目の前のナルトの口が「あ」の形に広がって サスケとサクラの口も「あ」てなって 多分俺もそうなって(口布の下でね)
数秒後、バッシャーン!と立った水柱の水滴が、光を弾いて それを見て綺麗だなぁ、なんて現実逃避に走ったり
だって、仕方無いんじゃない?
……ヤッバいよなー…… 一番高い樹の天辺。両手で頬杖をつく。 下に広がる里の風景。このどれかに、確実にナルトは居るんだなぁ。なんて。 はぁー、と地面に潜り込みそうなため息一つ。 ……だって、仕方無いんじゃない? 小さな頃から中忍で、15どころかもっと以前に暗部入りで。
”コミュニケーション”なんて言葉、つい最近知ったんだから。
さーて、何処からこんな事になったのか…… 任務は実に恙無く終わった。ちなみに、この班の”恙無く”の状態は、任務中、ナルトがサスケに喧嘩を売って、サスケがそれを軽く受け流して、サクラがナルトを叱咤して、俺は木陰でイチャパラ読んでる状態。 で、帰り道をサクサク帰ってて、小川の近くでナルトが魚を見てははしゃいだ。 そうして、いつもの恒例、「先生!ラーメン奢って!」。 それで俺は、「な〜に言ってんの」とか言って、軽くナルトの頭を指で小突いた。 ……本当に、軽くなんだけど。 それは本当なんだけど。 力が強すぎたのかナルトが思いっきり川沿いに居たのが悪かったのか。 結果。 ナルトは。 目出度く川に落ちた。 少し深さのある川だから、それはそれは落ちた音も水しぶきも綺麗に立ったもんだよ。はっはっは。 笑ってる場合じゃないよー(セリフ突っ込み)。 何が起こったのか解らない、とキョトーンとしたナルトに、慌ててサクラとサスケが駆け寄る。 俺はというと。 ……そのまま此処に来て居る……… 完全な逃げだ。これは。 逃げるなんて……戦略的撤退はよくあるけど…… ………あぁぁ〜もう。 どうしよう。 どうすれば、いいんだよ……… 明日は休みだって、最初に言って置いたからいいけど、……てそういう問題じゃない。 此処は樹の天辺。 上には空。沢山の鳥。 ……だから、俺の頭上でカラスが鳴いて去ったのは、全くの偶然だろう……
「ナルト、川に転落事件」は昼ちょっと過ぎ。今は夕方。 樹の上にいてもさっぱり埒が開かな過ぎて堪らないので、とりあえず降りた。 街を歩いて耳に入った風の噂(ってモンでもないけど)によると、ナルトはかなりご立腹のようだ。 まぁ、川に落とされた相手が黙って消えて、それで怒ってない、ていうならナルトは火影より仙人になるべきだ。 それはさておき。 何でも、「一楽のラーメン10杯奢ってもらっても許してやんねー!」とか言って憤っているらしい。 こりゃ、かなり本格的に激怒してるなー。 俺としては、最後の手段を早々に却下されて大ピンチだ。 「どうしよう」 独り言なんてするタイプじゃないのに、つい口に出た。 頭は何も思いつかないのに、身体はちゃんと解っているらしい(これが世間一般の”身体は正直”ってヤツかな?)足は着実にナルトの家に向かっていた。 ふと、かつての恩師の言葉が過ぎる。
”カカシは、難しく考えすぎだね”
”案ずるより産むが易しだよ。世の中、まるっきり自分の敵じゃないんだから”
……自分では、自分の事、そんなに思慮深いなんて思ってないんだけどね。 でも、自分以外は全部敵だ、て思ってた節があったのは事実。それはちょっと極論かもしれないけど、いつも側に居る誰かが敵になってもいいように毎日振舞っていたのは、認める。
”たまには、素直になってごらん?”
「………………」 ……じゃ、やるだけやってみますよ。
「ぬぁぁぁぁぁ〜!!カカシ先生ってば、ごめんさないも言わないで! 悪い時にごめんなさい、て言わない子にはナマハゲが来るって、イルカ先生も言っていたってば!」 「へぇぇ〜、じゃ、寝るときにお臍隠さないと」 「それじゃカミナリ様………って。カカシ先生ぇぇぇえええええええええええ!!!?」 ……ノリツッコミをするとは……成長したなぁ、ナルト。 一気に壁際と反対の壁まで(俺は窓から入ったから)後ずさったナルトは、吃驚の表情を怒りに変える。 「何しに来たってば!! オレ、あれからパンツまでびしょ濡れで、帰るのにどれっっっだけ苦労………」 「ゴメンなさい」 怒られているのは自分が完全に悪いからだ、て解っているのに、耳が痛くなっちゃうんだから。 聞きたくなくなっちゃうんだから。 ヒトって、何て我侭なんだろうね。 ナルトは、川に落ちた時以上にキョトーンとした。 中に入ってスタスタ近づいて。 立っているナルトの前で、俺はピシリと正座をした。 「ゴメン、なさい」 変な所でアクセントが付いた。 ……暗部の時でも、こんなに緊張なんかしなかったってのに。 先生。 甘えるのは、素直になるのは。
考えるのより、何倍も難しい。
……あぁ、だから俺は逃げてたのか。 「ナルト、ゴメンなさい」 少し頭を垂れているから、ナルトがどんな顔をしているのかは解らないけど、動揺の気配は伝わる。 「せん…………」 「ごめ〜んね?」 「…………」 ナルトの表情がはっきり解るくらい変った。 「な……やっぱりいつもの先生だってば!!!てっきり真面目になったと思ったのに!!」 「何言ってんの。俺はいつも真面目でしょ?」 「そーゆー所が不真面目なんだってばよ!!」 「どうどう。お詫びにラーメン奢るからさ」 「えッ!?本当!?」 キラキラキラリーン☆と効果音が付きそうな笑顔。 ……おいおい、ラーメン10杯奢ってもらっても許さないんじゃなかったのか?好都合といえばそうなんだけど。 「それじゃ、先生!今から今から!丁度夜飯前だし!!」 と、俺の腕を取って立ち上がらせようとする。 「えぇ〜、今?」 「悪いのは先生なんだから、文句言わない!! だいたい、何で逃げたってば」 怒っているというよりは、純粋な疑問でナルトは訊いた。 「あぁ、それはね………」 それは……… …………… それは。 「オマエがあんまり思いっきりよく落っこちてくれるからね〜 爆笑顔晒しそうになったから、急遽非難。だって生徒の前では、威厳ある先生じゃないとね?」 ”ね?”の部分で顔を合わせると、セリフが終わったのとワンテンポずれて怒髪天を突いたナルト。 「だから!あれは先生が!!!」 「はいはい、ごめ〜んね」 「セイイいが感じられないってば!セイイが------------!!!」 ぷんすか怒るナルトを、ラーメンでまた宥めた。 一楽行って、並んでラーメン食べて、美味い!と感想を、笑顔でナルトは俺に言った。
逃げたのは、 ”これ以上、下手な事して、オマエに嫌われたくなかったから”。
ごめ〜んね。
本音が言えない大人でね。
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