ハッピー・ナイト・クリスマス!!



 自分の側に、特に陽気な人物が近寄る。
 振り向いて確かめるまでもなく、彼の人は親友の双子の兄だ。
「ハロー、ハリー!!メリークリスマス!!」
「今日も額の傷跡がセクスィーだね!!」
「メリー・クリスマス。フレッド、ジョージ……って、もしかして酔ってる……?」
「チッチッチ、ハリー。あれしきの量じゃぁ酔わないぜ☆」
 などと指をスライドさせ、得意げに言うフレッド。
 て事は飲んだ訳だ。この双子は。
 ハリーは周囲をざっと見渡し、二人にだけ聞こえるような極小声で話しかける。
「そ、そんな事していいの!?パーシは!?」
「だーいじょうぶだ、ハリー。あちらさんは……」
 ちょい、と視線だけで示す先にはガールフレンドに身体を支えてもらい、何処かへ行く途中の兄。
「ジンをちょこーっと、なvv」
「ま、彼女と二人きりになれる訳だし。クリスマス・プレゼントさ」
「はぁ………」
 ハリーはもはや何と言っていいか解らない……というか何を言っても何も変わらない気がするので、頭が言葉を捜すのを止めたというか。
「と、いう事でハリー・ポッター。我らが獅子の英雄よ」
 もったいぶった口調で物々しく言ったのはジョージ。
「君にもプレゼントを用意した」
 フレッドがそれに続く。
 そして更にハリーにだけへと殊更小さく囁いた。
「さぁ、蛇姫様の所へ行って、何か話しかけてごらん。夢の時間が待っているよ」
「……へ?」
(ドラコの所に………?)
 そりゃぁハリーだってドラコの所へは行きたい。しかしそれは土台無理な話だとも、重々承知している。
 しかも、パーティー中は会えくなるから、とキスを要求(というよりしようと試た)せいか、視線が合うだけで「こっちに来るな寄るな近づくな」と表情で語られる。さすがのハリーも尻込みしようというものだ。
 と、いう経過を知るまでもなく、自分がドラコの側に居ないというのはそれはイコール”近寄れない”と、特にこの二人には知られているはずなのに。
「いいから、いいから」
「騙されたと思って」
 この二人に関しての騙されたと思って、は本当に騙される確立が非常に高かった。
 が、他人に言われるまでもなく側へは行きたいハリー。とにかく何か仕掛けはしてくれてるらしいから、ここは一発博打でも打ってみようか。クリスマスなのだし。
 ちなみに賭け事を博打と称すのは、必ず最後に破滅するからである。
 頑張れーハリー!今宵の聖夜は君の物だー!!とかいう応援(という皮を被った野次)に背中を後押しされるように、ハリーはドラコの元へと赴いた。
 別に結界が張られてる訳でもないが、寮生はだいたい同じものでまとまっていた。何故か領土に入って来たハリーに、周囲の視線が冷たくなる。
 人垣に埋もれがちなお目当ての少年をいち早く発見した(いや、最初から彼しか見てなかった)。
「メリー・クリスマス。ド………マルフォイ」
 誰かが他に居る時は絶対に名前で呼ぶな。幾度と無く言い渡されたドラコのセリフが耳に浮かぶ。
 別にそれくらいいいのに、と思うハリーだが、少しでもドラコの機嫌を損ねないようにと、今は素直にそれに従う。
「メリー・クリスマス」
 どうにか挨拶は返してくれた。
 ひょい、と手にしていたゴブレットを持ち上げる。さすがにいい所出だけあってか、そんな仕草でも気品が漂う。
「………えーっと………」
 何か話しかけてごらん、と言われたはいいが、何を言えばいいんだろう、とハリーの思考は宙に浮く。
 いや、言いたい事なんて山ほどもあるのだが、それのどれもこれもドラコから禁止されてる物ばかりだし。
 一方、ドラコの方は何故かだ愚鈍になっているハリーに気を良くしている。いつもは強引で、しかも自分はそれに押し切られてしまっているから。
 ふん、と小さな身体で高飛車に鼻で笑う。
 そして。
「どうかしたのかい?ポッター。
 またそんな憂いた表情をしていたら、その横顔にまた誰かが惹かれるかもしれないというのに。
 これ以上ライバルを増やさないでもらいたいな。何時君を取られるかと、僕を心配で寝不足にさせたいのか?」
 途端、誰かがスイッチを入れたみたいに一帯の生徒がブッ!!と口にしていた物を噴出した(どうやらその範囲まで聞こえたらしい)。
 聞いていた者は驚いた。言われたハリーも驚いた。
 しかし、一番驚いているのはドラコに違いなかった。目を見開き、今のは夢だ、と信じ込ませているように見える。
「ドラ……コ………?」
 ついファーストネームで呼んでしまったのはハリーにとっては自然だった。
「ハリーにそんな風に名前で呼んでもらうと、愛の言葉を囁かれるのと同じだね。
 もっと近くで言ってくれないか。僕だけに聞こえるように」
 ブッ!!(←第2弾)冷静を取り戻しつつあった周囲が再び混沌へ誘われた。
「ちょ……ちょ、ちょ、ちょっとフレッド!ジョージ!!」
 聞こえてしまったロンがどうにか我を取り戻し、兄達へ問う。
「騒ぐな、弟よ。これは聖夜の齎した奇跡……と言いたい所だけど、あいつの飲み物に言いたい事と反対のセリフが口からでる薬を入れたのさv」
 得意満面に言うフレッッド。
「俺たちは自分の調合が正しかったというのが証明されたし、ハリーは愛しい人に公然で堂々と甘い睦言を聞かせてもらったし。まさにいい事ずくめだな」
 うんうん、と思慮深く頷くジョージの頭の中にドラコの人権は果たして存在し得るのか。
「なぁ、ロン。この薬を魔法省の会議とかで使ったら、もれなく面白い事になるとは思わないか?」
 ロンはンな恐ろしい事は考えたくも無かった。下手したら戦争が勃発するよ、ジョージ。
 一方。
 ドラコだって馬鹿じゃない。自分が一服盛られたというのをこの中で一番早く把握出来た。
(さっきから言いたい事の反対ばかり……!どうしたらいいんだ!?)
「ねぇ、ドラコ。側に居てもいい?」
 それはそれは嬉しそうなハリーが近寄る。
 その笑みを見て理解した。確信もした。
 こいつ、絶対僕の異変に気づいてる!!
「ダメ、て言わない所を見ると、いいんだね?」
「い……!!」
 ダメだ!と言おうとしたのだから、当然吐かれるセリフは”いいよ”、である。
 慌てて口を押さえた。
(は!どうだ!!という事は反対の事を思えばいいんだ!!
 ハリーにどこかへ失せるように言うには、側に居て欲しいと、思えば……思………
 思えるか---------ッッ!!!)
 しかもハリーも気づいているこの状況。上手くどっか行け、と言ったらハリーに、て事はドラコは本当は近くに居て欲しい、って思ってるんだ、わーいとか思わせてしまうし。
「嬉しいなぁ……ドラコが僕に側に居て欲しい、て思っててくれて」
(お前はこの顔が見えないのかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)
 ドラコの怒りの形相も、ハリーにとっては”可愛いなぁ”の一言の元に平伏す。
(キスとか強請りたい所だけど、さすがにそれやったら一ヶ月口利いてくれないくらいじゃ済まないだろうしなぁ。
 ま、この位で妥協しとくか)
 ハリーの”この位”とは腰を抱いて寄せ合ったり、耳元で囁いたり、ドラコの首に顔を埋める事である。……ある意味キスより性質悪いのでは。
 ハリーが何かしらの行動を取る度、涙目で真っ赤になるドラコを、勇気ある生徒数人は救助へと向かったが。
 ハリーの視線が半径5メートル(広いよ)以内に近寄せさせなかった。
 哀れな子羊。
 ドラコを見た誰もがその単語を連想した。

 パーティーは恙無く進んだ。
 たまに、ドラコがハリーの挑発に乗ってしまい、何か言ってしまうのを除けば。



えー、初ハリドラ小説です。
黒い。黒いですよ、ハリーさん。
作中のクサい台詞、ああいうの考えるの結構好きだったりします。次回からはハリーさんに言ってもらいましょう!
「え。ドラコは?」
「誰が言うかー!!」