スイート・スイート



 ドラコが持って来た箱は、大きさとしてはクァッフルがすっぽり入るくらいで。
 そこから飛び出すかと思えば、僕の人生の中で、一度に見たには初めての多さのマカロンだった。
「うわぉ……これ、どうしたの?」
「母上からだ。いつもならクラッブとゴイルに分けてやるんだが、あいつら、虫歯になんかになって……」
 全く仕様が無い、と腰に手を当てたやや大人びたポーズを作るドラコ。
 あーはいはい、僕は次点なんだね。(まぁそんな所じゃないかと思ったけど)
 それでも僕を思い浮かべてくれただけ、進歩はしてるかな?
「ポッターは甘い物は好きか?」
「勿論好きだよ」
 君が持ってきたなら尚更ね。
「そうか、なら丁度いい」
 箱を僕の前へ置いて、ウィーズリーやグレンジャーと食べるといい、と無常に言い放ち、とっとと帰ろうとするドラコ!
「待ってよ。一緒に食べようよ。君に贈られて来た物でしょう?」
 それを君が食べないで僕に押し付けるというのは如何なものでしょうか?
 この僕の言い方に少し腹を立てたのか(まぁ実際そういう風に言葉を選らんだのだけど)ドラコはむ、として。
「僕はもう食べた」
 え、と僕は箱を除きこむ。だって、中身は、僕は最初からの量を知らないけど、ほぼ一杯で。
「ドラコ……って、ひょっとして甘いもの苦手?」
「いいや。人並みには嗜むさ」
 と、いう事は取り分け大好き!という事ではない、という事か……
 以外というかなんというか。
 だってドラコの肌はマシュマロみたいだし、髪に至っては凄く綺麗な銀髪に、一滴蜂蜜を流したような淡いブロンドだもの。いかにも甘そうなイメージなのに。
 箱の中のマカロンを一つ摘んで口に入れる。当たり前みたいに、美味しい。
 それはそうと。
「ねぇ、ドラコ」
「何だ」
「マカロンて、マッケローネっていうお菓子を、イタリアの貴族の娘がフランスに嫁ぐ時に持って来たっていうのが始りだよね?」
「それが、何か?」
「いや、別に」
 マカロンをもう一つ。

「歴史は繰り返すなぁ、って」

 その後の展開は早かった。
 まず、ドラコが僕のセリフを頭の中で整理して、それが終わったら白い肌に色がついて、そうしてすっくと立ち上がり、それから僕に向かって、
「馬鹿ポッター!!」
 って叫んで。
 机の上のマカロン入り箱を引っ手繰るように持ち去って行ったんだ。うーん、今の顔は、美味しいマカロン箱一杯の代償に、十分値すると感じてしまう僕は、ハーマイオニーの言う通り、どんな名医でも匙を投げ出す末期なんだろうか。
 そしてこれの顛末は、談話室に戻ってきた時にロンが「マルフォイが僕にこれをくれたよ。君の何だろう?」と。
 今、箱の中身はまだ半分。残っているから今度は僕がこれを持ち、ドラコの元へ行こうと思う。



ハリーは策士、ドラコは純情、マイオニーとロンは良き理解者です。