ON THE ICE,



 ピンクは朝っぱらからテンションが高い(が、雹にはさすがに及ばない)。
 何やら短冊みたいな紙をヒラヒラさせながら、それは嬉しそうにカイと爆の元へ赴いた。
「ねぇ!見て見て!昨日デパートのスピードクジやったら特賞のスケート入場無料券4枚当たっちゃった!!さっすがあたし!日頃の行いが出るのよね〜、こういうのって!
 というワケで今週の日曜日に行くから、ちゃんと空けといてよ!絶対だからね!!
 じゃ、あたしリンに券あげてくるから〜♪」
 と、ピンクは言いたい事を言いたいだけ言って、券を二人に押し付け去って行った。台風みたいなヤツだ。
「ピンク殿はいつも元気ですね……」
「……………」
 カイは好意的にピンクという人間を受け入れた。

 そんなこんなで日曜日である。
「やっぱりアンタ達早いわね〜」
 時間に間に合うようにやってきたピンクとリンだが、すでに待ち合わせの場所にはカイと爆の姿があった。
「貴様が遅いだけだろ」
「うわ!可愛くない!」
「あー、はいはい、二人とも、早く行きましょう」
 小競り合いを始める二人を宥めるカイ。まぁこれが二人のコミュニケーションというのはちゃんと解っているが。
 それでもカイはさっさとスケート場へ行きたかった。何故かというと氷の上を滑る爆の姿をばっちり網膜に焼き付けたいからである!思わずジャケットも新調してしまった!(愚)
 さぞかし絵になるだろうなー、とカイは、電柱に激突するまで浸っていた。

「じゃ!滑ってくるね、カーくん!あーん待ってよピンピン----------!!」
 ピンクはただ今「氷の妖精になったあたし〜♪」とか鼻歌歌いながらリングの上を疾走中である。
「爆殿、私達も行きましょうか」
 カイの呼びかけに、爆はリングの縁に手を乗せ、微動だしない。
「……オレはまだいい。貴様だけ行って来い」
「え。そんな………」
「どぅあああああ!?」
 ガイーンとショックを受けるカイの前で、とーとつにバランスを失った爆が転倒した。
「ば、爆殿大丈夫ですか!?」
「平気だ。このくらい……」
 と、立とうとする側からまた転がる。
「あの、爆殿……」
 カイはなるべく爆の機嫌を損ねないように訊く。
「ひょっとして、スケートは初めて……?」
「………………」
 爆はかなり憮然として眉間に皺を寄せていたが、素直に頷いた。カイは表情を和らげる。
「だったら最初から言って下さればいいのに。私が練習つけてあげますよ」
 そう言って差し出された手を、爆はちょっと間をあけて掴んだ。

 まずは滑る感覚を掴ませるため、カイは爆の手を引いて向かい合わせに滑る。
「爆殿、下ばかり見てはぶつりますよ?」
「ぅ………」
 最もな言い分だが爆としては「そんな事言われても!」である。
「大分慣れたようですから、ちょっと手を離しますね」
 緊張に爆の顔が強張る。
 ふっと手を離し、爆はそのままの姿勢でスーと滑り、カイの胸にぽふ、と飛び込んだ。
(あぁ、この幸せがずっと続けばいい……)
 当初の目的とは違ったが、自分の手にしがみ付く爆に、カイは心からそう願った(おバカさん♪)。
 しかしそんなカイのドリームタイムは結構あっさり幕を閉じた。
 元々運動神経の秀逸な爆である。ちょっと練習すれば人並みに滑れるようになったのであった。
 そして今はピンクとスピード競争までする始末であった。それをリンが煽っていたりする。
「いい?爆!コースはこのリングの外周一周、今リンが立っている所がスタートとゴールだからね!」
「ふん!望むところだ!」
「二人ともファイトー!!」
 そしてよーい、ドン!という掛け声とともに出発した。それをただ傍観するカイ。
(爆殿……楽しそうだな……)
 何故か疎外感を感じてしまうカイだった。
 しかしその時!!
「カイィィィィィィィィィッ!!」
 爆に大絶叫で呼ばれて反射的に振り向くカイ。見れば爆が不安定な姿勢でこちらに迫って来る。
 スピードの出しすぎで制御を失ったに違いない。
「のぁ………ッ!」
 避けたり受け止める体勢を整えるまでもなく、二人は激突してしまった。
「ちょっと、爆!!」
「大丈夫〜?」
 心配げな声を発しつつ、ピンクとリンがこちらへ向かう。
「ああ………」
 ちょっとクラクラする頭を振って起き上がる。爆の方はぶつかった衝撃でビックリしただけだ。外傷はない。
 が、カイはそんな爆の下で目を回して伸びている。
「------ッ、カイ!おい、カイ!!」
 動かさずに頬を叩いて覚醒を促す。頭をぶつけた可能性がある以上、下手に動かすのは危険だ。
「カイ!!」
「……ぅ…………」
 何度目かの呼びかけにカイはようやく意識を取り戻した……が、双眸の焦点は合わず虚ろな目だった。
 それでもカイは爆の姿(だけ)を捉えていた。
 霞のかかるあやふやな意識の中でカイは思う。
(……爆殿………?)
 何か知らないけど爆がめちゃくちゃ至近距離にいる。
 とても近くにいる。
 手を伸ばせば触れれる位置に居る。
「……………」

 -----触りたい……な……

 ぼーっと自分を見つめるだけのカイの様子に、尋常ではないと感じた爆は呼びかけを続ける。
「カイ、しっかりしろ。この指何本に見える……--------?」
 と、突き出した手を取られ上体を起こしたカイの胸の中に閉じ込められる。
 どういうつもりだと見上げ、

 問いかけるはずだった口唇は、カイのと重なった。

 …………
 …………………
 !!!!!!!!!!
「……なにを……するか貴様はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
 カイにキスされているとたっぷり10秒ほどかけて認知した爆は、思い切りのいい右ストレートパンチをカイめがけて殴打した。
 脳震盪を起こしているかもしれない相手にそれは惨いのでは、と側で固まっていたピンクもリンも思わずにはいられなかったという。
「えぇいッ!いい加減しゃきっとせんか!しゃきっと!!」
 と、今度は爆のパンチでのびてしまったカイの胸倉ひっつかみ、往復ビンタをくらわした。
 そこでよーやくカイの意識完全復活。
「あ……あれ……?爆殿…………?」
 ちょっと記憶のぶっとんでいるカイは、どうして目の前に爆が居てしかも顔が赤いのか、後頭部が痛いのか、頬がヒリヒリするのか何一つ解らない。
「……やっと目を覚ましたか……」
 ふん、とカイを掴んでいた手を離す。そのおかげでカイはまたしてもリングに頭を打ち付けてしまったが。
 イテテ……を身を起こしている間に、爆はリングの何処かに消えてしまった。
「ば、爆殿なんで……?」
「何でって、あんな事されたてへーぜんと居られるワケ、ないわよね〜」
「ね〜」
 ”ね〜”の部分でピンクとリンが顔を見合わせてハモる。
「あ、あんな事って…………?」
 戸惑うカイにピンクは白々しく口に手を当てて、
「え〜、言えないわ〜。このリングのど真ん中で、カイが爆にキスしたなんて〜」
 思いっきり言ってるじゃないか。
 それはさておき、事実を知らされたカイは下の氷の如く凍てついたのだった。

「爆殿」
「……何だ」
「怒ってますか?」
「……怒っとらん」
 帰り道。カイは家の方向が反対だというのに爆の後ろをついている。
 だってあれから一言も喋ってくれなくて。
「怒っているでしょう」
「怒っとらんというのに」
「嘘ですよ、怒ってます」
「だぁぁから、怒ってないと言ってるだろうが!!怒るぞ!」
「ホラ、怒った……」
「喧しい------------!!」
 傍から聞くとなんともアホらしい会話だが、当人たちは真剣である。
「だって仕方ないじゃないですか。あんなに近くに爆殿が来るなんて、滅多にないんですから……」
 半歩前を歩く爆を、ぎゅうと抱すくめる。
 そして、いつも理性で必死に堪えているのだから、と付け足す。
「だからって……あんな人込みで……」
 身体の表面全体でカイを感じている爆は落ち着かない。
「貴様はどうか知らんが、オレはしたくはないからな」
「だったら……二人きりならいいんですか?」
 耳に直接吹き込まれ、爆の温度が上昇する。
「なっ……ど、どうして貴様はそういう……!」
「ダメですか………?」
 カイの捨てられた子犬のような表情に、爆はう、と言葉に詰まる。
 力押しでこられればその分それ以上の力で跳ね返す事が出来るのだが、こういう風に下手に出られると……
「……殴るぞ……多分……」
 カイとキスするのは……嫌いじゃない。
 ただ、終わった後にどうすればいいのか解らない。
 だからつい、見っとも無い姿を晒す前に怒る事で体裁を繕ってしまう。
「それでもいいです」
 上から優しい声が降る。
「……殴られてもいいから……爆殿にキスがしたい」
「…………」
 そうまで言われてしまうと……近づくカイを拒む理由が何も無くなってしまう。
 降注ぐ口付けを、爆は目を綴じて甘受した。

甘い〜甘い〜皆、歯ぁ磨けよ!!
デート(違)行って喧嘩して、仲直りにちゅーをするなんてまるで少女漫画の王道ッスね!いやん。
いや〜、氷の上でキスをする二人が書きたかったんで(何だかかつての「コナン」のエンディング曲のよーだ……)

ではこのお話は松葉様へプレゼントv勝手にやってろ級のカイ爆です〜vうーん甘々〜
甘い〜甘い〜皆、虫歯にゃ気を付けろよ!!