”ガラスの部屋からルージュ持って飛び出して シロップの苦さを知った”
次の日、ナルトは学校を休み、その次の日から学校にやって来た。
皆は、友達の身内の訃報に、なんと声を掛ければいいのか解らず、ただうろたえている。持って居るのは小学最高学年の肩書きだけの、ガキな俺たちに、ナルトは元気よく「おっはよー!」と返事をした。
それをスイッチに、皆も元通りになっていく。
ガキな俺たちに出来ない事を、ナルトはやってのけた。
つまり、ナルトは大人なんだ。
俺が感じていた違和感は、これだったんだ。
席替えで、隣になった時から、その前から。
ナルトは、本当の恋を知っていた、大人だったんだ。
「ふられちゃったってばよ」
別にそれは、落ち込んでいる訳でもなく、かと言ってさっぱりした訳でもなく。
持っていたリンゴを、手を離したら地面に落ちた。それくらい、当たり前のように言った。
「----そ、」
「オレが大人になってもね、同じだって」
俺のセリフを先に奪って、ナルトが言う。
「でもな、オレの事、凄く大事なんだって。特別だって。何か、ほっとけないんだって」
ナルトは、微笑みながら言っている。
けど、それが本当に嬉しいからなのか、それを隠して実は哀しいのか。
あくまでガキな俺には、到底判るものではなかった。
「イルカ先生が、生徒としてオレの事大事にしないなら、それでいいんだ」
嫌われなかっただけで大満足。
でもな、ナルト。
お前、女性として愛して欲しかったんだろ?
男性のイルカ先生に。
「それに」
えへへ、とナルトは笑って。
「思い出に、キスして貰ったし」
へー、そりゃ……
…………
「………ンなッ!!」
「ほっぺだけど」
頬かよ!早く言えよ!!
って、俺も何焦ってんだよ!しっかりしろしっかり!!
「口はさ、オレの事、恋人にしれくれる人にとっとけ、だって。やっぱイルカ先生は、イルカ先生なんだよなー」
「そうだな……」
何て言ってやれたら。
いいんだろう。
今のナルトの心理状態すら、解らない。
「あ。そーそー、シカマル。転校するって話、ナシになったってばよ」
相変わらず重大発言を刺身のつまみたいに話すヤツだ。
「じっちゃんの教え子がさ、じっちゃんの家借りて暮らす事になったから」
「じゃ、来年も」
「うん、中学もみんなと一緒!」
そうか……そうか。
「良かったな」
「うん!」
最後にとびきりの笑顔を浮かべ、ナルトは飛ぶようにブランコから降りた。
「じゃ、また明日な!」
「おー」
くるりと踵を返し、家へ帰るナルト。
そうして、あいつは。
きっと。
泣くんだろう。
誰にも知られずに。
小さい頃聞かせて貰った童話だと、人魚の涙は真珠に、海の妖精の涙は琥珀になる。
だったら、あいつの涙は、ダイヤモンドになるんだろう。
何者にも崩せない固さで。
純粋で。
純真で。
光り、輝く。
それからの毎日は、卒業式の練習っていうちょっとしたイベントはあるものの、リモコンで早送りしても差し支えのないような、平凡な毎日で。
みんなに知れず、実はちょっと変っているのは、ナルトはますますイルカ先生を、先生として慕ったし、イルカ先生は、ナルトをますます生徒として可愛がるようになった事。
そして、星の王子様が帰る時みたいに、静かに、音一つもせずに、綺麗に、儚く、一つの恋の物語が終わった事を。
でも、俺は、知っていた。
<END>
|