「綱手様……込み入ったお願いがあります」
「おや、カカシ、直訴かい?」
それなりの小山になった書類の向こう、里の女傑が言う。
直訴……か、まぁ、そう取れない事も無いな。
「海野イルカという中忍をご存知ですか?」
「あぁ、ナルトと懇意だという……それがどうした」
「……何か長期任務さくっと入れてやって下さい!つーかもう里外退去させてください!!!」
「はぁ?」
俺の必死の抗議が飲み込めないのか、眼を点にして抜けた声を発する綱手様。こんなんで里の最高権力者が務まるんだろうか。
「……そいつが、何か、したのかい?」
”やれやれ”って言葉をでっかく背後に背負って、言う。
「何かなんてもんじゃないんですよ!聞いてくれますか!よし、話しますよ!!
最近のでつい一昨日、遊び人に見えて本気の相手にはそれはもう奥手で奥手でカナリアみたいな脆弱な心振り絞って、やっとの事でナルトに食事誘ったというのに!!
とーとつに現れてこうですよ!?「おい、ナルト、今日暇か?」隣に俺がいるのに素でナルト以外は無視ですよあの男は!!」
「…………………」
綱手様は、ぎゅっと額を拳で押さえた。頭が痛んだろうか。更年期障害とかで。
「そしてその後がまた狡猾な!!ナルトは素直で優しくて可愛くて可愛いから、いつもはすぐにラーメン!って強請る所を、俺との約束があるからそのまま見送るつもりだったんです。
そしたら!!
『俺なぁ、明日から忙しくて』とか言うんですよ。
そんな事言われちゃ、明日も明後日も毎日会える俺より、そっちの方をナルトが選ぶと解って!
ナルトは素直で(以下略)だから、『カカシ先生、また今度でいい?』って上目遣いで聞くもんだから、つい頷いちゃって、気づけば目の前には連れ立って歩く2人の姿ですよ!
解りますか!?その時の俺の気持ちが!!!」
「シズネー、今日は、暑いなー」
「はいー、火の国では、最高気温だそうですよ」
「綱手様……血を吐くような訴えに、その態度は無いんじゃないでしょうか?」
「そうかい、あたしはキレて暴れずに最後まで聞き終えた自分を、褒めてあげたいよ」
ダンダン!と書類に判子を押す綱手様。あー、乱暴にするから、机に皹入ってるよ。
「全部聞いたのなら、俺の心中を察してくれると思います。
て事で里外長期任務を」
「却下だ。
里長として、何の罪もない忍に過酷な申しつけは出来ん」
「思いっきり罪も罰もありますよ。俺とナルトのイチャパラを邪魔した」
「飴玉やるから、帰れ」
ぽい、と本当に飴玉を投げ寄越した。
何で、こんなもん……あ、もしかしてナルトにやってるのかな。だったら貰っとこう。
飴玉をポケットに仕舞いながら、キ!とした眼で綱手様に向き合う。
「頼みます!少し!2泊3日だけでもいいから、ヤツに里外任務を!俺にチャンスをー!!」
「待て。チャンスやって何がしたいんだお前」
「一楽誘って味噌ラーメンですよ」
「……本当か………?」
じっとりとした眼で見る綱手様。
しかし、俺にはそれを証明し、納得させる材料がある。
「綱手様……そおいう事を出来る甲斐性があるなら、貴方の所で来ると思います………?」
「………………」
綱手様は少し考えになられて、
「うん、まぁ、此処は慢性的な人手不足だしな。それに、アカデミー教員とはいえ、経験を積んで損はないだろう」
かくて、イルカ先生に任務が出された。
勝った……と、勝利を噛み締める俺なのに、さっきの自分の発言で、ちょっと心が痛くなったのはなんでだろうね?
今日も今日とてDランク。
受けた時はブーブー言うナルトだけど、いざ任務が始まれば、誰より積極的に動く。
それが結果に上手い具合に繋がることは今は無いけど、近い将来、それはきっと実ると思うよ。俺は。
任務も無事終わり、ナルトが早速寄ってくる。
「先生、今日は何だか楽しそーだってば?」
「ん〜?そう見える?」
そりゃ、この後お前を誘って一楽コースだからねぇ〜。顔も緩むさ。
「何言ってんだ、ウスラトンカチ。こいつはいつでも能天気だろ」
はっはっは、サスケ。明日の朝お前が最初に見るのは、納豆に塗れた自分の布団だ。
「ところでさ、ナルト」
さて!メインイベントに入ろうか!
「今日、暇?何だったら、一緒にラーメン食べない?勿論、一楽ね」
さり気なさという点にとても気遣って、見上げるナルトにそう言う。
「んっと〜、ゴメン、今日はパス」
「カカシ先生大好き!」と言って腰にしがみつくナルトを想像していた俺に訪れたのは、そんな残酷な現実だった。
「………え?」
ヤバい……俺、この歳でもう難聴?
「ちょっと、ナルト、あんたがそんな誘いを断るなんて、お腹でも痛いの?」
サクラが(発言の内容はともかく)心配して聞く。
「何か拾い食いでもしたか」
素直に心配だと言えないヤツは黙ってなさい。
ナルトはそんな2人に手をぱたぱた振って否定して、
「違ぇーってばよ。今、イルカ先生外で任務だからさ、無事帰ってくるようにってラーメン断ちしてんだ」
へへ、と笑うナルト。
なるほど。そういう事か。
……………。
納得してる場合か!!!
「へー、健気な事してんのね」
止めろ、サクラ、褒めるな!!
「い、いや、でもさ、イルカ先生も、自分の為に好物我慢するより、一杯食べてた方が嬉しいと思うぞ?」
「何訳の解んねー事言ってんだ」
煩いサスケ!元暗部の腕で苦無投げるぞ!
「うんや、オレ、イルカ先生が帰るまで、ぜってー食わねぇ!!」
あぁー、決意固めちゃってるー。
「あ、あのさ、ナルトー。
お前がラーメン食おうが食おまいが、遠くに居るイルカ先生には、関係ないんだからさ、行こうよ」
「……………」
「……………」
「……………」
沈黙が、3つ。内1つは、とても重い。
えーと………
……もしかして、俺、思いっきりセリフ間違えた?
ごごごご、と何か地響きが聴こえる。
それの発信源は、一番重い沈黙をしていた人物で、
「………カカシ先生の…………」
それは勿論ナルトで。
「バッカヤロ-------------!!!!!」
その声は、里の外れて任務に当たっていた8班にも聴こえたという………
後日、イルカ先生が戻るまで、ナルトは俺を見てはあからさまにフン!って顔を背けた。
無事に帰ったイルカ先生を、一番に喜んだのは、皮肉な事に俺だった。
<END>
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