先ほどから、なにやらキッドは----- 隠すように小箱を開け、その中を見ては、には、とにやけ、また箱を閉じる、という反復運動を繰り返しいた。 怪しい。この上なく挙動不審だ。 が、かと言ってその行動の真意を問いただす真似はしない。 此処にいる空間の、キッド以外の者----王ドラは秀才を謳われているだけあって”君子危うきに近寄らず”という故事成語を熟知しているいし、ドラニコフは率先して人の事に首を突っ込むような趣味はなかった。エルマタドーラは昼寝中だし。 室内には見せかけの平和が保たれていた。 のだが。 「はぁ〜、やっぱりいいよね室内は!温か〜い!!」 「寒がりであるな、ドラニーニョは」 ドラメッドとドラニーニョ……毎度お馴染みお騒がせコンビが登場した。先に居た2人はこれから何か起こるな、とある程度の覚悟を決めた。 キッドは相変わらず不気味な行動を繰り返している。漂うオーラに気づかないのか(それでも魔法使いか)ドラメッドはキッドに近寄り、 「キッド、何をして………… おお、ドラ焼きである!!」 成る程、さっきからキッドの見ていた箱にはドラ焼きが入っていたらしい。 「たくさんあるな。一つ貰うのである」 ひょい、パックン。むしゃむしゃゴク。 「…………ッあ゛------------------------ッッッ!!」 その咆哮の凄まじさに、サッカー以外取り得の無いドラニーニョがリフティングでボールを落とした。 キッドは電光にも勝る速さでドラメッドの胸倉をガ!!と掴んだ。 「お前何してくれんだよ!!アレはな………アレはッ!!ドラミが俺にくれた物なんだぞ---------!!!!」 「ぬな!?」 この発言により、ドラメッドは自分のしでかした事の重大さに気づく。 キッドとドラミが、いつぞやの学校のマザーコンピュータ暴走事件の後、何だかいい仲だというのは仲間内では暗黙の了解だ。 勿論ドラえもんも知っている。 だから、ドラえもんのキッドを見る目は時々かなり頻繁に笑っていない。 それはさておき。 「す、すまんのである!!知らなかったのであーる!!」 「あぁ!?知らなかったのであるで済んだらタイムパトロールは要らねーよ!! ここは西部開拓時代の儀式に乗っ取って、腹掻っ捌いて詫びやがれ------------!!!」 「っひぃぃぃぃぃぃぃ!!それは日本江戸時代の仕来りであ-------る!!」 「わーん、ドラメッドー!!」 ドラニーニョは親友が切腹してしまう事に純粋に悲しんだ。それよりも助けたれよ。 「喧しい!!それくらいしてもまだ足りな………」 「”ドラえもんズの皆さんへ”」 ドラメッドのピンチを救う為か、単に煩くなっただけか……多分後者だが、王ドラが箱に入っていたカードを読み上げた。 「………と、書いてありますが?」 それはドラミの性格を現すように、丁寧かつ綺麗な文字だった。 「……………」 「あ。だから6つだったのである」 ぽん、とドラメッドは手を打ち、キッドは沈黙した。 「独り占めする気でしたね?」 「……いや、だから、ほら、なぁ」 もはやセリフとして成立していない。 「という事は、ボクも食べていいのー!?」 「がうがう」 「中は餡子じゃなくてチョコクリームだぜ」 さっきまで安らかな表情でシエスタしていたエルまでもが起きて、ドラ焼きを取る。皆美味い美味いと食べる。そりゃそーだろドラミの手作りだぜ!? 血の涙でも流さんばかりのキッドに向かって王が言う。 「まぁ、バラさないであげますよ。折角のバレンタインですしね」 鬼!!悪魔!!デビル!!とキッドは思いつく限りの罵り言葉を王に浴びせてみた。悪魔とデビルは同じじゃないのか? 折角のバレンタイン。 その言葉にキッドは少し心にサクッと来た。 自分はドラミが好きだ。恋愛感情ではっきりと好きだ。 しかし。向こうにとって自分は所詮”お兄ちゃんの友達”位にしか思ってないのではないだろうか。 そうであるかないかが、今日のバレンタインではっきり解る……!!そう意気込んでいた矢先、あげたいものがあるとドラミの方から連絡があった。 自分の祈りは半分だけ通じた。 貰うには貰ったが……他大勢と一まとめだった。 がっくりしそうなテンションを、「でも俺に渡してくれたんだし」と元気付けていたのだった。 いつまでも此処にいても仕様が無い。パトロールにでも行こうかな、と帽子を被った途端、頭に何か振ってきた。 エル辺りでもまた何か悪戯しやがったか、と頭に手をやると。 「--------」 小さな、箱。けれど、とても可愛くラッピングがされてある。 それをあまり崩さないように、そうっと開けると、夢にまでみたハートのチョコ。 それと。
”キッドへ”
宛名しか書いてないカード。しかし、誰が贈ったのか、なんて。 キッドは改めて帽子を被り直した。 「…………さぁて、行くか!!」 今日は、高い所も平気なような気がした。
気がしただけだった。
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