ふあぁぁ、と大きな欠伸をして寝室から出ると、アルが何かごそごそとしていた。
「んー?何してんだ?」
ぼりぼりと頭を掻きながら近寄ると。
「じゃ、兄さんさよなら」
とても軽く、アルフォンスが言った。
さよなら、と。
……さよなら?
「さよなら……って、何処行くんだよ、おい」
見ればアルの足元には大きな鞄がある。おそらくは着替え等が詰った。
「さぁ、何処行くかは解らないよ。訊かないと」
「訊く?」
誰に、とエドが問いただす前に。
「やぁ、用意は出来たかい?」
「大佐!」
やはり、エドの前にアルが言った。現れたロイに、好意の表情を隠さずに抱きつく。
抱きつく。
その瞬間、ズガーンとハンマーで殴られたような衝撃がエドを襲う。
「こら、アルフォンス君。大佐でなくて、名前で呼ぶようにと言っただろい?」
「あ、すいません。……でも、だったら僕もアルでいいです」
「そうか、だったら、アル」
「何ですか?ロイ」
「いや、呼んでみたかっただけだ」
なんて、見かけたら石でも投げたくなるようなイチャっぷりが目の前に展開されている。それも、天敵のロイと最愛のアルで。
「なっ……なっ、なぁぁッ!?」
「じゃ、そういう事だからね、兄さん」
「何でっ!どうしてアル!大佐なんかと!!?」
「だって、兄さんと違って大人だし、背も高いし牛乳も飲むんだよ」
アルは当然のように大佐に腕を絡め、仲睦まじく歩き出した。エドに背を向けて。
「そんなッ……!アル!アル!!そんなにその男がいいのか!アニメのOPで指パッチンして、雑誌の付録でカトちゃんペをしているようなそいつがそんなにいいのか-------!!
お前に行かれたら、俺は……俺はどうしればいいんだよ----------!!
戻ってきてくれ、アル、アル---------ッツ!!!!」
ざばっしゃぁぁぁぁッ!!
そんなエドに、上から水が落とされた。
そして、エドは夢から現実に戻った。
「…………ん?」
周りを見れば、此処は東方司令部だ。
ロイが居て、煙草を吹かしたハボックが居て、その2人が極力目を合わせないようにというかうっかり刺激しないようにしているリザは、空になったバケツを持っている。怒髪天を突いて。
「お目覚めかしら?エドワード君?」
リザはとても静かに言った。温度の高い炎は青白くて揺れは少ないものだ。
「夢………」
エドはぽつりを言った。
「そうか、今のは夢。夢だったんだ……
あぁ〜〜〜、良かった」
「良かった、じゃない!!貴方今どんな時か解ってるの!?」
「仕事中だろ?」
「解ってればいいってものじゃないの-----!ていうかむしろ悪いわよ!」
「だって仕方ねーじゃん。昨夜は盛り上がったんだからよ」
「そんな解説はいら------ん!!」
エドの頭をスパーンと叩き、ついでに要らん想像をしちゃった2人にも威嚇射撃をする。リザは大忙しだ。
「ま、後はこんだけか……最近平和でいいよなー」
ほわーと言うエドの背後の壁には、大量の銃弾の跡があった。
「な、中尉。近い内に休み取ってもいいか?」
「…………」
ついさっきの瞬間まで、自分が激怒していた……いや、今もだが、を彼は知っているのだろうか。
リザははーっと深く溜息をついた。自分の中に溜まったものを吐き出すみたいに。
結局、何を言っても無駄なのだから。
彼を動かすのは、アルフォンスだけ。まるで自然界の掟みたいにそれは解りきった事。
「……そうね。明後日にでも」
「よし!」
アルとデートだ!とはしゃぐエド。その顔は何となくアルの表情も連想させる。
肉親だから……という理由は今は浅い。練成した身体で、血のつながりは無い。
それでもそう思ってしまうのは、この2つは対なのだと、自分が認めてしまっているからに他ならない。
何とも、2人とも相手が見つかったものだ。
運命の相手なんで、世界に散らばった自分の翼の羽を集めるようなもので。
出会えたのなら、空を駆け回る自由よりの至福が手に入る。
<END>
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