女が3人寄れば姦しいとはよく言ったものだけど、男が3人集まれば猥談の始まり。
別に意図して集まった訳じゃないよ。俺が一人で渋〜く一人晩酌していたら、勝手に寄ってきたの。
「最近俺なんかヤベーの!Mの気持ちがちょっと解ってきた予感!」
「うわ、とうとう仲間内に変態が出たか………!」
「俺はどっちかっつーと甚振る方がいいけどなー」
最後のセリフを言ったヤツが、こっち(すなわち俺の方)を向いて、
「カカシはどうなんだ?」
……どう、って言われてもねぇ……
「さぁ、よく解らないよ。大体最後にちゃんとしたのは半年以上前だしねぇ。初が13の時で、今までやった回数トータルしてもせいぜい4,5回って所なんじゃないのかな。
ていうかさ、ねぇ、セックスって楽しいの?」
一拍の間を置いて、やつらは大爆笑を上げた。
どうも俺の発言は、ウィットに飛びまくったジョークだと認識されたらしい。
ゴメン、本音なんだ。
カエル。
見えない事も無いけど、何だか貧相。
ウサギ。
あー、ちょっと無理が見えるね。
キツネ。
……これはスタンダード過ぎるな。大体、地元ではこの獣はご法度だ。
あーぁ、つまらないなぁ……
「うぉい」
ある日色街で熊さんに出会った。
「姿消えたと思ったら……何をしてるんだ、お前は」
「見て解らない?影絵。
見てよこれ、自信作の”急須”」
「……オマエは何処の寂しい子だ………」
センブリ茶でも飲んだ後みたいな顔をしてアスマが言った。可哀想に、俺の自信作。
「だってねぇ……清々しく興味が無いんだもん」
格子の中の遊女。
艶かしい太夫。
美しい花魁。
全部に何も感じない。
別に性を売っている彼女らに軽蔑はしてない。それどころか、男を手玉にとって上手い具合に生きてやるという姿勢は頼もしく感じる。
ただ……例えば、霜降り肉のステーキを出された肉嫌いの人の感じに似てるかな。それが最上級の物で凄く美味しいのは認めるけど、でも食べる気はおきない、みたいな。
そーゆーものなの。
あるいは遊園地に居る高所恐怖症の人とか。そこまでは酷くないかな……
まぁ、結論としては、だ。
俺は性欲処理に呆れるほど関心が無い。
普段18禁を読んでいるせいか、遊び人とかいう印象を植え付けてしまっているみたいだけど、だいたいそんなに滾っている人はエロ本なんか読んでないってーの。それに、イチャパラはストーリーが面白くて読んでいるんだ。他のエロ本には石ころ並みの認識も無いね。
「だったら、最初から来なければ良かったじゃねーか」
呆れ半分で言うアスマ。
「いやだってねぇ……新作のイチャパラがこういう場所を舞台とした話だったから」
「初めて見た……遊郭に観光で来たヤツ……」
今度は呆れ全部で言うアスマ。
影絵のバリエーションにも行き詰った事だし、帰ろうか。
「……性交ってさ、皆が血迷うくらいいいものなのかな」
唐突に言い出した俺のセリフに、タバコの火をつける前のアスマが訝しく顔を俺の方に向ける。
「裸にさせて変な所触ってさ、気持ちいいかもしれないけど、それと同じくらい痛くて恥ずかしいよ、きっと。
俺は好きな子にそんな事絶対に出来ないね。赤の他人にもしたくないけど」
アスマは基本的にいいやつだから、こんな時にはやたらに声をかけない。
「オマエも8歳の時に脂ぎった親父と遊女のセックス、生で見せられてごらんよ。
きっとする気がなくなるよ」
原因は多分あれだろうと。
15歳、自分でビックリする程性欲が薄いと自覚した時、思った。
里外での任務を任せるのに、それが最低ギリギリのラインだったんだろう。
8歳の俺は、当時の身分としては低いランクを任された。それまでランクは高くても、里内の任務ばかりだったから。
任された仕事はターゲットの見張り。任務の内容はとある巻物の奪還だったから、持ち主が気紛れを起こしてそれを見ようと向かった場合に、迅速に仲間に知らせる役目。
この役目は無駄に終わった。持ち主は巻物を見に行こうだななんて、これっぽっちも思わなかっただろう。
それが、性交と呼ぶ行為なのは、言葉の羅列で得た知識で知っていた。
映像で認知したのはこれが初めてで。
嫌悪は無かった。吐き気も感じなかった。
でも。俺は。
自分も大人になったらこういう事をするのかな、と。
怖くなった。
あの時に、俺の何かが壊れてしまったのかな。
だったら、直してくれる人はいないかな。
それとも何かが欠けたのかな。
だったら、埋めてくれる人は居ないかな。
世の中きっと上手く出来ている。
忍びとしての技量が長けている俺は、こういう方面での成長が著しく衰えているに違いない。
こんな自分の、何に焦っているかって、
克服しようと一生懸命にならない所だよ。
以上、2年前の出来事でした。
そして現在。
「ほら見てみろナルト、急須だぞ〜」
空に出ている太陽の位置を考え、斜めに歪んだりしないよう、影絵を作る。
「うっわー!本当だ!すげー!」
「いやいや、喜んで貰えて嬉しいよ。
これが受けるのは子供か酔っ払いしか居なくてねぇ……」
「……先生……今、オレの事遠まわしにガキだって言ったんだってば……?」
機嫌急降下、て言葉がナルトに見えた。
「おー、ナルト、その調子で行けば言葉の裏を読めるようになるぞ?」
「やっぱりガキ呼ばわりしたんだー!ムカつくー!!!」
「はははは。そんなに怒ると、食ったばっかなのにまた腹減るぞ」
「そしたらまたカカシ先生に奢らせるってばよ!」
おーや、意趣返しなんて粋な真似を。
湧き上がる感情のままに、その髪をくしゃりと混ぜる。
ナルトの髪を触るのは好きだ。その感触が気持ちいいから。
髪を撫でたどさくさに、肌も撫でてみる。その手触りが気持ちいいから。
最近、何だかおぼろげに。
好きな子としたい気持ちっていうのは、こんな風に髪を撫でたいとか、肌に触れたいとか、そう思う感情の行き着いた所なんだと思う。
セックスする時の痛さや恥ずかしさも、好きだと告げる時の、喉を塞ぐ様な感覚と同じ類なんだろうか、と思えば、受け入れられるような気がした。
そう思えるようになれたのも、全部、
「ねーぇ、ナルト?」
「何だってばよ」
撫でるな!と怒ったすぐなのに、返事してくれるんだねぇ。
「もう少し大きくなったらでいいからさ、俺の筆降ろししてくんない?」
「筆……?習字?」
「まぁ、意味が解ったらでいいからさ」
今はまだ躊躇いが多い俺だけど、その頃にはちゃんと出来るようになってると思うしさ。うん、いい具合、いい具合。
一人で納得した感じの俺に、ナルトの「先生なんかおかしいってばよ」という容赦ないセリフが飛んだ。
えーと、蛇足的に。
後日、「アンタは何考えてんだッ!」と意味を尋ねた相手が、俺に怒鳴り込んだ。
いやいやイルカ先生、俺はナルト一筋ですよ?とでも今度言ってみようかな。
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