驚愕の事実を知って、最初に質問出来るまでに我を取り戻したのはリザだった。
「どうして女の身体に!?」
「女じゃなきゃ俺と子供作れねーじゃん」
「作る気---------!!?」
絶叫、再び。
「何だよ、さっきから煩せーぞ」
「煩くさせているのは自分だと自覚を持って!しっかりと!!
何!?貴方、アルフォンス君と子供を作る気!?」
問い詰めるリザに、エドはふぅ、と溜息を吐いた。
「皆には隠していたけど……俺はずっとアルの事が好きだったんだ。弟以上の、特別な存在としてな………」
「なっ………!?」
エドの言葉に、リザは驚愕した。ロイも、ハボックも。
こ、こいつ………あれだけあからさまに態度にこれでもかと出しておいて隠していたつもりだったのか!!?
「そんな訳で、俺はアルが好き。アルも俺が好き。
家族のぬくもり欲しさに禁忌犯までした愛し合う者同士、新たに家庭設けようとして何が悪い!」
「悪いと思ってない所がまず悪い!!!!」
ズビ、とリザが言う。
「大体貴方達、兄弟でしょ!?」
「そこはまぁ、目を瞑ってもらって」
「出来るかぁぁぁぁぁぁ!!」
「何でだよ、情報操作なんて軍の義務みたいなものじゃねーか!」
話の趣旨として、その発言はあってるやらあってないやら。
「いいか!お前ら誤解してるかもしれねーけど、女にしてくれてって言ったのは、アルの方なんだぞ!?」
『何ぃ!?』
3人の声がハモる。
「鋼の!アルフォンス君が女になったのは、練成中の君の脳内の善からぬ妄想の影響じゃないのかね!?」
「誰がいつそんな事を言った!それじゃまるで俺はとんだ危険人物じゃねーか!」
「知らぬが仏……とは、まさにこんな時に使う……」
「おい、それはどういう……まぁ、いいや、それは後にするとして。
……そうだな、あれは俺たちが無事賢者の石を見つけた時………」
うわぁ、話長くなりそーと呟いたハボックに置いてあるだけの灰皿を投げてぶつけた。大理石だったから少し以上に痛いかもしれないが、エドは気にせず話を続ける。
「いつからそうだったのかは解らない。が、きっかけになったのはそれだったな。
賢者の石を見つけてから、アルの態度が少し変わり始めたんだ。
何ていうか、生身の身体を取り戻せるのに、あまり喜んでないような、そんな気がしたんだ。
最初は何でも無いと通していたアルだったが、真剣な俺に誤魔化す事は出来ないと、そうして、アイツは言ったんだ」
その時のアルでも思い出しているのか、エドは目を瞑って言う。
「俺の事が、好きだ、って」
余韻に浸っているのは、エドが黙る。
いー加減にさっさと喋ろと誰かが突っ込む前に、再び言い出した。
「好きだと告げた後のアルは、ひらすら震える声でごめんさないと呟いていた。
悪い事だと思ったんだろうし、俺に嫌われたくなかったからだろう。
しかし!」
くわ!とエドは唐突に開眼し、
「そんな小刻みに震えるアルの肩を俺はそっと抱いて、今まで隠しに隠していた胸の内を洗いざらいぶちまけた!お前がどれだけ俺を好きだろうが、俺がお前を好きなのには敵わないだろうけどなと締めくくって!
その時俺を見上げた潤んだアルの双眸と紅潮した頬を見て決めた。俺は、こいつを、一生愛し続けると!!」
「ちょっとごめんね、エドワード君」
熱く語るエドにリザがストップをかける。当然、エドは不満顔だ。
「何だよ」
「それは、練成前の事よね?」
「そーだけど?」
「つまり、アルフォンス君はまだ鎧なのよね?」
「当たり前だろ。何を聞きたいんだよ」
「……………いえ、何でもないわ」
鎧が何で目ぇ潤ませたり頬染らしたり出来るんだよととても突っ込みたかったが、不発に終わるだろうから、そっと止めといた。
「まぁそんな訳で目出度くお互いを想う故の行き違いを解消した後、アルが練成の時に性別の自由がきくのかと聞いてきたんだ。
出来ると答えた俺に、アイツは何て言ったと思う!?」
「あー……何て言ったの?」
目を輝かせて意見を求めるエドに、もう勝手にやってくれよと全て投げ出したい衝動を必死に堪えて言うリザ。
「出来る事なら、俺との子供が欲しいって言ったんだよ!その時のアルのはにかんだ笑顔ときたら!!」
「……………」
もう、何も言うまい。思うまい。
リザの脳裏に諸行無常の4文字が頭に過ぎる。
「って、そう喜んでいられる事情でもないんだけどな」
ふー……とバラ色のオーラを、物憂げなものへと変えて言う。
「何せ、俺は国家錬金術師、軍の狗だ。
行けといわれれば行くしかない。
アルを護る為に、アルと離れなくちゃならない、そんな事態にもなるだろうし、最悪死んでしまうかもしれない。ま、俺はそこの無能盾にしてでも生き延びる気満々なんだけどな。
それはともかく」
ロイは将来エドの盾にされた挙句、ともかくと軽く流されてしまった。
「そんな時、俺達の子供でもいれば、俺にとってもアルにとっても救いになるだろう。
----そんな覚悟を決めている俺達に、これ以上何か言う事があるかお前ら!!?」
「アルフォンス君と子供を作るなんて事は止めなさい」
「うぉー俺を越す鋼っぷり」
鋼鉄の如き堅さで発言したリザであった。
もちろんそれでうん解った止めるよと謝ったら、そいつはすなわち俺の総取りなエドワードではない!
「何でだよー!家族欲しさに禁忌犯した愛し合う者同士、新たに家庭作ってどうしていけない!!」
「兄弟なのが悪い」
「まぁ、兄弟だってのはこの際目を瞑ってもらって」
「出来るか-------!!」
「いいじゃねぇか!情報操作は軍の義務みてーなもんだろ!?」
「操作しきれないわよそんなデカい事実!あぁもう貴方は、一人単体でどうしてこれだけ禁忌が犯せるのかしら!?」
「まず、世界の中心は自分だと堅く信じる事からだな」
「そんな事は訊いてないわ------!!
とにかく子供作る事なんて、止めなさい!止めなさいったら止めなさい!!」
「ヤだ!絶対ぇーアルと子供作るんだー!!!」
何だか内容さえ目を瞑れば、だだをこねている子供を叱る母親の光景みたいで少し微笑ましい。内容さえ目を瞑れば。
「大佐!この場の最年長者として、何か重みある意見を言ってください!!」
今までほったらかしにされていたロイだが、居る事は居た。
意見を求め、(少し失礼な)言葉で呼びかける。
ロイのその顔は、思いのほか真剣だった。
「……鋼の」
「何だよ」
自分の意見は変えねぇぞ。変えるくらいだったら世界の法律を変えてやらぁ!な決意を込めたエドは返事する。
「アルフォンス君が練成された直後の事について、質問があるのだが………」
その内容に、2人は身構えた(ハボックは灰皿がいい感じに頭に当たったらしく、まだ撃沈中)。
錬金術師の見解として、何かがあるのだろうか。
注目の中、ロイは口を開く。
「アルフォンス君が練成された時………
フンドシは付いたままだったのかね!?」
…………………………
ゴボキ、と2人の蹴りを浴びて、ロイの体内からしちゃいけない音がした。
床に倒れたハボックの身体の下から滲んでいる血の量も、そろそろヤバいくらいなのだろうが、誰も気にしなかった。
誰も。
<END>
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