過ぎていた。
そんな爆に、飛び込んできた会話。
「また余所見運転で事故ですって」
「いやぁねぇ、安心して子供を外に出しておけないわ」
「…………ッ!」
まさか……まさか、カイのヤツ……
交通事故………!!
の、被害者を見てしまってうさぎになってるんじゃないだろうな!!!
爆、予想ぶっちぎりであった。
交通事故の現場に行くと、そこから少し離れた場所にて落ちている荷物に目をつけた。
間違いない。これは、今日、自分達の夕食になるはずの材料だ。
カイが事故に遭った人を見て、変身したのであれば、元に戻るには自分の血を見るだけでいい。だというのに、自分の前にまだ姿を見せないという事は………
「………持っていかれたか」
正確には、攫われたのだろうけど、言い方としてこっちの方がしっくりする。
さぁ、何処から探すか……
何せ、ここは国立図書館のある場所----この国の首都なのだ。
広さは、とても広大だ。
一方、カイはとても手荒な歓迎を受けていた。
「わーい、うさぎさんだうさぎさんだー!」
「ふわふわしてるー!」
「あたしも抱っこしたい!」
『ちょ、ちょっと!耳は掴まないで下さいよ!!』
カイは抗議するが、もちろん誰も聞いちゃくれなかった。
「ほらほら」
大人の声がしたので、カイはほっとした。
どうもカイが連れて来られたのは教会と併合した孤児院らしくて、現れた女の人は修道院の衣装を見に纏っていた。艶やかな黒い髪が肩まで伸びた、20代中ごろくらいの人だ。とても優しそうに微笑んでいる。
「そんなに構ったら、うさぎさん疲れちゃうでしょ?お家はもうあるから、そこに……」
「あーん、あたしにも触らせてよー!」
「えさは!?何食う?」
「名前決めよう!名前!!!」
「……………」
これまた誰も聞いちゃいねぇ。
しかし、シスターはすぅ、と息を吸って。
「こらぁ---------!!!!!」
ピタリ。
静止ボタンを押したみたいに、皆、止まる。
「お家に入れましょうね?」
これまたボタンを押されたみたいに、皆、一斉に頷いた。その必要もないのに、カイも。
お家、といわれたものはゲージだった。まぁ、当然だが。若干大きめなのは対子供用だろうか。
ゲージに入れられ、きょろきょろと見渡す。
「不安なのね、新しい所に来たから」
いや、実は逃げ道探してます……とは、言いたくても言えないのだが。
「今日から、貴方も家族ね」
そう言って、優しく頭を撫でられる。
他にも仕事があるらしいシスターは、それからすぐ部屋を出た。ここには、カイが1人。今は1匹だが。
(とりあえず、ここを出ないと)
このゲージ、四面体になっているので、ここで人間に戻るとちょっと悲惨な目に遭う。
出口は、上でなくて横についている。えさをやる時には、ここを開けざるを得ない。
その時が、チャンスだ。
じ、と待つこと2時間弱。えさの時間がやってきた。
子供3人、係りに任命されたのか、やって来た。
「ごはんだよ、うさぎさん」
名前はまだ決まって無いらしい。どうでもいいが。
そして、チャンスはやって来た。
ガチャ、と開けられた瞬間、文字通り脱兎の如くの勢いでカイは飛び出した。あ、と子供達が叫んだのが解った。
運よく窓も開いていたので、そこから飛び出した。
(よし!)
さしあたって、事故現場に戻るつもりだ。荷物がそのままでなければ、爆はきっと自分の今の境遇に気づくだろう。探され易い場所を見つけて、そこに一旦待ってみる事にする。
そんな風に算段だてているカイに、中の喧騒が耳に飛び込む。うさぎなので聴力はやたらにいいのだ。
「せんせぇー!うさぎさん、逃げちゃったよ〜〜〜〜!!」
「ほらほら、そんなに泣かないの。ね?そういう、運命だったのよ」
「あーん、あーん!」
「うえーん!!
『………………』
………
カサリ。
「あ!せんせい!うさぎさん、居たよ!!」
「あら!本当ね!!」
「わぁ、うさぎさん!!」
ぴょん、と飛び出した子供の腕に、再び抱きかかえられたカイ。
(……きっと、爆殿は探し出してくれますよね、きっと………)
「もう、何処にも逃がさないからね!」
(………きっと………)
時刻は夕方。カイは、空に浮かんだ1番星に、ありったけの思いを込めた。
<END>
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