メシを無言で平らげ、散歩、と一方的に告げて外に出る。
部屋の中にはパプワとチャッピーと。
余計なのがもう1人。
ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁ。
胸クソ悪い!
この悶々とした気持ちを誰にぶつかればいいのか!!
胸の中を台風みたいにごうごうと渦巻かせ、シンタローは倒した「それ」をゴ!と踏む。
「おい……出くわした早々、いきなり必殺技ぶっつけやがって、どいうつもりだ……」
「それ」が踏まれたまま呟いた。
「気にするな。八つ当たり以前の単なる暇つぶしだ」
俺様め……!!と侍が呻いたけど、シンタローにとってはどうでもいい事だ。。
「こんな所でうろついてんのが悪いんだよ。ここまで来たんならさっさとリキッドのヤツでも引っ張ってどっかの茂みに連れ込めよ」
「出会いがしらに攻撃食らったあげくに犯罪推進されて……今日は厄日か……?」
「るせーな。だいたいおまえ腹が立たないのか?リキッドがパプワに付きっ切りでよ。しかも出会う前から4年もだぜ、4年も!!」
親指以外をズビ!と立てて解り易いように示す。
それまで暴行犯の被害者面だったトシゾーの表情に、余裕が見えた。
「なるほど。何をイラついていると思えば、そんな事か」
「……何がだよ」
と、睨むのは、彼にしては珍しく虚勢というものだった。
「お前。リキッドに嫉妬してるな」
ぐっさり。
「………っ、そ、そんな事はねぇよ?」
「思いっきり致命傷の音が聞こえたような気もするが」
胸を押さえてぜはぜはしているシンタローであった。
「ふ、しかし貴様も度量が少ないな。あんな小さい子がじゃれついている程度、笑って見守る事くらい出来ないのか」
余裕綽々の湯船にどっぷり浸かりながら、トシゾーは言う。
シンタローは、ちょっと溜息を付いた。
「そりゃーお前はそれで将を射るするなら馬を狙えよの要領でリキッドに取り入れる事が出来るけど、俺は全然だからなぁ。気になって仕方ねぇよ」
「…………」
目論見が全部見抜かれたトシ様は、とりあえず黙っておいたとさ。
別に。
解っていた事だけど。そんなのは。
でも、目の前で実際にああやられるとなると。
「前のが美味しかったな」
「腕は上がってるだろ?」
「最初が酷すぎたんだ」
「わう」
「うぅ、チャッピーまで………」
”前”とか”以前”とか”最初の頃は”とか。
どれも自分が含まれて居ない。
それは酷く分厚い壁になって。
手が、伸ばせない
なまじ手の届く場所にあるから余計いらいらするんだ。
ちょっと離れて頭を冷やせば……
冷やせば………
「………冷えねぇよ!」
そもそもここは常夏だ。直射日光を浴びたらもれなく茹る場所で冷えるも何もないだろうが!
また何かで気を紛らわそうとしたが、あいにくむっつりな侍は今度は通りかかってくれなかった。チ!
とはいえ、むやみやたらにパプワ島を傷つける訳にもいかない。
仮初とは言え、模したものだ。
昔は、この島を護る為に自分は戦って。
そんな自分の為に、パプワは、姿を消した。
何も言わないで。
「……………」
この出会いが、ずっと続く訳じゃない。いつかは、確実に終わる。もう、すぐ其処まで来ているのかもしれない。
だというのに、こんな、気持ち。
自分が嫌になりそうだ。
「……はぁ〜ぁ、」
がっぷり。
アンニュイに息を吐いたシンタローに。
チャッピーが齧り付く。
「あだ---------!!?」
「人がメシを食ってる時に勝手に出るとは、躾がなってないゾ、シンタロー」
「そうッスよ、シンタローさん」
リキッド登場に、最下層にあった機嫌がさらに奈落の其処にまで落ちる。
「おやつ作りましたから、帰りましょうよ」
と、リキッドが人の良さそうな笑顔で言った。
「……………」
シンタローはそれには答えず、パプワの肩を両手でぐわしと掴んだ。
何だ?と2人と1匹が首を傾げる前で。
「パプワ」
「何だ?」
「もし。明日で地球最後の日を迎えるとしたら!
この家政夫と俺と、どっちと居たい!?」
……………………
びょごぉぉぉぉと眼を横線にしたリキッドとチャッピーの背後でブリザードが吹き荒れる。
「シ、シンタローさん……」
そりゃ2人の事は、ちょっとだけだけど知っている。そのちょっとだけでも、2人がお互いを凄く大事に思っているのが解って、ずっと一緒だった自分を快く思ってないのは知っていたけど。
いくらなんでもそれはないだろう。
いい年こいた総帥が。
しかも表情がすごく真剣だ。
なんと言って終止符をつければよいのなら、リキッドが頭を抱えていると。
「皆と居るぞ」
大人の複雑な事情なんて気にしないパプワが、けろりと告げる。
「ダメだ。どっちか1人」
「なんでそんな事になるんだ」
「なんでったら何でも!」
「やかましい」
ずばごん、と至近距離であったがために、額にパプワのパンチが激突した。痛さに悶えるシンタロー。
「ボクは皆と居るぞ。明日で地球が滅びようが魚が空を飛ぼうが、昨日も居たから今日も居て、明日も居るんだ。解ったか」
「は〜い………」
まぁ、ある程度こうなるとは解っていたけれども。
「……とりあえず。その皆の中に俺も居るんだよな?」
「当たり前だ。誰がメシを作ると思う」
「はいはい………」
「”はい”は一回!」
「はい------!!」
びょっと飛んできたチャッピー(噛む為)を見て、シンタローは慌てて言いなおす。
あの調子じゃ、気づいてないだろうな、とリキッドは思う。
(今、パプワ、最後はシンタローさんの料理が食べたいっていったのに………)
ぎゃいぎゃい騒ぎながら、2人と1匹が家へ帰って行った。
賑やかしく、楽しそうに。
<END>
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