皆と居る時が特別で、一人で居るのが当たり前。
当たり前だから、辛くない、悲しくない、寂しくない。
----一人でも、平気。
居ない。
が、爆の頭の中を占めた単語だ。
久しぶりに訪れて来たその家には誰も居なかった。
誰も居ないが、生活臭は漂うし、うっすら人の気配もある。
と、なると、入れ違いになった可能性が高い。
さぁ、どうする、と爆は考え----近くの椅子に座り込む。少し軋んだものの、自分をしっかり受け止めた。
当てもない一人旅だ。待つも待たないも、何の支障も来たさない。
待つだけ待って、そうじゃなくなったら発とう。
会いたいなら早く帰って来い、と勝手な事を呟いて。
此処はこの国で一番高い所にある----という事は、一番過酷な所にあるという事だ。
だから、人の気配はこの小屋以外に微塵も感じられない。居るのは野生の者だけだ。しかしその気配も、遠巻きに僅かに感じられるのみ。
今日はパートナーの聖霊もドライブモンスターも置いてきた。正真正銘の一人、である。
たった一人の室内。僅かに音を立てていくのは、姿無き風だけだった。
ひとりでただぽつんと、居て、それでもこんな心を穏やかにしている自分を、昔の自分が見たらどう思うだろうと、爆にほんの僅か笑みが浮かぶ。
誰かと居るのが、嫌だった。
でも、それは。
本当は、その後、ひとりになってしまうのが怖かったから。
ひとりで居る方が多いのに、ひとりが怖くなったらどうするの?
だから、防衛手段として、人と関わらない。人は誰かと一緒じゃないと生きられない、という事に必死に目を背けて。
そうした結果、一人旅も出来た。当然、聖霊というパートナーが居たからでもあるが。
そのあと、同行者も出たが、拒む事はわざわざしなかった。
自分は強くなったから、孤独にも打ち勝てる。----そう思ったからだ。
しかし。
同行者の一人は騒がしく自己主張が激しく、疲れたと言っては最後尾に回り、町だとはしゃいでは先頭に立つような、そんなヤツだった。
そうして、もう一人は、ある意味対照的だった。
自己主張なんて言葉は遠くにあり、何をするにしても自分の意見を伺い、また常に気にかけていた。
歩く場所はいつも同じ。少し、後ろ。ほんの少し後ろ。決して並びもしないし、それ以上離れもしなかった。
そんな位置なので、何か言おうと振り向けば、何でしょうか、と声が返る。しかし、時の経過と共に、それは顔の覚悟を僅かに傾けるだけになった。
たった、そんな些細な事で。
相手の事が解るようになった。
戸惑った。
そんな存在が居る事に。そんな存在になった事に。
----彼が傍に居なくなった時の孤独は、どれ程のものなんだろう----
未知の恐怖に震えた。
来ないな。
次に爆を占めたのは、このセリフ。
何だかんだで、結局会いに来たのだ。
外で何処かで風が吹いて、樹がそれを受け止め、音を立てる。
それが子守唄となって、爆の眠気を誘う。
ここ最近、未開の地へ踏み込んでいたため、深い眠りはなかった。それが原因だと思うが。
夢うつつに部屋を見ると、今にもどこからか「あれ、来てたんですか?」と相変わらずの敬語で出迎える姿が見える。
そうなのだ。
彼と離れて旅をして、思うのは「居ない」という事より「居た」という事だけ。
居ない寂しさより居たという事が勝っていて。
その時、ふと思った。
居なくはなるけど、その時。
居た、という事までは。
一緒に消えはしないんだな、と。
それが身近な人だったのであれば、尚の事。
よく考えれば、可笑しな話だと思う。
ひとりになる怖さを教えた人が、ひとりで居ても平気にさせてくれているなんて。
いや、あまりそうでないのかも。要はカードの裏と表みたいなものだ。
そんな事を考えている内に、寝てしまったのだと気づいたのは。
爆殿、という穏やかな声に、揺り起こされた時だった。
<了>
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