つまりは、単純だ。
自分の恋を護るか友人の恋を護るか。
友人のを取った場合、自分の恋の未来は無く。
しかし自分のを取った場合、命が無くなる。
(お、俺逃げ場ねぇぇぇええええ-----------!!)
頭抱えて地面じたばたしたいハヤテだ。それも出来ないくらい、今の彼は硬直している。
一体、何故自分がこんな目に遭うのか。ものすんごい今更だが、思わずにはいられない。そんなお年頃のハヤテ。
----そういや、昔こんな謎かけ見たな、処刑最後の言葉で本当の事を言ったら苦しみなくギロチンで、嘘を言ったら火あぶりだ、っつーやつ。そいつは最後に「自分は火あぶりになるでしょう」って言ったから、結局どっちも実行されなかったっていう………
「へー、これが爆君なんだー」
酷な現実から逃げていたハヤテに、自分の携帯電話を弄っているライブの姿が飛び込んだ。
「あああああ!それは!!!」
ライブが見ていたのは、カイと爆のツーショットである。
何だってハヤテの携帯にそんな画像が入ってるかというと、カメラ付きに変えた時、試し撮りの被写体を探していたらカイが爆抱き締めてヘイ!てな感じの視線を送ったので、無視したら後で俺、暴れると思ったハヤテはそのまま素直に取ったのだった。(ちなみに当たり前の事だが、その後カイは爆に殴られていた)
あの時の自分の意思の弱さが、まさかこんな形で蘇ってくるとは………!!
「ん、顔は可愛いねv。僕、気に入ったなー♪」
ライブは1人ご満悦になり、携帯をハヤテに返した。
「今日はもう帰ってるだろうから、明日また来ようっとv」
そしてららんたららんたと帰っていった。
その暫く後、どっちの最悪に転がるんだとしても、せめて自分で選びたかったー!!!というハヤテの血の叫びが道路に響いた。
今頃は、カイは放課中だな、と、爆は遮られて見えない校舎の方角を見た。
中等部は高等部と時間割が違う。勿論、下校時刻も違うのだ。
「ねぇ、爆。今日は一緒に帰るのよね?」
ピンクがやって来た。ピンクは家の方角も同じだし、そもそも近いので初等部から一緒によく帰っている。
そんな彼女は、勿論後からひょっこり出て、自分から爆を掻っ攫っていってしまったカイを、当然快く思っていない。
それは、向こうも解っているだろう。何せ初対面で飛び蹴り食らわせたから。
自己中心気質かと思いきや、意外と健気な爆は、時間帯の違うカイを図書室で時間を潰し、待っているのだった。
勿論、毎日ではないし、むしろ毎日になんかさせないのがピンクの勤めだ。
そんな訳で、今日は爆と下校である。やったぜ、ピンク!デッドも拍手で褒めてくれるだろう。(2人は顔合わせ&協定結び済み)
「新しいアクセ欲しいなー」
自分の髪を弄りながら、ピンクが呟く。
「……何か、東門の方、騒がしくないか……?」
この学園には校門と呼べる物が3つある。
正門が1つに通行門が2つ。当然、近年の不法侵入者への対処はばっちりで、しかし利用する人には親切なセキュリティを行っている。東門は、通行門の1つだ。爆が通る所でもある。
爆が言う通り、確かに其処は騒がしかった。
と、言うか、騒がしくなる一歩手前という所だ。
誰かが皆の確証を持たせれば、もっと煩くなるだろうという、そんな感じ。
門の外、塀に凭れて、誰かが立っている。濃いサングラスが人相を隠し、けれど目を引く明るい色彩を持っていた。
「あれ、あの人………」
「知り合いか?」
ピンクが、その人物を見て言う。
「知り合いって言うか………」
ピンクのセリフが途切れたのは、その人物がこっちに来たからだ。ざわめきが、波紋のように広がり移る。
相手は、明らかに爆に近寄ってきた。
「こんにちわv」
彼が声を発した事で、さらにざわめきが大きくなる。隣のピンクは、確信に変えたようだ。
「僕、ライブっていうんだ。デッドの弟、で解ってくれる?」
と、言ってサングラスを取る。途端に、沸き起こる歓声。
「……ちょっと、場所変えた方が良さそうだね」
2人に静かな場所を尋ねるライブ。
ピンクが周囲を威嚇し、爆が近くの公園に案内する。
東屋で、ピンクが興奮して爆の肩を揺さぶる。
「ライブ!やっぱりライブよ、爆!!!」
「貴様、やっぱり知り合いなんじゃないか」
「違ーっう!そうじゃないわよ!!」
根本的な事がズレていると、ピンクは説明し始める。
「ライブはね、ギターソロで大活躍中で、今インディーズの中で一番輝いているアーティストなのよ!!」
「インディーズって………何処かの洞窟で、大きい球が主人公向かって転がってくる………?」
それはインディー・ジョーンズだ、爆。
「インディーズっていうのは、プロデビューしてないグループの事だよ」
ライブがより丁寧に説明した。
「それより、デッドの弟と聞いたが……・?」
「ああ、うん。そうだよ」
にっこり。自然な笑みで言う。
MCではたいがい自分は笑顔だ。何故なら、皆がそれを自分に期待するから。
それは別に苦痛じゃないけども。
(なんか……この子の前だと、ふつーに笑えるなぁ……)
あの、どちらかと言えば人付き合いの薄い兄が、拘る訳だ。
「デッドに弟が居るなんて、知らなかったな」
「そうね、あたしもライブに兄弟が居るなんて、今知ったわ」
「ま、あんまりそういう事は開かしたりしないからね」
両方とも、と肩を竦めるライブ。普通の人がやると鼻に付く仕草だが、ライブがやると様になる。
「でも、そう言われると、似ている所もあるな」
と、不躾にならない程度に爆が顔を覗きこむ。
「んー、大胆だね」
「?」
爆が、そのままの姿勢できょとんとする。
「言ってなかったけ?僕、君に会いに来たんだよ」
言ってませんよライブさん。
が、マイペースさがウリと言ってもいいライブは、そんな事実も気にせず。
爆の顎に、手をかけた。
きゃーとピンクが小さく声を上げる。
「何……?」
「とりあえず、お近づきのシルシ、って事で」
ライブが、顔を近づける。
そして。
「何してるんですかぁぁぁぁぁあぁああああああ!!!」
今までの流れ無視して、カイ乱入。
「出たわね!道徳外生命体!!!」
ざ、とピンクが臨戦態勢に入る。おばーちゃんから習った体術は飾りじゃないのよ!!
密着寸前のライブと爆をベリリと剥がし、カイはピンクに言った。
「ピンク殿!どうして私の時は攻撃して、今は止めないで傍観決め混んでるんですか!!!」
「あたしがライブのファンなのと、アンタが気に食わないからよ!!」
付け入る隙の無い毛嫌いっぷりだ。
「ちなみに、私がここに来たのは表の騒ぎを聞いて、何だろうと思ってた所にハヤテ殿が昨日の事を話してくれたからです!」
このメンバーじゃ、まともな質問は来ないだろうなーと思ったカイは、自ら説明し始めた。しかし、それじゃ此処まで来れた説明にはなってないぞ、カイ。
ハヤテは、何も知らさずにバレた時の恐怖を考え、自分から言い出したのだった。とりあえず、一発殴っといた(事の発端になった写真は、カイが撮ってくれと言ったものです)。
「ライブ殿……でしたね」
「うん」
「でしたら、お兄さんから訊きませんでしたか?爆殿には、私と言う恋人が居るんだという事」
「全然訊いていない」
ハヤテからは訊いたが、デッドからは全っっっっく訊いてないのは事実だ。
「居るんですから、ちょっかいかけないで下さい」
完全否定されたカイだが、気にせず爆を抱き締める。「離せ馬鹿者!」と腕の中で爆が暴れる。
「何でー?ちょっかい掛けられただけでやきもちなの?心狭いなぁー」
「心が狭くても嫉妬深くても独占欲の塊でも、嫌なものは嫌なんです!!」
きっぱりと言い放った姿勢の割に、なんて内容の情けなさだろうか。
「……未来なんて、誰にも解らないよ」
唐突に、ライブがそんな事を言い出す。
「ね、爆君」
爆に近づくが、カイがそれを頑なに拒否する。
カイの腕に埋もれた爆に、ライブは言った。
「いつでも、僕の事、好きになってもいいからねv」
「へ………?」
「!!!!!!!!」
「きゃーv生告白ーvv」
4者4様の光景。
ライブの言う通り、未来はどうなるか解らない。
が。
この後、ハヤテが、カイに追い掛け回される事は、決まっていた。
「貴方が!貴方が教えるから------!!」
「教えた訳じゃねぇよ!勝手に見られたんだよ!!
てか、アレお前が撮れって言ったんじゃねーか!!俺は何も悪くねぇ!俺は無実だぁぁぁああああ------!!!」
ちなみに。
別に協力した訳じゃないので、ライブからは何の特典も貰えなかった。
こーゆーのを、踏んだり蹴ったりといいます。
<終わり>
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