アルの現在の姿形、容姿は全て練成者であるエドのイメージで構築されたものだ。
ぶっちゃけ、エドが「こうなれー!!!」と念じた結果である。
「別に文句を言う訳じゃないんだけどさ」
風呂から上がって、長い髪をわしゃわしゃ拭きながら、アルが言い出す。
「どうして、僕の髪を長くしたの?」
現在の髪は、背中の中ほどまで伸びている。元からこう創られたのだから、伸びたというのはおかしいかもしれないが。
「そんなもん、決まってるだろう」
仕事を早く切り上げ(他の人に押し付けたとも言える)夕食をしっかり堪能したエドが、きっぱりと言った。
「俺がアルの髪を、弄れるからだ!!さぁ、拭いてやるぞ手入れをするぞ、こっちにカモン!!」
さぁ!と手招きするエドに、小さな子供のままごとに付き合う母親のような表情をしたアルが近寄った。
「そんな訳で、今日はそんな髪型なのね」
「どうだ!可愛いだろう!」
「はい、うっかり兄さんに火を付けてしまったみたいです」
「今度はもっと可愛いのにするからな!!髪飾りも探しに行こう!!」
リザとアルの会話に、エドが割り込む……というか、勝手に喋っている。2人は、特に気にするでもなく話を続ける。
そんな髪型とは、後ろ髪を緩く三つ編みに縛ったものだ。さり気なく、自分とお揃いにしているエドだった。
「でも兄さん、弄りたいからって言ってるくせに、どうして僕をくせっ毛にしたのさ。
弄りにくいんじゃないの?」
「馬鹿ヤロウ!髪がふんわりしてた方が、可愛いだろ!」
馬鹿は貴方だ、とリザは心の中でだけそっと突っ込んだ。
「む、鋼の!君は男の浪漫というものが、解っているようだな!」
馬鹿が1人増えた、とリザは心の中でだけそう嘆いた。
「おうともよ!髪はふんわり、ワンピースの裾もふんわり!はにかむ笑顔もふんわりだ!!」
「あぁ、癒される…………!!!」
拳をふるって断言するエドに、共感し、震えるロイ。
あの空間一帯に、誰か結界でも張ってくれないかと、リザは心の中でだけ願った。
「俺ぁ、ちょこっとシャープな感じが入ってた方がいいな。さっぱりした感じっての?」
煙草の火をつける前に、ハボックがちょろっと呟いてみる。
「ちッ、ニコチンに穢れてるヤツは、浪漫まで穢れてやがる……」
「そんなものは邪道だ。恥を知りたまえ」
「2人とも、地下室のドアの鍵を持ってきたので、其処でゆっくり語り明かして下さい」
鍵をロイのポケットに無断で入れたリザだった。
「でも、アルフォンス君の髪は本当に綺麗ね。
練成された髪でも、新陳代謝があるから、痛んだりするんでしょう?」
髪をちょっと触りながら言う。
それに、ロイは羨ましい、と悶え、エドは至って普通だった。そりゃそうだ、さっきたっぷり触ったのだから。
「折角だから、綺麗にしようかと思いまして……それに、ウィンリに手入れとか教えて貰ってるんで、結果を伝えた方がいいかな、と」
律儀だなぁ、と煙をふかして、ハボックは思う。
と、唐突にハボックの横っ面が殴り飛ばされる。効果音は「ボクシャー」な感じだ。
「アルが居る所で煙草吸うんじゃねぇ!ヤニ臭くなる!!」
じゃぁ、吸う前に言ってくれよ、と、ハボックの精神が遠くなった。
「そう言えば、エドワード君も……まぁ、いいわ」
「おいちょっと、何飛ばすんだよ。俺にも手入れの秘訣を訊け!!訊き毟れ!!!」
「そんなに自分勝手に生きてたんじゃ、ストレスの溜まる隙間も無いでしょう」
だから髪もお肌もつるつるなのだ、きっと。
「でも、兄さん、ボクには煩いのに、自分の身なりには無頓着なんですよ」
アルが言う。
「髪だって、伸ばすというより切るのが面倒、って理由で伸びてるし。
それなのに暑い鬱陶しい、って文句言うんだから」
我侭だなぁ、とこの場に居る(意識のある)者達は思った。
「いーじゃねぇか、お前が三つ編みにしてくれるんだし」
「そうじゃ……あー!そう言えば!ボクに三つ編み出来るくせに、どうして自分のはしないんだよ!」
今になって気づいた、ちょっとうっかりさんなアルである。
「自分の髪に触って、何が面白いんだよ」
「面白い面白くないの問題じゃないでしょ!身だしなみは自分で管理してよ、子供じゃないんだからさ」
「やだ。アルが居る限り、アルにやってもらう。
んでもってアルはずっと居るから、ずっとやってもらうで決定!!」
「もう、むちゃくちゃな事ばっかり言うんだから!」
その場は、アルが怒って、臍を曲げてしまったかに見えた。
が、後日。
やっぱりエドは三つ編みで。
そしてやっぱり、アルがしたんだろう。
エドの三つ編みを見て、ロイがぽつりと零す。
「私も、髪でも伸ばしてみようか………」
「大佐の場合、その希望は早く叶うでしょうね」
「………………」
黙りこんでしまったロイの横で、リザは勤勉に執務に励む。
そして、今日もエドの三つ編みは揺れている。
<END>
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