「ねぇねぇ、アニキ〜」
顔は少し似てるが、性格は真反対と言ってもいい弟が、先ほどから粘る粘る。
「『爆君』に会わせてよ。いいじゃん、弟なんだしさ」
「………………」
これがカイやハヤテだったら、あっさり呪い行使して撃退してるのだろうが、はやりそれは阻まれる。
何だかんだで、兄弟だと、自分でも思っているからだろうか。
今日、デッドは大変うっかりしてしまった。
弟は興味心身で、それは兄の交友関係にまで及ぶ。
今は、先ほどとても仲が良さそうに電話で話をしていた、『爆君』の正体を突き詰める為に情熱を注いでいる。
「……ライブにも、だめです。他の方なら紹介してあげますから」
「それって、いつも話してる薄腹黒の事?嫌だよ、関わりたくないよ」
きっぱり拒絶するライブだった。
同時刻、カイはくしゃみした。
「でも、そんなに内緒にするって事はとってもその子が大事なんだ〜。アニキにしては珍しい〜♪
これは、弟としては、何としても把握しなくちゃだよね!」
好奇心100%が何を言う……と、デッドはこっそり嘆息する。
「大丈夫だよ、アニキ。傷つけたりはしないからさ」
悩む兄に、その元凶の弟が肩を叩いた。
(さて、と)
ライブは考える。先ほど、聞きかじった内容で、相手の素性をある程度判明させようとしているのだ。
(「学校で」とか、「放課中に」とか出ていたから、相手は同じ学園の人だよね。
話し方からみて、どうも年下らしいし………)
見た目、軽いライブだが、考え方は論理的だ。
(あ、ていうか、”ハヤテ”って言ってた!て事は、知り合いだよね!)
ハヤテの事は知っている。
いつか、忘れ物を届けに来たのだ。
ちなみにその忘れ物、デッドの物じゃ無かった、という情けないオチがついたが。
「………これは、案外早く解るかもねーv」
にやり。ライブはとても、兄に似た笑顔を浮かべた。
同時刻、ハヤテは寒気に襲われた。
おや、とハヤテは珍しい顔を見つけた。
デッドの弟の、ライブである。
「やほー、お久しぶりでーす」
「あ、あぁ………」
ライブとの初対面に、自分は失態を繰り広げたので、どうも態度が硬化する。あの後、デッドが何も言わなかったのが、辛かった。いっそ笑い飛ばしてくれればよかったのに……と、そんな過去こそどうでもいい。
「んで。何か用か?」
此処はハヤテの通学路。自分に用が無いのであれば、居る筈も無かった。ライブは、通っている学校も違うのだから。
「うん、それでさ。『爆君』って知ってる?」
知ってるも何も、自分の悪友に好かれてしまった子羊である。運命の悪戯で、何故だか両想いだが。
「あー、知ってるぜー」
「やっぱり!僕は日ごろの行いがいいなぁー」
うんうん、と何の事やらさっぱりなハヤテを置いて頷くライブ。
「その子、僕に紹介してv」
「はぁ?何でまた」
「だってさー、この前、アニキがとっても仲良く電話で話してたんだもん。弟して、気になる相手だろー?」
なるほど。そーゆー事か。
……それにしても。
(……爆には教えてるんだな、番号………)
教えて貰ってないハヤテは、行き場の無い視線を遠くへ飛ばした。
「て事で、会わせてくれないかな?」
「あぁ、いい……」
と、言いかけて。
ハヤテは思い出した。悪友の、薄腹黒を。
そいつは普段人畜無害な皮を被っているが、爆の事となると策を選ばない理不尽魔人となるのだ!
そんな相手の承諾無く、爆を紹介する……
危険だ。あまりにも危険だ。
実際、ハヤテは爆絡みの事でカイに半殺しにされかけた事も、多々った。
「い、いや、それは出来ねーな」
「えー、何でだよう!!」
不満たらたらなライブ。ハヤテは、いかん!呪われる!?と危機を感じたが、これは弟なのだ。セーフセーフ!
「だって、爆にゃ恋人が居るから、そいつの許可無く会わすってのは、ちょっと問題が……」
「恋人って誰さ」
「んー、カイって言ってな……」
「あぁ、あの薄腹黒」
どうやら、カイはデッドのご家庭内の話題に上っているよーである。内容が想像出切るので、あまり、羨ましくない。
「……て事は、素直に言っても、会わせてくれなさそうだなー……
やっぱり、ここは内密に」
「じゃ、俺は協力は出来ねーぞ」
敵の敵は味方。
ハヤテがカイと戦っている時、デッドは味方についてくれるが、今回のケースでその見込みは薄そうだ。
「僕さ、アニキの弟なんだよね」
何を当たり前の事を言い出すんだ、と思うハヤテ。
「アニキの小さい頃の話とか、聞きたくない?」
「!!!!」
是非聞きたい!!しかし、身の安全が………!!
「でもって、小さい頃の写真とか、欲しくない?」
「!!!!!!」
是非欲しい!!しかし、命の保障が………!!
「あと、会わせてくれたら、色々アニキの事とかで便宜図ってやってもいいよー♪」
「!!!!!」
まるで、季節はずれのサンタのように自分の欲しい物を与えてくれるライブ。
が、はやりカイとデッドの存在が、そんなハヤテを押し止める。
仕方ない……かなり勿体無いが、幼少のデッドは諦めよう……
改めて拒否の言葉をしようとした時。
ふと、思った。
「……なぁ、これで俺がだめだ、っつったら、どうすんだよ」
ライブは、にっこりと笑って言った。
「アニキとの事、上手く行きそうでも徹底的に邪魔してやるv」
「…………………………」
目の前に居るのは、サンタなんかじゃない。
むしろ、契約書を持ってきた悪魔だ。サタンだ。
あはは、自分でも上手い事言ったなー……
さっきより、いよいよ遠い目になるハヤテ。
そんなハヤテに、「崖っぷち」の言葉が、よく似合った。
<続く>
|