「やっぱり、このままじゃいけないと思うんです」
と、言い出したのは、カイ。
彼の言う”このまま”とは、バイト先の客達等が、よりもよって一緒によく居るからという理由でデッドをカイの恋人だと勘違いされてる所だ。
授業と授業の間の10分の放課。
デッドも移動教室ではないので、階段横の廊下で作戦(?)会議。
「でもよ、爆は放かっとけ、みたいな事言ったんだろ?」
いつぞやの自分のアドバイスが効いてるのかなーと、ちょっと自己満足に浸ってみるハヤテ。
「確かに口ではそう言ってましたけど、ガラス細工のような繊細なあの心を、今頃しくしくと切なく痛めてるんだと思います。いや、私が思うのだから事実です」
カイは凄い自信だ。あまりに凄いので、ハヤテは何だか怖くなってしまった。
「だって!」
カイは続ける。
「先ほど殴られた頬の痛みが、もう消えてるんですよ!?いつもなら、丸一日続く筈なのに!!」
「……そーいや、痣、いつもより薄いな」
物凄く冷静に納得してしまったハヤテだ。
「そんな訳で、デッド殿」
それまで話を大人しく聞いていた(と、言うか相手にするのも面倒だったのだろう)デッドに言いかける。
「私、今度爆殿が来た時皆様の前でキスでもいっちょかまして誤解を一掃しようと思いますので、その最中及び後に呪いを掛けないで下さいね」
「不可能です」
無理ではなく、不可能と来たデッドだ。
「何故ですか!デッド殿は爆殿がこのまま哀しんでいるのを、放置するんですか!?」
「この件に関しては僕も何とかしたいと、あれこれ手法を画策している最中なんですよ!」
がなり立てるカイに、デッドも声を荒げる。ハヤテとしては、その考えてる手法が、違法よりも人道に敵ったものである事を、祈るばかりだ。
「そんなまだるっこしい事をしなくても!私が本当は爆殿が恋仲だと宣言してしまうのが、一番手っ取り早いじゃないですか!!」
「それが嫌だから、こうして僕も悩んでるんじゃないんですか」
最もなデッドのセリフであった。
しかし、現実問題として、事実(カイの恋人は本当は爆)を知らさずに事態を解決するのは、かなり難しい。
カイは一番手っ取り早いと言ったが、それしか方法が無いと思われる。
ならば。
「じゃあさー………」
ハヤテが、とっても控えめに挙手する。
「何ですか、ハヤテ」
「えーと、カイと爆の事を知られるのが嫌なら………
俺と、デッドが、
…………………
すいません、何でもありません」
あっけなく引っ込んだハヤテに、まだ、呪ってないのに、と呟いたデッド。
じゃぁあのままもうちょっと続けてたら、俺呪われてたのかよ、と。
それを確かめる術は、無い。
次の土曜日。
何の解決策も設けないまま、バイトを迎えてしまった面々。
意見が平行線……というか、互いの意見が相手を潰していると言った方がいい。
その場には勿論ハヤテも居るのだが----彼に質問や提案をする権利は、無いに等しい。権利の前に彼にその度胸が無いのだが。
ハヤテは街をひとり歩く。巻き込まれてる事態が事態なので、今擦れ違った人たちも、何か悩みを抱えてるのかな、と感傷に浸ってみる。
間違った事実は、訂正するに限る。
そりゃ、たかが噂だし、放っておけば消えるものだけど……
その間中に思ったり感じた事は。
(消えないんだよなぁ………)
バイト先のカラオケ屋は、ビルの3Fから6Fを占領している。
下の1.2Fは、ゲームセンターだ。入り口から入ってすぐに、エレベーターがあるので、それで上の階まで行くのだ。
通り縋ったゲームセンターの騒音も、ハヤテは煩いとも思えなかった。
一応、休憩時間というものは設けられている。
が、あくまで一応だから。
カイは今、上の階へドリンクを届けに行っている。パーティーの2次会の団体さんで、ざっと10近くのグラスだが、激の修行をこなしたカイにとってはへっちゃらだった。むしろ、ハイになっている客達をあしらう事の方が大変だと言っていた。
そんなカイにごめんな、と心だけで詫びて、ハヤテはパイプ椅子に腰掛けた。
束の間の休息。そんな言葉が、今の自分にはぴったりだ。
と。
ふと、見知った人影を見た。
「爆?」
「……あぁ、ハヤテか」
何度も来ているのだが、爆にこんな所は似合わないな、と思うハヤテだ。
「カイはな、今上の階まで飲み物届けに行ってるよ。
こっち来るか?」
「でも、”関係者以外立ち入り禁止”と……」
「ロッカーも何も無い物置だから。他のヤツらも皆入れてるぜ?」
爆は室内をざっと見渡し、確かに見られたり他者が入られて困るようなものは無さそうだな、と入った。
「……なぁ、爆」
「ん?」
「いや、あのな……お前さ、……あー、何と言っていいのか………」
「カイとデッドの事を言いたいんだろう?」
さっぱり先に進まない話に、爆が促す。
あっさり言われてしまい、ハヤテがちょっと止まる。
「まぁ、な……で、」
じ、と失礼にならない程度に爆を見据えて。
「お前、平気なのか?」
「あぁ、平気だが?」
たかが噂だろ?と言う爆に、嘘は無いように思えた。
嘘は無いが……それだけでも無いだろう。
「噂に関しては、別にいいんだけどな………」
ハヤテが上手い事、どうすれば爆の本心を傷つけずに聞けるだろうか、と(無い)頭を捻ってると、爆の方から言い出した。
デッドもカイも、爆の事には躍起になるから。
言い出す相手に、自分がいいだろうと思ったのだろうか。
「ただ……オレは、カイと並んでも、あまりそういう風に見えないのかな、とは、思う……な」
まぁ、これこそどうでもいい事だけどな、と。
爆はとても普通に笑ってみせた。
さて。カイが戻ってきた。
「いや〜、中年のご婦人のパワーは凄いですね……」
しかも、すこしやつれて。どうもどこぞの婦人会の団体だったらしい。それは強烈だ。
「よー、爆が来てるぜ」
と、休憩所を指差すハヤテ。
塩を振られた青菜みたいだったカイが、日を浴びたひまわりのようにぱっとなる。
「爆殿〜vvv…………をずッ!!!」
喜び勇んで爆の元に向かうカイが変な呻きで止まったのは、デッドが髪を引っ張ったからだ。
「デッド殿………」
「そんなにがっつかないで下さい。見っとも無い」
髪を掴んだまま、そういうデッド。
ハヤテは、その光景をぼんやり見ていた。
……何も知らない人が見たら、この様子が恋人同士のいちゃつきに見えるんだろうか。
まぁ、2人とも、見栄えがする方だし。そんな2人が並んでいたら、勘違いするだろうか。
でも、だ。
カイは爆が好きだし、デッドは……まぁ、自分が好きかどうかは解らないが。
(……だいたい、2人とも誤解されてるってのに、何でそう話しするんだよ……)
何か、胸がムカムカしてきた。
そして、さっきの爆の笑顔を思い出して。
何がきっかけだったのかは、自分でも覚えていない。
ハヤテは目の前の2人を置いて、休憩所に戻る。
表の喧騒は聞こえない。それ以外の音の方が、大きいから。
「ハヤテ………っうわ!?」
其処で座っていた爆の腕を掴み、引っ張っていく。
「だから、どうしてそういつもいつも邪魔するんですか!」
「貴方にもう少し常識があればいいだけの話しですよ」
話している2人を目に入れた途端、爆の雰囲気が少し変わったのが、近くのハヤテは解った。
そして。
カイからデッドを引き剥がすのと、爆をカイに押し付けるのを殆ど同時にやった。
「っ、ハヤテ殿、何をするんですか!」
その行為は結構乱暴で、爆が胸に飛び込んだ時、どんという衝撃がした。
カイはそれで我に返れたのだが、ハヤテに突き飛ばされた爆と、ハヤテに抱き締められているデッドは、状況が飲み込めないと、呆然としている。
「カイ!お前な!!」
ハヤテは怒鳴る。
「爆が好きだってんなら、デッドにちょっと呪われるくらい無視したらどうなんだよ!毎回毎回あっさり引き下がりやがって!!」
いや、引き下がらないと命に関わるだろう、と誰もが(仕掛けている本人すら)思ったが、それを今のハヤテには言えない。
「て言うか!」
ハヤテは腕の中のデッドをぎゅう、と抱き締め。
「俺はデッドが好きなんだから!お前らが2人で話すとムカつくんだよ!デッドに何か話しかけたいんなら、まず俺にいいかどうか訊いてからにしろ-------!!!」
「………………………」
「………………………」
「………………………」
沈黙が、室内を占めた。
誰かが何かを言い出す前に、ハヤテが我に返り、青ざめた。
バ!と両手をホールドアップみたいに挙げる。
「い、いや、これは……ッ、だな、つまり、何ていうか………」
「……ハヤテ殿」
に、とカイが笑って言う。とても薄腹黒い笑みだ。
「デッド殿に話しかけたいのですが、いいでしょうか?」
「………っつ、つ!!」
言葉にもならないとは、今のハヤテの事だ。
「だめと言わないんなら、いいって事ですね?
では、デッド殿」
今度は、デッドの方を見て。
「貴方が止めても、私はやりますから」
「……………」
これも否定しないのを肯定として、カイはまだ事態の飲み込めない爆を連れて行った。
早速誰かに爆の事を訊かれたのか、「私の恋人ですよ」と言うカイのセリフがおぼろげに聴こえた。
今、此処に居る2人は、明と暗だった。
当然、明がカイで暗がハヤテだ。
その後、爆を自慢すると共にデッドはただの友人だという事を触れに触れまくったカイは、解決出来た爽快感で一杯だ。
20人程に紹介した後、ようやく戻ってきた爆から照れ隠しに蹴りを腹部(バイトの事を鑑み、顔は避けたものと思われる)に貰ってそのまま帰ってしまったが、それでも誤解を取り除く事は出来たのだ。当初の目的は果たせたといえよう。
明日が楽しみなカイと対象に、明日が来るのが怖いのがハヤテ。
「俺……俺は、何故あんな事を………」
ぶつぶつとそんな事を繰り返す。
だって、何とかしなきゃと思ったんだ。
このままじゃ、自分も爆も、何か大切なものがぐずぐずと崩れてしまいそうで。
「……絶対、怒られる………」
「怒られるならいいじゃありませんか☆もしかしたら消されるかもv」
「それは励ましてるつもりか!?それとも止めか!!?」
「すいません、私今ちょっとハイになってるので、抑制が効かないんです」
だったら黙ってくれ、とカイの幸せそうな横っ面をぶっ飛ばしそうな拳を押さえるハヤテ。
「や、こんにちわ」
と、乱丸が来た。今日、彼は夕方から入り深夜まで続く。
「こんにちわ、乱丸殿」
「……よー………」
同一空間に居る2人が、どうしてもこんなに纏う雰囲気が違うのか、かなり気になった乱丸だ。
ともかく。
「今、表に”恋人”が来てるけど」
「え、爆殿はさっき帰りましたけど………」
帰ったというか何と言うか。
「いや」
と、乱丸は言う。
「そっちの方の」
と、言ってハヤテを指差した。
<続く>
|