カウントダウン





 長いトンネルをようやく抜けるような、深い海の其処から上昇するような。
 そんな、感覚。
 目が、覚めるという事。



 眩い視界の中で、一段と輝くものを見つけた。
 太陽。
 ではなく。
「……兄さん」
「お。起きたるか、アル?」
 自分でも声に出来たかどうか、解らないくらいだったのに、きちんと答えてくれるのが嬉しい。
 それ以前に、最初に目に入ったのが、一番好きな人なのが嬉しい。
 何故だか、練成されてやたら疲れて眠くて。
 身体というより、精神の方が「疲れる」感覚に驚いているからだとかは聞いたけど、心はずっと起きて一緒に話をしたり、目に留めていたりしたいのに。
 眠いのを我慢して、普通を装ったつもりだったのに。
「眠いんだったら、寝ろ」
 少し怒ってるみたいに言って、付け加えた。
「お前が寝ている間中、俺が抱きしめてやるから」
(----本当に抱きしめてるんだもんな、兄さんは)
 背中に回った腕、すぐ横の胸。
「ねぇ、もう少しこのままでいい?」
「何だよ、甘ったれだな」
「兄さんには負けるよ」
 くす、と笑う。
 何言ってんだ、と軽く額を弾いて。
「----いいに決まってんだろ。聞くなよ」
「うん、ごめんね、兄さん……」
 こてん、と頭を預けて言う。
 とろとろと、再び寝入ってしまう前に、一言。
「仕事中なのに………」
 本当だよとロイとリザとハボックの見えないセリフが大音量でハモった。
「……エドワード君?」
 口元が引きつるのを、必死に堪えてリザが言った。
「アルフォンス君がまだ寝るようなら、別室に置いた方がいいんじゃない?
 皆が居ると落ち着かないでしょう」
「えー、やだ。アルと一緒に居たい」
 リザが顔の筋肉を酷使しているのを全く知らずに、エドはそんな答えをする。
「まぁ、確かにこの無能と同一空間に居させるのは心苦しいものがあるけどな」
「ハボック、言われてるぞ」
「ヤだなぁ、まだ三十路前にボケたらいよいよ始末に負えませんよ?大佐の事に決まってグヘホッ!」
 ロイに裏鉄拳を食らって床に崩れ落ちる、そんなハボックにぴったりな諺がある。”雉も鳴かずば打たれまい”。
「とにかく、おと……いも……アルフォンス君抱っこしたまま、仕事なんて出来るわけ無いでしょ!別室に寝かせてきなさい!」
「馬鹿ヤロウ!起きた時俺が居なかったら、アルが寂しがるじゃないか!」
「その点の心配は無用だ鋼の!何故なら部下思いのこの私が、その家族の面倒を付きっ切りで見る覚悟だ!」
「会話をややこしくしないで下さい、大佐」
「すまない。ごめんなさい」
 ロイはへこへこ謝った。
 リザのリボルバー(安全装置外し済み)を向けられて、尚も言い募れる人が居るとしたら、それは自殺志願者か目の前のブラコンだ。
「俺だってこんな汚染人物が居る所にアル連れて来たくなかったよ!でもが本調子になるまで傍に居てやりたい、っつってんのに、仕事があるだなんて無慈悲なそこの少佐が言うもんだから、俺としては連れて来るしかねーだろ!?」
「……アルフォンス君姫抱っこして此処に来た時は、もう査定無しで資格剥奪してやろうかと思ったわ……」
「してくれてもいいのに。そーしたら晴れて俺はアルと2人きりで薔薇色生活v」
「だからしなかったのよ!」
 エドワード君は人体練成の隠蔽の等価交換に、国家錬金術師そのまま続行させられる事を命じられた訳です。
 そして隙あらばとっとと返還してアルと駆け落ちしようと企んでいるのです。
 リザとしては、そんな危険人物を野放しには出来ない訳です。
「とにかく別室に寝かせてきなさい!あと子供を作るのも止めなさい!!」
「一緒に居るし子供も作る!文句あるか!!」
「今まさに文句言ってるでしょうが--------------!!」
 東方司令部名物になりつつあるリザ母さんとエドどら息子の親子喧嘩。
 そして、アルの寝顔をどれどれ拝見しようじゃないかと覗き込んだ所を脳天にダブルでパンチを落とされたロイだった。
 そんな強烈な面々に隠されがちだが、こんな騒動の中ですやすや寝ているアルは、かなりの大物であった。
 ハボックはまだ倒れているが、ほっとけばその内復活するだろう。ハボックだから。





あーもう。
……何ていったらいいのか誰か教えて。

アルをよーやっと出せました!またすぐ寝ちゃったけど!
いえ別にスリーピング・ビューティーなどとは!!

リザ母さんとエドどら息子の会話が楽しいです。どうしましょう。
それに隠れて大佐の存在が希薄になりつつあります。どうしましょう。
ハボックはこれからも一作につき殴られて地に伏せる身分になるんでしょうか。どうしましょう。
これ、一応エドアルなんですけど。一番のどうしましょう。

あ、カウントダウンは寝ているアルが起きるまでの冒頭ね!
……自分で解説するのって何て情けない(しかししないと解らない)