勝利の女神の微笑の先



 目の前には、ドア。
 此処はとある宿。
 しかし、ただの宿ではない。激にとって、ここはかなり意味のある場所だ。
 そう、なぜなら爆が泊まっているのだ!
 爆に一人で会いに行くのは、並大抵の事ではない。
 誰かが必ず邪魔をする。
 それを激は、偽の情報を流す事で対策を立てた。今頃、爆を狙う輩は全く見当違いの場所へ行っている事だろう。
 会ったら何を言おうか、何をしようか。
 歩きながらだったら鼻歌を歌いかねないご機嫌さでドアノブに手を伸ばす。
 が。
 ガッキ!
 それを、棍棒が遮る。この棍棒には覚えがある……というか、これを獲物にしているヤツは、自分以外に一人。自分の弟子だ。
「……カイ」
「……そうはさせませんよ、師匠」
 ここはとある宿の一角。
 その場所に、あまりにも似合わない闘気に殺気が篭る。
「オメーには確か西の方へ使いに頼んだはずだが?」
「何だか異様な胸騒ぎがして、師匠の気配を追ったんですよ。テレポート使っても、残留思念が痕跡となりますからね」
 ちぃ、いらん実力つけやがって!と、激は自分教えた事を忘れて憤る。
「ここ」
 と、ドアを見て。
「爆殿が居るんですね?」
「さぁ、どうだか?」
「とぼけなくても良いですよ。師匠が色々画策飛ばすのは、それしかない、って私が一番良く知ってますので」
 強い意志を込めて言うカイ。
 それを見て、激は惚けるのを止めた。
「へぇ、そこまで解ってんなら、大人しく引いてくれるんだよな?」
「冗談言わないで下さい。それだったらわざわざ来る筈もないでしょう」
 それだけ言い、無言になる2人。
 最初にとったのはどちらだったか、2人は間合いを測る。勿論、目の前のコイツを倒す為!
「くたばれ馬鹿弟子が--------------!!」
「下克上だコノヤロ-----------ッツ!!」
「煩いぞ貴様ら!!!」
 ゴバンバキギャ!!
 カイは開いたドアに、激は爆の拳に。
 それぞれ、倒れた。




「で」
 ここはもう宿ではない。何処かの野原である。
 そこで、腰に手を当てた爆に見下ろされて正座している師弟2人。額と後頭部に瘤付き(額はぶつかった時ので後頭部は倒れた時の)。
 爆の双眸はただえさえ、内面の強さがにじみ出ているものだから、やましい事があったり怒られたりしていると、その視線がとても痛い。
「一体何の騒ぎだ。しかも宿の廊下で」
「爆が此処に居るのが解ったから、会いに来たんだよ」
 何で俺がこんな目に、と言いたげな顔で呟く激。
「じゃあなんだあの乱闘寸前は」
「この弟子が俺の邪魔するから〜」
「邪魔とは何ですか!私は犯罪を事前に防いだだけです!!」
「犯罪ってなぁ何だ!犯罪ってのは!俺は純粋にだな!」
「……でしたら、ノックせずにドアを開こうとしたのは何ですか……?」
「くッ……細かい所を……!将来ハゲるな」
「やめて下さいそんな事を額見て言うのは!リアルさ増すから!!」
「やーい。ハ〜ゲ、ハ〜ゲ」
「そういう師匠こそ、こんな我侭三昧してると今にボケが始まりますよ!?」
「ボケたぁ何だ!だったらオマエ、ボケの弟子じゃねーか!」
「そういう子供っぽい切り返しは止めて下さい!」
「そこまで」
 ガゴ!ゴズ!と2人の頭に拳が炸裂する。ししゅぅぅぅぅ〜と2人の頭から湯気が昇る。
「どうしてそんなに仲が悪いんだ。師弟だろ?」
「……爆殿が、いけないんですよ」
 ぽつり、とカイが言う。
「爆殿が、はっきりしないからいけないんです」
「そーだそーだ、俺とカイのどっちが好きなんだよ」
 カイに激が援護射撃をする。こんな時だけ息がぴったりだ。
「……待て、何時から二者択一の話に変わったんだ………?」
 強引な話題転換に頭が痛くなる爆だ。
「いいか。そういう事は、どっちがどっち、なんて決めるものじゃないだろうが。
 それしかない----そういうものだ」
「ほーぅ、中々伺った事言うじゃねーか。実体験か?」
「え」
 と、呟き、爆は黙り。
 次いで、何処か遠くを見て頭を振った。そして、そんな一連の動作を終わった後、頬は心なしか赤かった。
『……………』
 師弟は互いに顔を見合わせた。
 どう見ても、爆のあの反応は、激にああ言われてふいに浮かんでしまった顔に、何であいつが、と自分を誤魔化しているようにしか見えない。というか間違いない。
「爆……?」
「爆殿………?」
「な、何だ」
 爆がセリフを噛んだ。これは、動揺している。
(誰だ、爆の心を占めるアンチクショウは!解り次第闇に葬ってやるぁ!大丈夫!その後の爆の心のケアは俺が受け持つ!!)
 てな事を激は思い、口調を変えてカイも思っていた。何だかんだでやはり師弟だ。悲しいくらい師弟だ。
「なぁ、おい、爆。一体誰………」
 と、激が問いただそうとした時、横でひゅぃ、と空気の摩擦する音。瞬間移動の音だ。
「よー、何だ、こんな所に居たのかよ」
 寝起きみたいな間延びした口調。実際、寝ていたのかもしれないが。
「現郎!」
「おー、激じゃねぇか。……何で、野原の真ん中で正座してんだ?」
 確かに事情を知らない人が見たら、今の自分はちょっと滑稽だ。
 それは置いといて。
「お前、何で此処に来てんだ?」
「いやー、ちょくちょく此処に来てるぜ?て言うか、爆に会いにだけどなー」
「何で爆に!」
「炎様」
「なるほど、解った」
 たった1つの単語で全てを理解出来た激が凄いのか、そんなにも解り易い炎が凄いのか。
「つー訳で、爆。元気かー?」
 寝る子は育つ。この諺が正しいのかは知らないが、現郎は時の籠から解放された時からぐんぐん伸びた。雨後の竹の子みたいに伸びた。
 爆の身長差も、最初の頃より増えた気がする。
 だから、その爆に背丈を合わそうとすると覗き込むような形になる訳で。
 それが、今の爆には。
「------ッツ!」
 声は出なかったが、顔の色が教えてくれた。
 ば、と爆は下がる。現郎が何だ?という顔でそれを見た。
「………っと、ぁ………っ」
 言葉にならない。まさにそんな感じだ。
「ッツ!」
 言葉が詰まると共に染まっていく頬。その色が限界だ、と感じられた頃、爆は何も言わず瞬間移動してしまった。
「……何だぁ〜?ま、いいけど」
「いいって、何が」
「何処行ったかくらい、解っから」
 ----ある意味、それが最終通知みたいなもので。
 何時の間に2人の世界創りあげやがったドチクショウ、なんて悪態つく事も出来ず、2人は真っ白になった。
 気づけば、現郎の姿は無く、青草が風を浴びて靡いていた。
「師匠………」
「何だよ……」
「空は、青いんですね………」
「そうだな…………」
 そんな青い空だが。
 2人には滲んで涙色にしか見えなかった。
 とある草原で正座する2人に、風だけが通り過ぎ去った。
 風だけが………


<終>





そんな訳でリク内容は「激VSカイ×爆でギャグ。2人とも報われなくてオッケー」
見事なまでの報われないっぷりです!
いっそさっぱりするくらい哀れだ!!

この2人を当て馬にするなら、相応しいのはやっぱり現郎かな、て。
「寝る子は育つ」の前に「果報は寝て待て」という所でしょうか。

ではロヒ様、こんなんになっちゃいましたvv