俺のこと、考えてくれてたんだ?


 最近、商店街を中心に”凄いイイ男”が出没するらしい。
 容貌は金髪碧眼、一見ホスト紛いのジゴロ調な甘いマスクなのに、口調や雰囲気がざっくばらんにさばけてて、それが却って人を寄せ付ける感じでよりグッドだそうだ。何せ俺は実際にあった事がないので確かな断言は出来ないけど。
 くの一達のその手の話題は、主にその彼が中心だ。ちょっと遠目に見たアスマの所のいのも、「サスケくんとはまた正反対な感じが良かったわー」とか言ってたし、サクラも「結構いい感じだったわ」と感想を漏らしていたし、それを聞いたリーが「サクラさんに好印象を抱かれるなんて……!是非とも戦いたいですね!」と息込んでいたし(何故、戦う)、ヒナタは「でも……わたしは、ナルトちゃん一筋だから!」と決意を新たにしていた(まぁ、あの子の事は紅に全てを任せよう……)。
 まぁ、そこまでなら別にどうでもいいんだ。商店街にイイ男が出ようと大王イカが出ようと。
 問題なのは、件の男が俺にちょっと似てるって事だ。
 その事実のおかげで、俺は何回「親戚なんじゃないのか」と聞かれて、何回「違うよ」と答えた事か。
 そんな訳で、神出鬼没で身分不明のその彼は、双眸がとても澄んだ蒼い色をしている事で”アオ様”と呼ばれている。アオバが間際らしくて嫌だ、とぼやいていた。そんな心配しなくても、誰もオマエを様付けして敬う女の子はいやしないよと慰めたら、人の気遣いを解らないアオバはクナイを投げよこした。
 金髪で、蒼い眼。
 そんな彩を持つのは、俺は一人しか知らない。ナルトだ。
 変化じゃないのか、と聞けば首を振る。性別も違えば、顔も違い過ぎるのだと。
 でも、あいつは意外性もナンバー・ワンだけど、潜在能力はもっとピカ一だ。
 そうじゃないかなぁと、俺は思うんだけどねぇ………



 さーて、そんな俺の仮説の正しさが証明される時が来た。
 金髪で碧眼……だろう、殆ど後ろ向きの横顔しか見れない角度だけど。
 現在くの一達の台風の目である、”アオ様”だ。
 買い物中らしく、大きな紙袋を手渡されている。元の量を知らないけど、多分随分オマケをくれたんだろう。声が明るく弾む。
「あんがと、オバちゃん!」
 そう言われて、40半ばの中年女性は笑いながら照れた。何で、女の人って何をするでもまず笑うのか(怒るときすら笑うんだから、訳が解らない)。
 そのテンションのままくるりと振り向けば、やっぱりその眼は青色だった。
 身長は、俺より頭一個くらい低い青年。逞しさよりしなやかさを感じる体躯で、整った顔と合わせてアイドルとして君臨出来そうだ。
 話に聞いた通り、イイ男で、夜の街を漂わせる顔をしてくるくせに、浮かべる表情も、雰囲気も、晴れ晴れとした空に浮かぶ太陽を連想させるくらい、明るい。色香ばかり漂わすより、こっちの方が余程人が寄るだろう。
 で、だ。
 やっぱりこれは変化で、その元は……
 俺を見て、”アオ様”がひき、と顔を強張らせた。
 そのまま何でも無さを装って(そのせいでさらにバレバレになって)通り過ぎようとする腕を掴んで、一言。
「ちょっと待ちなさいね。ナルト」
「……解っちゃったってば?やっぱり」
 首を竦めバツが悪そうな上目遣いで言うその口調は、疑いようの無い程、ナルトそのものだった。



「だって、この格好だとおばちゃんが一杯オマケしてくれるんだもんよ」
 観念したのか逆ギレなのか、ナルトは近くの演習所に連れ込んだ途端、開き直ってそう言った。
「名づけて!”女誑しの術”だってばよ!」
「アホな事言わなーい」
 いつもより高めの頭にごっちん。あっつぅ〜と蹲るナルト。
「て事で。今からその術は禁止です」
「っえー!!」
 しゃがんだと思えばガバー!と立ち上がる。忙しない子だなぁ。
「何でー!?誰の迷惑にもなってないってばよ!!?」
「ナルトー?アカデミーの時に習わなかったか?忍術を妄りに使用してはならない」
「ぅ………」
 自覚はあったらしく、簡単に黙った。
「それにね、お前のその姿見て、俺に似てるから親戚か何かじゃないのかって、度々人が押し寄せて来たりして面倒な事になってるんだよ、こっちは」
「似てんのは当たり前だってばよ。だって、モデル、カカシ先生だもん」
 何と、まぁ。
「……何だって、俺」
「んー、今まではイルカ先生を真似てたんだけど、イルカ先生、”誑し”って感じじゃねぇもん。術の名前に合ってないってばよ」
 ネーミングに術を合わせてどぉする。
「モデルにしたけど、まるっきり一緒じゃないってばよ。だって、それじゃカカシ先生の偽者になっちゃうし」
 まぁ、それは見れば解る。
 目元や口元は俺の部分を参照としているんだろうけど、それ以外は全部ナルトのものだ。て言うか、人の顔ってのは、だいたい目鼻口で決まるんだけどさ。
 目の前の”アオ様”(まだ変化を解いていない)は、俺とナルトを足して2で割ったような……
 例えば、俺とナルトに男の子供が出来て、成長したらこんな具合、て感じだ。
 ………………
 ……………………………
 あれ?今、なんか俺、凄い事思わなかったか?
「カカシ先生ー。帰って来てってばー?」
 ナルトが中々失礼な事を言って、手のひらを顔の前でひらひら振ってる。
「じゃぁ、その技はいよいよ禁止だね。著作権の侵害です」
「ひでぇー!!………って、”チョサクケン”て何?」
 解らないで怒らない。
「まぁ、人の物は形ある物以外でも使っちゃいけないって事かな。
 俺を少しでも真似てるっていうんなら、使用する度にちゃんと許可取らないと」
「じゃ、使ってもいい?」
 にっこり笑って訊くナルトに、俺もにっこり笑って、
「勿論」
「いいってば?」
「ダメです」
 ぎゃーぎゃー喚くナルト。
「あのねー、これはお前の為でもあるの。
 絶対自覚なんかしてないだろうけど、今、お前のその姿、くの一の間ですっごいんだぞ」
「え?そうなの?」
 やっぱり無かったか。
「そう。だから、このままじゃそのうち襲われちゃうかもしれないぞ」
 この俺の言葉に、ナルトはあっはっは、と手を振って、
「先生、オレってばその時は男だってばよ?」
「馬鹿だね。女が男を襲う事もあるの」
「そんな事……」
「サクラやいのを思い出せー?」
「……………」
 無いってばよ、と続く筈だったナルトのセリフは永遠に途絶えた(言ってて俺もちょっと洒落にならないなって思った)。
 具体例として俺がそうなんだけどね。
 初めては年上の女の人。多分18かな?俺は13だった。
 任務が終わってさぁ、帰ろうという所で捕まって茂みに引き込まれた。俺は水辺と茂みの違いはあるものの、河童を連想した。
 で、後は済し崩し。相手が色々やってくれたものだから、俺はずーっと寝っころんだまんまでマグロもいい所だっただろう。そんな調子だったんで、俺は事後にそれほど体力を消耗しないで、すっかり憔悴した相手に「じゃ、そういう事で」と告げてさっくり帰った。
 この態度が余程お気に召さなかったのか、以来、彼女から声を掛けられた覚えは無い。
 いや、殺しをした後に盛るのって、男だけじゃないんだねぇ。
 こんな事、ナルトに言える訳が無いけど。
「あーぁ、長年の研究がぱぁだってばよ……」
 がっくり、と肩を落とすナルト。
「長年て……大げさだなぁ」
「でも、結構長い時間かけたんだってばよ?
 カカシ先生初めて見て、この顔がいい!って決めて、ようやく納得がいくようになったのって、最近なんだってば」
「へぇー、そんなに長い間、俺のこと考えてくれてたんだ?」
「へっ?」
 素っ頓狂な声を上げてナルトは俺を見る。
 そして俺は……俺も結構間抜けな顔をしてたと思う。
 今、自分が何を言ったかよく解らない。
 いや、言ったセリフは解るんだけど、それがどういう裏づけや意味を込められたものなのかがいまいち……
「……………」
「……………」
 微妙な空気だ………
「……とりあえず、戻んなさい」
「ん」
 小さく返事をし、ぼふり、という煙幕の後に、よく見知ったナルトが現れた。



 その後微妙な空気を引き連れたまま、一楽へ行って、ナルトに奢ってやった。
 何で?と首を捻るナルトに、俺も何でだろう?って首を捻った。
 ただ……何だろう。
 ナルトが、一生懸命、俺の顔を思い描いて術の研究してる所とか、想像してみたら。


 凄く。
 そう、とっても。
 ほんわかした温かい気持ちになったんだ。



 後日。
 ”アオ様”最近見ないわ、と肩を落としているアンコを見て、ナルトが俺の方を向いて悪戯な、けれど楽しそうに笑った。
 それを見て、また何だかナルトにラーメンを奢ってやりたくなった俺だった。





マイ・ナルコ設定→身長145。未来型巨乳。成人男性に変化する、「女誑しの術」が使えます。
んでもって事故チューの相手もサスケじゃないんだなぁ。さーて、誰でしょう?

しかしうちのカカっさんは本当に26歳なんだろうか……
恋愛年齢、ナルトとどっこいどっこいじゃん(ある意味お似合いジャン☆)