新学期が来て、夏休みボケもようやく治ろうかという時期に。
カイがハヤテに問う。
「ねぇ、ハヤテ殿」
「ん?何だよ」
「私って……そんなに腹黒いでしょうか」
ゴズ!!!
「何故、机に頭をぶつけるんですか」
あまりにもあまりな事に、ハヤテは上手い例えも思い浮かばなくてただただ沈黙して突っ伏した。
「いや……まぁ……じ、自覚はあったんだな」
「自覚というか、あまりにもデッド殿が言うものですから。
私は、そんなつもりじゃないんですけどね。ただ、ちょっと事がスムーズに進むように手回しをしているだけで」
それが腹黒いっつーんだよ、とハヤテは心で呟いた。
それでも、カイはちゃんと爆を大事にしているから、「悪い人」というものにはならない。おそらく、デッドはそこが一番気に入らないのだろうけども。
「他人にいくら腹黒いとも計算高いとも言われても、なんでもないんですけどね。
でも、爆殿がそーゆー風に思ってたりして、嫌われたりなんかしたら………ッツ!!」
その恐怖に身悶えるカイだが、ハヤテにしてみれば今更なんじゃないかな……(遠い目)である。
「で、冷静な第三者からの意見を伺いたいんです。私は、そんなに腹黒いでしょうか?」
ハヤテはうーん、と悩んで、
「……正直に言って、殴ったりしねぇ?」
「する訳ないでしょう」
カイがきっぱり断言したので、ハヤテは安心して言った。
「うん、お前腹黒い」
ドゲシ!と蹴られた。
全く、ハヤテ殿も失礼な。私の何処が腹黒いというんですか本当に!!
カイは密かにぷんぷん怒りながら。
「ちょ………、カイ!!」
「はい?」
爆にちょっかいかけていた。
場所は人気のない階段の踊り場。しんとした空気が辺りを包む。
「やめろ、馬鹿!こんな所で!」
爆はハヤテと違い、ボタンはしっかり留めている。が、今はカイの手により、鎖骨が見える程に開かされていた。
「だって……最近、体育祭の準備が忙しくて、休みでも滅多に会えないじゃないですか」
「それは、そうだが……」
「好きな人に触れたいって気持ち、解ってくれますか?」
「……まぁ………一応………
でも!こんな所でなんて冗談じゃないぞ!」
「じゃ、爆殿の部屋ならいいですよねv」
「いい訳ありますか」
ごがげん、と手近にあった消火器をカイの頭部にぶつけたのは当然デッドで、何時の間に此処に、という質問はした傍から虚空に散る。
「貴方と来たら……ハヤテに相談してちょっとは己を省みたかと思えば」
これも当然、何でデッドが知っている、という質問はした傍から闇に沈む。
復活したカイは、訴える。
「好きな人が近くに居て、どうして襲っちゃいけないんですか!」
ごずん。
「……そんな不道徳な発言を、堂々としないでください」
連続した凶器攻撃にちょっぴりカイは堪えそうになったが、くじけない。
「ですから!何度も言うように私達は両想いなんですから、当人同士の問題に口を出さないでください!ねぇ、爆殿……って、あれ、爆殿?」
振り返っても隣を見ても、そこには誰も居なかった。
「爆君なら、帰りましたよ。さすがに校内で及んだのはまずかったんじゃないでしょうか」
「…………………」
ぴゆ〜とカイの背後に木枯らしが吹く。
「これに懲りて、少しは素行を改めてくださいね」
うぅぅ、とぐうの音も出ないカイだった。
だって、そりゃ手も出したくなるさ。
当初の予定なら、この時点で爆とはしっかり結ばれてる予定だったのに。
……やっぱり、4人部屋で取ったのが間違い……そもそも、皆で旅行したのが間違いだっただろうか。
でも、よく考えれば、旅先の勢いに乗るよりも、互いのどちらかの部屋で及んだ方がいいはずだ!(マインドコントロ−ル中)。
でも、どっちかの部屋って言っても……
「カイー、メシはまだか」
「……師匠が、長期に渡って放浪するか、入院すればいいのに……」
「俺は旅人か病人になるしか選択肢がねぇのか?」
ぼそ、と言った言葉でも聞き逃さない激である。それが自分の事なら尚更。
「別にー。何でもありませんよー」
ちょっとだけ不貞腐れた感じを出して、夕飯の支度に取り掛かろうとするカイ。
「まぁ、俺もお前が欲求不満でイライラしようがムラムラしようが関係ねぇけどよ。
この前の旅行で初体験に及ばなかったからって、八つ当たりは止めろよな」
ゴ!と激の言葉に激しく壁に頭を打ち付けるカイ。
「な、な、な、な………!!!」
「何でンな事知ってっかって?ばーか、お前の態度見りゃ誰でも解るってーの」
そして激は、はぁーあ、全くおこちゃまはこれだから困りますね、ってな表情で溜息ついた。
「しかし、俺も鬼じゃねぇ。お前が事に運ぼうというのなら、謹んでこの家から一旦身を引こうじゃねぇか」
「いえ、私、最初は爆殿の部屋がいいです」
「へぇ」
「そんな大切な日に、盗聴器の有無の確認を家中にしたくないですからね」
「…………………」
ちっ!
「あ、今舌打ち!舌打ちしましたね!?」
「違ぇーよ。歯に昼の鶏肉の繊維が挟まってたんだよ」
「師匠、昼は刺身だったって、さっき言ったじゃないですか!!」
「俺は過去に捕らわれない主義だ!」
「訳解りませんよっ!!
あーもう、私が薄腹黒だの神○スマイルだの言われるの、全部師匠のせいですよ!」
「そーやって面と向かって責任押し付ける自分を、なんと思うよお前は」
「だって、師匠がいつも………ッ!」
カイのセリフが途絶えたのは、携帯電話にメールが来たからだ。この前買い換えたので、今度の機種は相手によって着信メロディが変えられるものだ。爆のものだと、一発で解った。
爆殿だ!と表情を暗から明に瞬時に変え、メールを確認する。
「……………」
「おい、何て来たんだよ」
カイの背後に寄る激。
「……今度あんな真似したら、絶交ですって………」
カイは律儀に答えてやっていた。トホホ、という効果音をつけながら。
激は、そっと合掌した。
やっぱり、ちょっと性格治したりしたほうがいいのかな、と思うカイ。
しかし、デッドは、カイの薄腹黒っぷりを、何とかしろとは言うけど、治せとか変えろとは言わない。
人間、自分から逃げられないという事を、デッドはとてもよく解っているのだった。
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