こんなにも平和な日には、つい夢想してしまう。
それは、あの時自分の星が敵に侵略されなかったら、”現在”はどうなっていたのだろうか、と。
まず……真が居て、姉がそれの妻として横に立っている。護衛として腕を振るう必要のない現郎は、寝てばかりで真にでも怒鳴られてるだろうか。
そして。
そう。
爆、は。
歳の差は、多分7歳。自分の時間が止まったりとかして、正確な事は不明だが。
まぁ、7歳で産まれたと仮定して、すると爆が2歳で自分は8歳。3歳の時は10歳だ。思いっきり当たり前だが。
そのくらいになると、爆の世話役は自分にも回ってくるだろうか。多分、真も姉も多忙な日常だと思うし。
現郎は……まぁ、2人のサポートについてもらう方向で。
(3つの爆か………)
身長なんてとても低くて、もしかしたら腰くらいまでしかないんじゃないだろうか。
そんな爆を抱っこしてあげたり、おやつを一緒に食べたり、お風呂も入ったり同じベットで寝たり。
その内親より自分に懐いてしまって、「しょうらいえんとケッコンする」とか舌足らずな発音でそんな事言われてしまった日には、うーん、もうどうしよう。
「死ねよばか」
タメなしでザックリ日本刀をためらいもなく炎に下ろした雹だが、悔しい事に炎はひょいとお除けになられあそばれた。
「お前の挨拶は相手に日本刀を振り下ろす事なのか。それはいい。実は俺もそうしたかった」
「煩いよアホ。天気のいい真昼間から、妄想にとりつかれた表情で窓の桟に肘をかけてないでよ。うっかり夢で見そうな光景だったじゃないか!」
得物を構える炎に、雹も臨戦態勢にかかる。この2人が会って、何も無かった事がない。
それの後片付けは、全部自分なんだろうな、とチャラが悟って諦めた顔で花瓶を磨いている。
キィンガシガシと鍔迫り合いをしながらも、口での喧嘩も止めない2人。器用と言うか。
「どうせまた妙な事企んでたんだろう!爆くんに薬飲ませたりかがせたりして気を失わせたところでベットに運んであれやこれや、うわ!なんてヤツだ地獄に堕ちろ!!!」
「それはお前だろうが!
俺は単に、小さい爆はそれはもう可愛いだろうな、と想像してたに過ぎん!!」
だから、堂々といえる事じゃないって、炎様。
「それについては僕も賛同だけど、お前が思う事は許さん------!!」
「何でだー!!」
ガキィン!と一層強くぶつかり、その威力で一旦離れる2人。
「まさか炎!そんな髪型で小さい爆くんに懐かれるとでも思ってるのか!?」
「か、髪型は関係ないだろう。髪は」
その割には動揺してますね、炎様。
「よーし、それじゃ白黒はっきりつけてあげようじゃないか!君を選ぶか僕を選ぶか!?
丁度爆くん今小さいし!!」
「望むところだ!………って…………
何だと-----------!!?」
ワンテンポずれて、雹のセリフを聞き取った炎の絶叫が、響いた。
此処は何処だ。こいつは誰だ。
てな表情てソファに座っているのは、紛れもなく、爆。
ただし、外見というか、身体的に年齢は雹が言うとおり小さくて、だいたい2つくらい。
「………とりあえず……訊くべきなんだろうな………
どういう事だ。これは」
「僕編集の爆くんのアルバムが作りたくてさぁ〜。
でも、今と未来の爆くんを収める事は出来ても、昔は無理だろう?
って事でちょっと時間を取って若返らせたんだ。
あぁ、ちなみに爆くんの時間はこの風船の中に閉じ込めてあるから、これさえ割ればいつでも戻れるよ」
「………それは、GS繋がりというネタか?」
果たして誰が解ってくれるだろうか。
ひとまず、炎は、今は爆の前だから、って事で雹をこの世から抹消させる事を踏みとどまった。
「さ、爆くん」
ソファにちょこんと乗っている爆に、優しく呼びかけた。
「僕とこの変なおじさんと、どっちが好きかな?」
「待て。今のおじさんは血縁という意味ではないだろう」
「平気だよ。ここで重要なのは実年齢じゃなくて見た目だから」
「……………」
今胸の奥でふつふつと湧き上がる、冷たくも滾る何かが殺意なのだろうと、炎は感じた。
一方、小さい爆はきょとーんとした顔で2人を見やる。
次いで、むぅ、と眉を顰める。その仕草は、まさしく爆そのものだった。まぁ、当たり前なんだが。
と、その時。
「おやつだみょ〜。もー、雹様、勝手に出られたら困るみょ」
何でか今日のチャラはナマモノ使用だった。それはそうと、おやつ、という言葉に爆が敏感に反応する。眼なんて、とてもキラキラしている。
嫌な予感の過ぎる2人。
「おやつは、チョコレートのプリンだみょ〜」
爆はソファから降りて、プリンを持ったままふよふよ浮かんでいるチャラの足を掴んだ。
「みょ?」
爆が、言う。
「こいつが、いちばん好き」
ガツ、と金タライが落ちたような衝撃が、2人を襲った。
さて。
そんなふうにちょこっとめげてしまった炎様だが、爆を元の姿に戻さねば!という使命に気づいたので爆の時間が閉じ込められているとかいう風船をめぐり、雹と壮絶な死闘を繰り広げた。
結果、炎は目的を成し遂げた。
あとは、これを割るだけ。
「………………」
あと一回、小さい爆を見ておこうかな、と。
風船を持ったまま、炎は爆が居る部屋へ向かった。
こんこん、と控えめにノックしたのは、寝ているのでは、という配慮の為だ。
案の定、爆はベットの上ですやすや寝ていた。
「……可愛い………」
思わず、口に漏らしてしまった炎様であった。
(そうか、爆は小さい頃、こんな風だったんだな……)
雹の目論見の産物とは言え、やはり見れた事が嬉しい。
まして炎は、何事もなければ、それを近くで見れた立場なのだから。
まぁ、そんな事は考えてもしかたない。失った過去は勿体無いが、それを上回る今と未来があるのだから。
軽く頬と額にキスをしてから、風船を割る。
炎が割ると、そこから盛大な煙が湧き上がり、炎の視界をも遮る。それが晴れたら、炎の目の前で寝ているのは、いつもの爆だった。
んん、と小さく呻いて、爆が起きる。直後で、ぼや、としているような爆に、炎が言う。
「おはよう」
「……何で、寝ていて……?」
「まぁ、色々あったんだ。色々」
言葉を濁す炎様。
「そうか……にしても、随分変な夢だったな……」
「ほう、どんな?」
「小さい頃の夢……の、筈なんだが、炎が居るんだ。しかも雹も居て、チャラも居るんだ。
なんだったんだろう………」
「……それは、おかしな夢だったな……」
それは実は現実なんだよ、というのは残酷だと思う。
ふと、炎が呼びかける。
「なぁ、爆…………」
「何だ?」
「………いや、何でもない」
「……?おかしなヤツだな」
本当は、自分と雹とチャラと、どっちが好きか、と尋ねようとしたのだが。
いくらなんでも、格好悪いから、止めた。
<END>
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