別にいいだろ今更挨拶なんか。
と言い張る無礼な兄を諫めて、礼儀正しいおと……妹は佇まいを直し、3人に言った。
「えっと、そういう訳で無事、人間の身体に練成することに成功しました。皆さんのお力沿いあっての事です。本当に、ありがとうございました。
もっと早くに挨拶したかったんですけど、身体が本調子でなくて……まだ歩くのも少し、ふらついちゃうんです」
困ったものですね、と苦笑する。
その仕草、口調、声。紛れも無くアルフォンスだ。
目の前の可憐な少女が、ついこの前までのいかつい鎧と同一人物だと、何もせずに解った人は、それは神かエドだろう。
「いいえ、戻れたのは今までの貴方達の努力の成果よ……と、その前に」
こほん、と小さい堰をする事で、これから言う言葉を勤めて平常に言おうと心がける。
「あの、貴方が女性の身体になったのって………」
セリフを途中で区切り、暗に漂わす感じで言えば、アルの頬がぽっと綺麗に赤く染まる。
「兄さん……もう言っちゃったの?」
「だってこういういい事は、早めに伝えるべきだろー?」
「それはそうだけど……ボクも一緒に言いたかったよ。2人の事なんだから」
「あ、そーか。そりゃ悪い事したな。ごめん、アル」
ごめんごめん、と少し機嫌を損ねたアルの頭を撫でるエド。
3人は頬を同時に抓り、目の前の現実が夢でない事を確かめた。ただ、リザが抓ったのはロイの頬だったが。
「……じゃ、完璧に女の子ちゃんになったって訳だ」
見た目、間違いなく可愛いと断言出切る容貌だが、いかんせん子供であるので中性的で、見ようととれればどちらにでも取れた。
ハボックの言葉に、思い出したようにエドを見やるアル。
「本当に、ちゃんと女の身体なの?兄さん」
子供出来る?と、何だかおやつまだ?みたいなイントネーションで聞く。
「んー、実はまだ何も調べてない」
「アホ--------!!」
あっけらかんと言い放ったエドに、リザの強烈なツッコミが入る。
「だって、いくらなんでも寝ている相手に身体弄くる訳にもいかねーだろ!そこの無能じゃあるまし!」
「どうして君はいつも私をそう侮辱する」
「この場合目的が違うでしょ!何か支障があったらどうするの!それこそまるっきり無能じゃない!」
「……………」
どうして彼女はいつも自分を無視するのか。
その呟きは胸の中で消えた。
「まぁ……確かに早めに手を打てば、って事が無い訳でも無いし……
よし、アル、今から調べるぞ」
「手伝おう、鋼の」
「出て行って下さい、大佐」
しかもご丁寧に手袋を外した大佐だった。
さて、とエドは向き直り。
そして、とーとつに。
むにゅ。
胸をわし掴んだ。
「…………………」
3人の時が止まった。
暫く目を綴じ、難しい顔をしていたエドだが、目を見開き、声高らかに言った。
「脈拍ヨシ、体温ヨシ、感触ヨシ!!!」
「何がヨシか-------!!」
じばこーんとセリフのみにならず、思いっきり後ろ頭を叩く。
「そんなんで何が解ったっていうの!」
「とりあえず俺好みの身体って事は」
「屑以下の事実よ!アルフォンス君!ここは照れる所じゃなくて怒る所よ!」
アルへの突っ込みは気持ち優しめであった。
「サイズはどんなくらいだったのかね、鋼の」
「うーん、だいたいB弱?でも発展途上だし」
「……2人とも、会話の続きはあの世でします?」
ガシャンと安全装置が外された。
「とりあえず、ちゃんと調べた方がよく無いッスか?」
煙草でも吹かしてそうな暢気さで言うハボック。それもそうねと拳銃を仕舞うリザ。2人がハボックに感謝したのは後にも先にもこの時だけだろう。
「じゃあ、今から調べるから、アルフォンス君、ついてきて」
「はい」
「ま、俺が練成したんだから、余程大丈夫だろうけどな」
「エドワード君は来ないで。危険だから」
「嫌だ行く」
「……大佐、少尉」
リザの呼びかけに応え、2人がエドの両脇をがっちりと、シルエット的に捕らえられた宇宙人状態にした。もちろん宇宙人に当たるのはエドだ。
「あ------何すんだよお前ら!!離せ!!!」
「ふん、悪いが鋼の………」
と、ここでリザがドアを綴じたので、ロイがどういうののしり文句を口にしたのかは、リザとアルの知るところではない。
少し部屋が荒れるだろうが(もしかしたら無くなってるかもしれない)アルの身体の方が先決と、ずぎょーんばこーんという破壊音を背にし、リザは行った。
中には、国家錬金術師の他に、たった一人何の特殊能力もない普通の軍人が居るのを気にもせず。
数時間の時を経て、リザとアルが小ざっぱりした(練成し直した)部屋に戻った。
隅っこの方でぼろ雑巾のように横たわっているのはハボック(巻き込まれた)だろうか。
「脳、神経、血液、各器官。正常だという結果が出たわ」
「ほーらな、やっぱりだろ」
やっぱりというのなら、心底ほっとしているのは何故なのか。
それを問いただしたい気もあるが、今は結果を伝えねば。
そう、是非伝える必要がある。
「それで、今のアルフォンス君の身体は、まだ第一次成長期の最中みたい」
「ふーん」
「そうなんですか」
「ふーんそうですかで済ませていいのかね、2人とも」
そう言ったのはロイで、どういう意味?と2人で顔を傾ける。
「君らは子供が作りたいんだろう?
第一次成長期という事は、アレだ。生理が来てないという事だぞ」
イコール子供が出来ないという事実に、エドとアルは雷が当たったようなガビーンという衝撃に見舞われた。
「そ……そんな……!」
打ちのめされ、頭を抱えるエド。
「て事は俺は今まで単に気持ちがよくなってただけなのか………!!」
もの凄く聞き捨てなら無いボンバーなセリフが出た。
「ま、いっか」
よくねぇよ。
隅っこで草臥れているハボックは心でツッコんだ。
心だけでの筈なのに、床かから練成された錐に襲撃されたのは何故なのか。その謎は真理にも解けない。
「はっ、鋼の!すでにもう事は済ませたのか!?」
「うん、だって善は急げって言うじゃん」
微妙に使い方間違ってます。
「子作り目的と言う事は、さては中出、」
ズバキューンと至近距離で通過した弾丸に、ロイのセリフは途絶えた。
「仕方ねぇな、成長するまで待つしか………」
ふと。
エドが自分のセリフに何か引っかかりを感じた。
それを、リザが形にしてくれた。
「第一次成長期は、身長が伸びる時期なの」
「………………」
「アルフォンス君、きっと伸びるわね、背」
「………………………………」
兄さん、どうしたの?と兄が抱える問題の大きさに気づいていないアルが訊いていた。
翌日からコップに注がれた牛乳と睨めっこをしているエドを見かけるようになった。
そんなエドに、周りの皆は「魚からでもカルシウム取れるじゃん」とは、言ってあげなかった。
<END>
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