今日もずるずると



 どうせいつかは消える命だもの

 好きな人の為に使いたい


 それが出来ないのなら



「ハイ」
 と軽く言って渡した。
 爆は一応受け取る。
 これは何だと訊かれたから、素直ににナイフだと答えた。
 それがお気に召さなかったよーで爆は再び訊いてくる。
「こんなものを渡す、貴様の真意はなんだ?」
 真意……ね。
 一体この世界の中で。
 どれだけ自分の行動を把握しているヤツがいるんだろうか。
「この前爆言ったじゃん。
 俺の事殺すって」
「――――…………」
 爆は少し黙る。
 俺の言った事はきっとおかしな事なんだな。そう、きっと。
「……たしかにオレは言ったが、本意じゃない」
「けど俺は本意だから」
「オレはそんな事したくない」
「俺はして欲しいの」
 堂々巡りのようなやりとり。爆の顔が顰める。あぁ、可愛い顔なのに。
 お前が思い悩む事なんて、これっぽちもないのだから、なぁ、爆。
「……俺の事を少しでも好きだって想うんなら……刺して?それで」
 俺は爆が、爆の事が好き。
 だから爆の為に生きて生きたい。
 爆の為に死んでみたい。
 でも俺は無力だから、爆を救う前に死んでしまうに違いない。
 だから、さ。

 お前が殺してよ。
 この命奪ってよ。
 つまらない事で使い切って前に。

 お前が俺のこと……好きだって、想う内に。

 なぁ?俺の好きな人。

 爆にとっては戯言でしかない事を言い、その口唇を覆った。
 少しの間も空かないように、ぴったりの重なりを探して何度も口付けた。
 それから、舌を差し入れる。
 爆は優しいから、それを受け入れる。
 くぐもった声が聞こえる。まだ、慣れないんだ。
 そんな爆の為、少し唇を浮かし、空気を入れてやる。
 それを繰り返し。
 程なくして爆の腕が首に回る。

 ナイフを握ったまま。

「……………」
 待ち望んだ事態が近づいた高揚感からか、自然とキスが激しくなる。
 爆の身体が反るくらい背中を抱き締めて、唇は貪るように。
 そのまま、ナイフをもう少し近づけるだけでいいんだ。
 それで後は勝手に俺は”殺される”から。
 だから。
 ……早く、殺して。
 お願いだから、早く!

 怖いだなんて思わさないように!!

 今まで気づかないように余所へ置いておいた事を思い出さないように!
 知ってるさ、それくらい。殺人は歪んだ愛情ですらない。
 好きな人は殺せない。
 だから殺してもらう。
 我が儘。
 それでいいと思った。
 なのに。
 俺以外のヤツを好きになったお前を見てもどうしようもないから。
 だからこの世から消えてなくなってしまえばいいのに。
 それでも。

 爆が、俺を好きでなくなっても、俺は爆が好きなんだ。

 ……生きてたら想う事は出来る。
 ……死んだら、出来ない。
 ……怖い。
 爆の事が考えられない。
 怖い。
 爆の事を想えない。
 怖い。
 爆の事を好きで居られない。

 ………怖い!!

 カシャ―――ン………
 木の床に、金属音。
 ナイフが落とされた音……
 爆を見た。
 俺のキスを受け入れてる、爆。
 でも、殺さないんだ……
 そして思い出した。俺、爆とキスしてたんだ。
 何か、パニックになっちゃって最中をよく覚えてない。だから、今度はちゃんとする。
 ……かなりがむしゃらにしたらしく、爆の双眸の焦点が合ってない。
 のに、俺を的確に見ている。
 ……初めてだな、こんなのは。
 いつもと違うな。
 しばらくするといつもと同じように、爆から力が抜ける。倒れそうになる身体をしっかり抱いた。
 勿論さっきみたいに、壊しそうなのじゃなくてな。
 虫のいい話だけどよ。
 殺されないと解った途端、それが少し残念に思えてきた。
 んで、どーやらそれのせいで俺はとても情け無い顔だったらしく、ソファへ座らせた後爆は愉快そうに笑った。
 ひとしきり笑ったあと、爆の小さな手が俺の頬を包む。
 ……無理に殺したり、殺されたりする事はないと、爆は説く。
 そうかな、そんなもんかな。
「今はオレも激も、お互いが好きなんだ。贅沢言うと罰が当たるぞ」
 言われて解った。
 ……そうか、俺のは贅沢だったんだ。
 何だ何だ、そうだったんだ。
 解った。もう”殺されない”。
 けどちょっと心配だな、爆が俺以外を好きになった時の事。
「だからって先走るヤツがあるか。激、慌てる乞食は貰いが少ないんだぞ」
「あー、もうあんな事言い出さねーから、ンなに苛めんなってぇ〜」
 何かこいつ……いつの間にか意趣返しってのを覚えやがったな……
 やっぱ俺のせいか?
 そうれはそうと。
 殺されたかった理由がもう一つ。
 床に落ちてたナイフを拾い、くるくると手の中で遊びながら。
「まぁ……爆に殺されたいってのは、俺だけのモノにしたい、ってのも確かにあったけど……
 俺の血で濡れた爆ってのも、見てぇなーって」
 ぐ、と指の腹の上でナイフを押し付けると、チリ、とした痛みが走る。
 糸のように細い線が走り、それが太さを増して赤い玉が浮かぶ上がる。
 それが下に落ちないように気をつけて、まずは爆の右頬を。
 そのまま下降し、首を辿って鎖骨でストップ。
 感想。俺の血で塗れた爆は。
 ………うーむ…………
「……あんまり、合わねぇなぁ……?」
「……貴様は、本当にバカだな」
 呆れたように、でもどこか嬉しそうに(俺のただの妄想か?)。
 俺の血で濡れたまま、爆は俺にキスをした。


 いーよいーよキスしてくれないなら死んでやるー
 ……いや、そこで冷たい目をされるとちょっと傷つくのですが
 ……んー、でもまぁ何だね。暫くは殺されないって事解ったし
 あ、前言撤回
 いやいや、そうじゃなくて、俺は生涯爆の事だけが好きだからvvv
 ……ねぇ、冷たくしないでよってば……
 うぅ……頭撫で撫でよりキスしてよぅ
 殴るなよ!!
 ……もういいや、寝ましょ。
 そういう意味じゃないから、だから拳は引っ込めてって
 ……ふぅー……
 ……………
 な、寝た?
 ごめん起こした?
 あのな、怒らないでね
 俺な。
 さっき殺されかけた時、実はちょっぴり怖かった。
 怒んないでて言っ………
 ………!
 ……あの……
 出来れば唇でのほうが……
 ……痛ってぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!




て訳で赤いトキメキ激サイドです!ちこさん遅れに遅れてごめんなさい!!
……何か爆サイドより長くなっちゃったなー。一応これで締めだしね。
激は爆に殺されるのはいいけど、死ぬのが嫌なんですね。
じゃあどないせいって話ですね。
最後数行もやはり激の一人称vさぁー爆のセリフを考えよー♪