もう1度会いたかった





 ガタゴトと車内に音を響かせ列車が進み始めた。
 最初は歩く程だった速さが何者も追いつけない程になり、風景は残像を残すだけとなった。
 エドは列車の進む反対の方向を向き、その先に居るだろうアルの姿をそっと綴じた瞼に浮かべた。
 まさか、こんなに早くアルと離れる事となるなんて。
 仕方ない事と言えば仕方なかった。どうしようもないと言えばどうしようもなかった。
 所詮自分は軍の狗だ。もう目的は果たしたから時計の中の写真だけ抜き取ってあとは質屋へ売って食費にでも役立てようとしたのだが、慢性な人事不足な軍は大変非常に優秀である自分を手放す事を辞さず、依然として国家錬金術師の看板を立てているのだった。
 専属になりたいのは国でもなく軍でもなく、他ならぬ愛するアルフォンスだというのになんという仕打ちだろう。
 離れる事で、頼りがいはあるけど実際はカナリア程の繊細さしか持って居ないお前の心に、一体どれ程負担を掛けてしまうんだろう。
 あぁ、こんなにもう離れてしまってはもう適わない想いだけれど、せめて、せめてアルフォンス、お前にもう一度会いたかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
『やかましいわ!!!』
 ゴッ!バキョ!と車内であるから炎や銃は止めて、蹴りと拳で黙れせたリザ&ロイ。
「権力で無理やり引き裂いた上、愛する人との別離に浸らせてくれないなんて……国民の言う通りだ……軍なんて悪魔だ、鬼だ。無能だ」
 軍使2人のキックとパンチを食らった筈のエドはとてもぴんぴんしていた。この辺、ハボックやロイとは違う所だ。
「何だと鋼の!」
「そうよ。1人を見て大海を知ってはいけないわ」
 リザの言葉の意味をちょっと考えてみると、ロイが酷い言われようなのが解る。
「だいたい今のは浸っていたというより単なる妄想症候群じゃない。
 一体誰が非常に優秀で、貴方と別れた事で胸を痛めるというのかしら」
「中尉!人のモノローグを読むなよ!」
 プライバシーの侵害だと憤慨するエドに、解っていたけど、やっぱりこいつ途中から口に出してた事気づきやがらなかったなと思う2人だ。
「それに何が別離だっていうのよ。3泊4日の出張じゃない」
「4日だぞ4・日!!24時間かける4で96時間もアルに会えないんだぜ!?きゅうじゅうろくじかんだぞ!大抵の事は多分出来るんじゃないかな、って時間だ!!」
 あまりそれでは聞こえがよくないぞ、エド。
「そんな長い時間、あの可愛くて可愛くて(以下無限大)仕方ないアルが1人きりなんて………!
 いつもはカッコイイ彼氏(すなわち俺)付きだからボクなんてとても、ってヤツからあちこち声が掛かってるかも!
 最悪どこぞの下衆に裏路地に連れ込まれ………!!おい、列車止めろ!俺は帰るってーかむしろ止める-------!!!」
「落ち着いてエドワード君!とりあえず一番の危険因子はこうして同行してるじゃない!」
「おお、俺とした事がうっかり!!」
「やめたまえそんな真っ直ぐに私を見るのは」
 リザの説得により、(自分の想像で)勝手に血迷って何が(多分物騒な物を)練成しようとしたエドをとめる事に成功。これの等価交換となったのはロイの心の傷である。まぁそれはどうでもいいことだが。
「……まぁ、確かにアルは体術が俺より強いくらいだし、それっぽい連中は前日に闇に滅して来たから、大丈夫だと思うけど………」
 アルから「いいから行きなさい」と言われた事もあって、仕事で仕方ないと100位覚悟を決めて割り切ったが、やっぱりアルの身が心配なエドである。
「そうね、何だかんだで今は女の子だし。
 一応、少尉に暇があったら見に行ってと言っておいたけど」
『ン何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?』
 リザの言葉に、今度はエドとロイがハモる。
「バカー!何でそんな免罪符渡したりすんだよー!!」
「全くだ。それなら私が残ってあいつが行けば」
「いやそれを考えたら今の状況がベスト」
 冷静さを失わないエドだった。
「ったくハボックの野郎……まかり間違って部屋に上がりこんで、アルの手料理ご賞味してたりしようもんならただじゃおかねぇぞ」
「その時は是非私も発火布持って参戦しようじゃないか」
「私もトリガーを引かせて貰うわ」
 物騒な考えを持つ3人を乗せて、列車は進む。




 さて同刻。
「あー、本当遠慮なく食っちまったなー。アル、悪ぃ」
「いいんですよ。それだけ食べて貰えると、作った方としてとても嬉しいです」
 この瞬間、ハボックはエドにただじゃおかなくされ、ロイに発火され、リザに射撃される事が決定付けられたが、それは今は誰も、する側もされる側も知らないのだった。
 リザに言われた通り、(こんな時だけ言いつけに忠実な)ハボックはひょこひょことアルとエドの止まる部屋へと訪れた。
 シチューを煮込んでいたアルに、お昼がまだでしたら、と誘われたのだった。
 ちなみにシチューは当然のようにクリームシチューなので、帰ってきたエドにただじゃおかなさ具合10倍増しだ。
「食後は紅茶がいいですか?それとも、コーヒー?」
「お、そこまで悪ぃな。じゃ、コーヒーで」
 そんなやり取りをして、何だか新婚さんみたいだなぁ、とエドに聴かれたら十中八九遺族の元へと逝かされそうな事を思う。そしてこの時、列車内のエドが訳も無くロイをどついた瞬間でもあった。
 やがて香ばしい薫りが室内に広がり、コポコポと長閑な音が聴こえる。
 なんとも穏やかな昼下がりだ。
 ふと、ハボックが視線を巡らせば。
 エドが帰ってくる日にちにマルが付けられているカレンダーを、見つけた。




<END>





初・ハボックが気絶しない話☆。
帰ってきた時が凄まじそうですがね。特にエドが。主にエドが。

別にだれも気にしないとは思うけど、ウチはエドアルでハボアルじゃありませんよ。
ハボ兄さんはまぁ、兄弟感覚?本当の兄は暴走してますしね。
リザ姉さんはお姉さんもしくはお母さん。
ロイはお父さん……じゃねぇな。確実にウチのは。
しかしお題の切実さが虚しい。