確かに晴天の夜空の満月はさぞかし綺麗で見ものだけども、たまにはあえて、例えば少し欠けた月を、雲の向こうに朧に見ながらやる一杯も悪くない。
飲む酒は当然自分の一等好きな奴で、徳利は手に馴染む素焼きのものがいい。
薄ら寒くなったこの時期は、そろそろ熱燗が美味しくなってくる。
く、と飛天は酒を一口煽って、暫くその余韻を楽しんだ。
-----あぁ、風情があるってのは、こういう事だよな………
「皆の者-----!!これを見ろ!!」
「きゃー!!ラーメンドンブリー!!男らしぃー!!」
「今から俺が飲み干すぞー!!」
「せいりゃ!!」
「はご!」
ラーメンドンブリに酒を並々注いだ火生に、飛天は石を投げつけた。
「ったくお前はー。人が日本の秋をしみじみ感じてる後ろで何馬鹿な事やってんだよ」
「えー、そんなー、いつもなら旦那が真っ先に暴れてるくせにー。ずるいっすよ。協定違反っすよ」
こいつ、絡み酒だったのか、といつもは一緒になって酔っ払ってたから知らない事実に気づいた飛天であった。
「そーよー、飛天様、酒は楽しく飲まなくちゃv」
いつもなら飛天に意見なんてあまり言わないくせに、そんな事を言う静流も酔っている。
て事は無事なのは凶門だけか……と思ったら、グラスを握り締めて遠くを見詰めている模様。はやり酔っていた。
無法地帯、という4字熟語が渦巻く。
まぁ、ここまで羽目を外しているのも帝月が不在、というのが一役買っているのだろう。何だかんだで術者とその使い魔だ。それなにり気を使う事もあるんだろう。一応。
と、言うかお目付け役が居ないから、という簡単な理由が1番かもしれないが。
そーいえば。
ここまで無秩序に酔っ払いだけで満たされた空間で。
「おい、天馬はどうした」
「任せて下さい、旦那。ばっちりです」
自分のあの問いでどうして答えにばっちりという単語が出るのかが不思議だが、酔っ払いに正論を求めるのが無理ってものだ。飛天はそう考え収めた。
で。
火生がばっちりという天馬は。
「ふえぇぇ〜、天井回ってら〜〜〜」
「見ての通り大人の階段登りっぱなしです」
「お前、締めて殴って転がすぞ」
おそらく火生か静流あたりに飲まされたらしき天馬は眼を回していましたとさ。
確か人間というものは寝るときに、”布団”なるものを床に敷く筈だ。
天馬に暫くの期間憑依みたいな事になっていた飛天は、その事は知っていた。
天馬から通じて見た記憶を頼りに押入れを開け、布団だろう物体を発見した。ばさ、と片手で適当に広げ、もう片方の腕で抱いていた天馬を降ろそうと。
したのだが。
「おい…………」
起きている、と言っていいのだろうか。眼を薄ぼんやり開け、でも手はしっかりと飛天の着物を持って離さない。
「眠いんだろ?なら寝ろ」
俺の手を離せ、と言う。少し力を込めた眼で睨んでも、天馬はびくともしない。飛天は、それが不思議でたまらない。
「綺麗なんだよなぁー…………」
「あ?」
ぽやん、とした笑みで言う天馬。
「あんさ、月が出てるとさ。飛天の髪の端っこがキラキラ見えて、めっちゃきれーなんだぜ」
眠気が勝ってきたのか、発音が段々とあやふやになって来た。
「あーぁ、ミッチー居ねぇなぁー……楽しいのに……」
と、言ったのを最後に天馬は眠りについてしまった。飛天の膝の上で。
「……………」
別に。
このまま布団の上に寝かせて、下に戻って月見酒の続きしても、全く構わないのだが。むしろ、その方がいいんだろうけども。
たまには、こんな月見。
月色の子供を独り占め。
<END>
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