「なー、まーくうげはぁッッ!!」 「……今度その呼び名を使ったら、殴る」 いや、”今度”ってもう殴ったじゃん!今はっきりと!! ぼぐご!とすんごい洒落にならん打撲音を体内中に響かせたものの、大騒ぎする程のダメージでもなかったのは俺の日頃の行いがいいから。 ……まぁ、思いっきり痛いけど。思いっきり。 それはそうと。 「なあ、お前なんで眼鏡かけてんの?」 凶門は人間に化けた時、どういう風の吹き回しか眼鏡なんか掛けてやがった。 実用の目的で無いのは確実だ。 だって妖怪にゃ視力が落ちるどころか、視力なんてものがない。 だとしたら、ファッションか。 でもコイツはそういうアクセサリとか、装飾品で見た目を麗しくする趣味を持ったヤツにも思えねーし。俺と違ってな。 「別に、大した意味は無い」 ”緊急時の応急処置マニュアル”とかいうタイトルの本から全く目を逸らさず言う凶門。 だから、大した意味も無くやってるのを問題視してるんだっつーの、この場合。 「ただな」 ただ何だよ。 「天馬が……眼鏡掛けてた方が監督らしいと」 「………………………………」 「俺は無くてもいいと思うんだが……」 それだけ言うと、凶門は本格的に本を読み始めた。こりゃもう何話しかけても無視だな。 最も……俺の疑問は解消されたから、それ以上の追及の必要も無い。 ああ、豊かな俺様の想像力がリアルな場面を想定させる。 2回目に人間に化けた凶門。その時は眼鏡は無い。 んでそこであいつが言うわけだ「えー!何で眼鏡無ぇの!?あった方が監督っぽくていいじゃん!」とか何とか。 何つーか……結構中立かなーとか思ってたコイツも……ま、監督引き受けた時点で薄々感じてたけど。 「おい、凶門」 「…………」 あ、やっぱり無視された。 「余計な騒ぎ立てたくなけりゃ、今の発言飛天のヤローとぼっちゃんの前で言うなよ」 「………………?」 わざわざ忠告してやるなんて、俺ってもしかしてお人好しか? 訝る凶門を置いて、俺はちょっくら外に出る。そろそろ天馬が帰って来る頃だし。 お、来た来た。あいついっつも走って来るんだよなー。 「よ、お帰り」 「ただいま、火生!!」 意外な事に、この家に天馬以外のヤツは居なかった。てっきり、両親に猫みたいに可愛がれているもんだと思ってたのに。むしろ親が居ない方が多そうだ。 だからだろうな。天馬はとても嬉しそうに「ただいま」を言う。俺はこいつしかしらないけど、きっと天馬が一番嬉しそうだ。 眩しい笑顔。太陽みたく皆に平等に配られるそれを、一人で占める事が出来るというなら、少しの無理は苦にならない。 それが、大した事で無いのなら、尚の事。 凶門は自覚薄そうだけどなー。勘はいいくせに。 「……あー、俺も眼鏡かけようかね」 「眼鏡?火生が?」 「おうよ、結構イケそうじゃねぇ?」 ぱちくりさせた目が俺に向く。 天馬はそれはもう渋い顔をして(そういえば昼見るテレビでランクの1位を当てたら凄い苦いお茶を飲むっつーのがあったな)。
「………。 似合わなそー」
「……………」 本当に思いっきり似合わなそうに言ってくれたのだった。
<オマケ> 「凶門ー!早く行こうぜー」 「あぁ……何だ、人の顔見て」 「へへー♪やっぱ眼鏡いいよなvv監督っぽくて」 「……………」 そーして今日もまーくんは眼鏡を掛けるのです。めでたしめでたし……って何がめでたいんだ、俺。 そして背後からの気配が怖かった(2人分)。……何で俺が怖がなきゃならんのだって。 俺の性能のいい耳はしっかりキャッチした。 「眼鏡……か」 と確かに呟いた、飛天の声を。 ………また色々揉めそうだ。こりゃ。
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