Tears Of Clear



「おーい、爆ぅー!」
 呼ばれた声にはっとした。どうやら何か考えていたらしい。
「激。貴様の方は終わったのか?」
「ああ、皆地上にテレポートさせたよ。……オメーの方は……って訊くだけ野暮か」
 ニカッと笑う激。
 しかし、それはみるみるうちにフェードアウトしたいった。
「……可哀想なヤツだよな。お前は」
「どういう意味だ?」
「自分の武器を知っていないっつーかさ」
 ますます解らない。
「オレの武器……?」
「そう、オメーの最大の武器……それは可愛さだ!」
「……………………………………」
 爆が怒涛の沈黙地獄に捕らえられているとは知らず、激はなおも言い募る。
「炎の事にしたってよ、オメーがちょっと服ずらして鎖骨の一つでも見せながら「お願い、そんな事やめてv」とか言ったら事態はスピード解決ほぼ間違いなしだったかもしんねーぜ!?ていうか俺が炎だったら許す!!何があっても!!」
 ……世界が……
 コイツのよーなヤツばっかりだったら、ある意味平和なのかもな……
 劇団四季っぽい身振り手振りを付けながら熱弁する激を見て、爆はそんな事を思った。
「あー……どうでもいいから皆の所へ行くぞ。あんまり遅いと何かあったと思われるだろ」
「ちょい待った」
 と言って、テレポートをしようとする爆を――
 激は後ろから抱き締めた。包み込むように。
 何かから護りたいように。
「…………」
 前にある、自分に巻きつく手を見る。
「……今度は何だ」
「別に……」
「何もないのならするな」
「何もなくないって訳でも」
 静かに風が流れた。
「……何で……笑ったりなんかしたんだよ……」
「……?」
「炎に……」
 怪我の回復のために少しツェルーに留まったとき、現郎から訊いた。
 この世界の事。
 炎が爆に固執する理由。
 ……全てを訊き終えた時、沸騰した血液が視界を赤くした。
 何だそれ。何なんだよ。
 じゃあ、あの言葉も爆を利用するための布石か?その為に爆は……
 何度も死に掛けたり……!
「……バカヤロ」
「結構な言葉だな」
 苦しい程の力で抱き締めている事を、本人はたぶん知らない。
「オメーが言わねぇんなら、俺が言おうとしたんだけどなー……」
 笑ったりするから。
 あの顔を見たら喉が凍った。
「もういいだろ、その事は」
「いや、よくねぇ」
「いいんだ
 あいつはちゃんと自分の道を見えるようになったし、オレも一人で歩ける。
 ――まぁ、確かにショックだった事はあったが……
 でも……いいんだ。もう」
「……よくねぇよ」

「だってオメー泣いてんじゃんかよ」

「――…………」
 頬に手を当てた。冷たい。
 擦ってみたがそれ拭えきれる訳もなく、それどころか自覚し始めた事でどんどん溢れてきた。
「………!」
 ぽたん、と落ちた涙が激の服に染みを作った。
 ――何で……!
「……んで、こんな……!」

 ――あぁ、こんな時でも君は。

 炎が許せなくて泣いているんじゃなく
 炎を許せない自分が情けなくて泣いている

 後ろから抱き締める。
 他のヤツの為に流す涙は見たくないから。
 落ちた涙を舐めてみた。
 何も味がしない、透明な涙――

「……俺は、爆が爆だから技を教えた。術も教えた。
 真が何だよ。炎の後継者なんざクソくらえだ」
「…………」

 夢に――
  夢に命を賭ける奴は本物だ。

 この言葉を、俺が最初に言ったなら、君はまだ素直に泣けていたのかも知れないね。

 ……というわけで最終話爆が地上に移動する前の話。実は話の冒頭で爆はすでに泣いてたんですねー。気づいてないだけで。
 激があれやこれや話してたのはそのためで。
 ちこさん、こんなもんでいかがざんしょ♪何やらギャグったりシリアスに走ったり忙しい話ですが……。
 ていうかこの話の一番のツッコミポイントは天の前でいちゃつくなよ、お前らって事ですね。
 激の身が案じられます。