アンニュイな僕





 岩場にて、腰を降ろしている羽を携えた少年1人。言うまでも無く、ハヤテである。
 ハヤテには悩みは数え切れない程ある。多くは同居人の服装の趣味であるが、それよりもっと重要なのは。
(デッド………だな)
 初対面、瀕死になるまでベロベロのボコボコにした相手である。思い返せば、懐かしいようなつい最近のような。
 ともあれ。
(そんな相手に、告白されてもなぁ〜)
 自分がその立場だったら、どうだろう。
 性質の悪いジョークで済ますか、次に会ったら徹底的に無視するか。いずれにせよ、嬉しくないバッドエンドだ。
 やっぱり、ここは胸の奥にそっと秘めておくのが得策だろうか。
「そんな、勿体無いですよ。折角の感情ですよ?相手に伝えないで、なんの為のものですか!」
「……………ちょっと待て、色々訊きたい事をまとめてるからな」
 突如沸いて出たカイに言ってもない意見を言われ、ハヤテはこめかみを押さえた。
「……何で、ここに?」
 とりあえず、ベターな質問を。
「貴方は適当に飛んで腰を落ち着けただけかもしれませんが、ここは私の家の30メートルばかり東に寄った所です」
「…………………」
 あ、本当だ。小屋らしきものが見える。
「そして私はおつかえ帰りで、自宅付近で岩に乗っかったまま微動だしない人物を強制的に撤収させようと近寄ったら、ハヤテ殿だった訳で。えーと、ここは私は自分で『説明くさいセリフだな』とか言った方がいいですか?」
「……て事は、お前の足元の漬物石大の岩は」
「はい、これでガツンと」
 即死するじゃん、と心でつっこむハヤテだ。
 危うく、命を落とす所であった。この世界には、感傷に浸らせてくれる場所すら、俺に与えてはくれないのか………
「別にこのままスルーして帰ってもいいんだけどよ。なんで俺の考えてる事が解ったんだよ」
 そんな事思ってない、と否定しても良かったのだが、それも面倒になってきたハヤテはそう言う。
 そのセリフに、カイは自嘲気味に笑う。
「……似てましたから。以前の私に」
「……………」
 ハヤテが、少し目を見開く。
「……だって、お前は今は……爆にべたべた手ぇ出しまくって、この前集まった時に様々なサブミッションを連続で食らってたじゃねーか」
「えぇ、最後のチョーク・スリーパーは危うくオチかけました」
 しみじみと頷くカイ。
「今でこそ、絆も信頼も芽生えている私たちですが、初対面は----正直、まだ私の中では、笑える思い出にはなってません。自分の未熟さに、ただ恥じ入るばかりです」
 懇々と語るカイに失礼と思いながらも、ハヤテは絆や信頼の意味について、深く考え込んでいる。それがある者同士が、あんな格闘技お披露目ショーをするものだろうか、と。
「私は最初----爆殿を爆殿とは見ずに、ただ「炎の後継者」とだけしか見てませんでした。挙句に一方的に決闘申し込んで………」
「負けたのか」
「そんな問題じゃありませんでした。戦うまでもなく、爆殿は私より強かった。それだけです。
 その時から、ようやくですね。私が爆殿を「見た」のは」
「………………」
「ようやく見れた相手が、どんどん大きくなって、ついには自分の心全部になってしまったみたいで。
 でも、あんな出会い方した自分だから、こんな想いは迷惑だろうって、ずっと仕舞いこんでいたんです」
 同じだ、とハヤテは思った。
 ちょっと不本意かもしれないが。いや、物凄く不本意かもしれないが。
「……で?お前は、どうやって伝えたんだよ」
 不本意だが、藁にも縋りたいハヤテはアドバイスを求める。
「そうですね、あれはいつかの集まりの時………
 師匠にジュースだと騙されて酒を飲まされた時に」
「ストップもういいもうそれ以上喋るな」
「何故ですか!ここからが盛り上がる所なのに!!」
「盛り上がる方向が問題だろーがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 ハヤテはここでようやくカイに相談を持ちかけたのが何よりの間違いだったと気づいた。
「まぁ私が言いたいのはですね、持ってしまったものは仕方ないって事ですよ」
 その言葉に、ハヤテはどうしても開き直った非行少年しか思い浮かべられない。
「それに、一度盛ってしまったら、その後、何をどうやったって、消えようが無いんですから」
「…………」
「なにより気持ちいいですよ?両想いって」
「…………………………」
 あー、せっかくしんみりしてきたのに!!
「………ま、お前の言う通り、この先俺はずっとこれを抱えたまま、生きるんだろうな」
「そうです」
 カイが無責任なくらい、とてもあっさり頷いた。が、今はそれが結構嬉しかった。
「どうせなら」
 ハヤテは立ち上がり、流れる風を全体に感じる。
「うじうじして生きるより、楽しく生きたいよな」
 昔の自分が見たら、今の自分をなんて贅沢で傲慢なヤツかと思うだろうか。前は、生きるという事すらままならなくて、誰かを想うとか、そんな余裕もなかった癖に。
 でも、そんな世界は変ったんだ。
 だから、自分も変ろう。
「今日ってアイツ、コンサートだっけ?」
「……さぁ、どうでしたっけ」
「いいや。とりあえず行くわ」
 羽ばたこうとして、あ、それから、とハヤテは下方のカイに言う。
「今度爆も、集まりに引っ張って来いよな。礼とか、色々言いたいから」
 そうして羽ばたいて、相手の居る世界へと向かう。
 その背中に石(さっきの)が飛んできたのは、ハヤテのセリフを勘違いしたカイからのものであった。




<END>





ハヤデだ!デッドいないけど!!
原作設定でなんとか踏ん張ってみました!うん、あんま変わりない?

だってデッド出すとノリがオレンジに……!てかカイがすでに薄腹黒い……!!今まで1番かもしれん……!!
この後の予想としてはデッドに無事告白出来たか出来ないか、っていう話ですが。
出来ないくさい。ハヤテだから。
君にはアンニュイな表情がお似合いダヨ(ひどい)