まさか、言い訳を考えるので始まる一日とか、 1人の事を考える一日とか、
少し前までは、夢にも思わなかったんだろうなぁ。 ていうか思わなかった。
やっぱり、そういう事でしょう
さて、今日は何て言おうかなぁ。 折角だから、「うわぁ、先生ってば、大変だったんだな!」て、ころ、て騙されるのがいいね。 せめて、「ハイ、嘘」で終わるんじゃなくてさ。 でもあいつらも犬の卒倒だよね(犬の卒倒。ワン・パターン。なんちゃって)。たまには違う切り返しすればいいのに。 何処かの小さいツッコミみたいに「そーじゃねぇだろ!」とか、サングラスの人みたいに「ンな訳ゃない」とか。 何て思ってたら、集合地に着いちゃった。 あらら、何も考えてないよ、言い訳。 ま、いいか、口から出任せで。 「おはよう、諸君--------?」 遅刻した俺なんか気にもしない感じで、サスケとサクラは背中を見せたまま、固まったみたいに佇んでいる。 並んで立っている2人の間から見える、特徴ある髪の色。 が、それがいつもより何だか量が多い。 そして、いつもより位置が低い。 …………ふーん? 「どうしたのかなー」 ひょこ、と覗き込めば、お色気の術発動中のナルトの姿。 身長差が妙だったのは、大きくなったナルトが座ってたから。 「セ、センセイ………」 どうしたのかなーなんて、理由は粗方解るけどね。 術発動中。 涙目のナルト。 呆然としたサスケとサクラ。 導かれる答えは、1つ。 「オレってば、オレってば…………」 ナルトはうぅぅぅぅ〜、と身体を震わせ、 「戻れなくなっちゃったぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」 ………ハイ、正解。 ふと見た空は、雲ひとつ無い晴天だった。
「ま、そのウチ戻るんじゃない?」 『………………』 3人の後ろに思いっきり”担任不信”の4文字がチャクラみたいに現れたんで、補足する。 「ほら、何だかんだでオマエら思春期ってヤツだし。 普通の事でも、この頃には、特に精神面の不安定で色々問題が出てくるんだからさ。 だから、そう珍しい事じゃないよ」 「先生にも、あったってば?」 「ううん、全然無かった」 ナルトの顔がふにゃ、と泣きそうに崩れたのと、”余計な事言うんじゃねぇ!”というサスケとサクラの視線が飛んだのはほぼ同時だった。 「あうぅぅ〜、オレ、このままだったら、どうしよ………」 大きくなったと同時に長くなった手足を持て余し気味に、体操座りをするナルト。見た目と姿勢のギャップが面白い。 そんなナルトに、サスケがこれ見よがしにため息をついた。 「だから、お前はドベなんだ」 「っんだよ!!元はと言えば、オマエが喧嘩売ったのが悪ぃんだろ!?」 と、いう会話(なのかな?)で。 俺を待っている間、どういう流れなのかは知らないけど、まーたサスケがナルトをドベだの何だのと罵って、ナルトがそれに”ドベじゃねーって、証明してやる!”ってなって、自信のある変化を行って、戻れなくなった。 という展開が頭に閃く。 言い争っているというか、単にナルトがぎゃーすか騒いでいるだけだけど、2人の額に手を当て、遠ざける。 「はいはい、其処まで。 ナルトもね、安心していいよ。ちゃんと戻るから」 「……何時だってば?」 「予定は、未定」 そして本日、2度目のナルトの号泣と、ギロリ、と2度目の視線が突き刺さった。
大人の女に変化したナルトは、はっきり言って綺麗だ。 術の目的を容易く果たせるだろうけど、えぐえぐと嗚咽を漏らしているこの姿じゃ如何なものか。 「うぅぅぅぅ……一生このままだったら、オレの夢はどうなるんだってば……」 「いーじゃない、そのままでもさ」 「先生、すっげー他人事だと思ってるってば」 て睨まれちゃったけど、その通りなので。 「うん」 と頷けば、草を投げられた。かわしたけど。 本日の任務は、お流れ。 別に急ぎでも無かったし、何よりこっちの方が重大だった。 ナルトは、ショックが大きすぎて、直ぐに家に帰る気にはなれないらしい。 「女の方が強くなれるかもよ?サクラを見なよ」 「………オレ………サクラちゃんは好きだけど、あんまりああいう風にはなりたくないっていうか……」 「うん。俺も生徒にサクラが2人居たら、ちょっとね」 今頃くしゃみしてるだろうなぁ、サクラ。 最初に比べれば、大分落ち着いたナルトだけど、ちょっと動く度にしゃら、と流れる髪にあうーと情け無い顔をする。 「ま、いざとなったら、先生が責任取って、お嫁に貰ってあげるからさ」 「責任、て?」 「上司としての部下の監督不行届け」 「〜〜〜〜ッ!! そういう事で、簡単にケッコンしちゃ、ダメなんだってば!!」 長い髪で空中に金色の軌跡を作り上げながら、ナルトがこっちを向いた。 まじまじと正面を見たのは、これが初めて。 「…………。 何かお前、あまり変らないね?」 「え?う、嘘ッ!?」 「いやいや、変化が不完全、て訳じゃなくて」 身体を捻ってボディ・チェックに入るナルトに、ぱたぱた手を振って否定する。 変化は、完璧。 何処をどう見ても、大人の女性。 何だけど。 その、金色の髪とか。 蒼の双眸とか。 その2つを纏わり着かせての、くるくる変る表情、物言い。 それらが、どうしても少年のナルトを彷彿させて、止まない。 明確な事を言わない俺に、変な先生、と首を傾げたけど、それ以上は何も訊かなかった。 普段、のらりくらりとはぐらかしているせいだろうね。 体操座りのナルトの横に、崩れた胡坐の俺。 何回、風を浴びたかな。 そろそろ、隣のナルトが、先生、何で帰らないんだろう、ていう顔をしてきた。 「ねーぇ、ナルト?」 「ん?何?」 きょろん、と蒼い色が俺を映す。 ふと見た上の空より、もっと蒼かった。 「もし、本当に、ずっと、このままだったらさ」 「うん………」 と、相槌を打ったナルトの顔が歪んだ。 「……どうした?」 「セン……なんか、体、熱ぃっ……て………」 胸の前で、ぎゅう、と手を握る。 「ナルト?」 引寄せば、簡単にぽふん、と胸に倒れた。 「ナルト?ナルト?」 浅い呼吸が速くなって、強くなる。 「ナルト!?」 そして---------
「戻ったってば〜〜vv」 てっきり自宅に帰ってたんだと思った2人は、2人なりに文献を調べ(サスケまでも)それらしき事例と解決策を引っさげてやって来た。 で、2人は、は?と目を点にした。 俺もしたけどね。 熱い、と訴えた数秒後、それこそ爆発したんじゃないか、ていうくらいの煙を出して、それが薄れてみれば、目出度く変化の解けたナルト。 清清しい顔をしたナルトに、サクラの鉄拳が飛ぶ。 何やかやと文句を言って、素直に心配してたくらい、言えばいいのにねぇ、減るもんじゃないし。 腕組んで渋い顔しているサスケもね。 「ホーラね、俺の言ったとおりだったでしょ? 今度から、口喧嘩した興奮した状態で術使っちゃいけないよ。多分それが原因なんだから」 理に適った俺のセリフに、何故だかまた”担任不信”のチャクラが出るサクラにサスケ。 サクラが口を開く。 「先生……もしかして、ずっとナルトと一緒にいらしてたんですか?」 「うん、そうだよ」 ね、とナルトに顔を向ければ、な、と同意の表情。 俺の返事がサクラの怒りゲージリミッターを解除してしまったらしく、 「あたし達が!!少しでもナルトを早く元に戻そうと!!色々調べていた間に!! 何もしないで、ただ此処でぼけ〜〜〜〜〜、と一緒に居ただけなんですか!!?」 ……台詞のワン・ブレス毎に、”!”マークが4,5個付いてそうな音量…… 「曲がりなりにも、仮にも上忍で!上司で教師なんだったら!! 何かしたらどうなんですか!! あたし達より、ずぅぅぅぅぅぅっと専門的な巻物とか、持ってるんじゃないんですか!!? 知識とかも!!」 「何もしてない、なんて不本意だな……」 キーンと鼓膜が突っ張ってるような気がした。 「ナルトを、見守ってたんじゃないか」 『……………』 「だって、何が起こるか解らないし」 『……………』 あぁ〜、見える、見える。 3人の後ろに”担任不信”。
明日の集合場所を告げて、はい、解散。 蒼かった空は、朱色になって、東の方は群青色が掛かっている。 ”担任なんだったら、何かしろ” ………そう、だよねぇ…… そうするだろうね。ナルトの前担任も、生徒が同じ境遇に遭ったら、同僚も。 でも、なんか。 離れたくなくて、置いて行きたくなくて。 動かないナルトに、俺も動かなくて、ただ、其処に居たかった。 不安になっているナルトを、1人なんかにさせたくなかった。 「……………」 あの時、変化が解けなければ続くはずだったセリフを、思い出す。
”もし、本当に、ずっと、このままだったらさ”
”俺の、お嫁さんにならない?”
………2回も言いそうになったて事は。 「やっぱり、そういう事なのかなー……」 何と無く口に出してみた。
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