よーするに、元からある肉体に、練成した新しい人体を合わせようとするから、無理が生じるのである。
そんな結論に至ったエドは、実に思い切った策に出た。身体を1から作り直したのである。
無謀だ、やめとけ、馬鹿な真似はするな、骨は拾ってやるぞ、弟の事は任せておけ等色々好き勝手な事を言われ(そして仕返し)たものの、エドはアルの身体と引き続き、自分の身体を練成する事に成功したのであった。
人体練成、という部分にだけ重みを乗せれば、成功であった。そこだけなら。
「…………………」
「…………………」
エドとアルはしばし無言で向き直った。
人類最大のタブーに挑むのである。覚悟も集中力も、限界を超えて酷使しなければならない。が、そんな時だからこそ、大事な人に居て欲しくて、アルはその練成に立ち会った。
「…………………」
「…………………」
無言による沈黙は、まだ続いている。
エドは自分の身体の変化に気づいていた。正確に言うなら、練成し終わり、アルを見た時から----
見”上げた”時から、解っていた。
エドワード・エルリック。現在の身長、134センチ。
「と、とにかく……命の無事は何よりだ………」
「よ、良かったわね、エドワードくっ………!!」
「………っ、…………!!!」
「……だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!お前ら------!!
笑いたきゃしっかり笑え!中尉、口元引き攣ってんぞ!少尉!!腹筋の筋肉痛起こしてんじゃねぇ!
そして大佐!目障りだから消えろ!!」
「何故私にだけ、そんな悪意も殺意もむき出しなのかね」
「お前に気遣って媚を売る俺なんて、赤い羽根募金箱に金を入れる大統領より想像つかねぇよ!!
て事で!
俺は元の身長プラス15センチアップの身体になる為、アルと2人きりの旅に出ます!探さないで下さい!!じゃ!!」
「待ちなさい」
くるりっ!と回れ右してすたこら退出しようとしたエドのコートのフードをがっちり掴む。現在の身長差の為、此処が一番掴み易いのだった。
「小さくはなったけど、練成するには何も支障無いんでしょう?だったら、国家錬金術師として働いて貰わないと」
冷静な中尉はエドワード君に仕事しとけと仰る。
「おい!外見年齢10歳未満の俺に仕事させる気か?!」
「中身が実際年齢以上にふてぶてしいから、大丈夫よ」
「何が安心なんだ!!」
通常さを取り戻したのはリザだけで、他2人は未だ腹の中で蹲る大爆笑の渦を抑えるのに必死だ。いい加減にしないと、エドがまだ物騒な物を練成しそうだ。
と、その時。
「兄さん、昼食持って来たよ」
にっこり。という温かい笑顔とお弁当入りのバスケットを持ってアルが来た。
「お、アル。すまねぇな」
「いいんだよ。料理作るの、結構楽しくなってきたんだ」
今日のオムレツは自信作なんだよ、と言う。
「じゃ、早速」
「え、此処で食べるの?」
「沢山食って、もりもり育たないとなんねー立場なんだよ、俺は」
そう言って、イスの高さが合わない為に、分厚い書物数冊を座布団のように座席に乗せた上に座る。その様子に、ロイとハボックがぶふーっと噴出したものだから、エドがぱん!と両手を合わせてぐぼ!と床から大きな錐が練成して、ザシュ!と2人を襲ったが、まぁ、日常と言えば日常だから、気にしないでも構わないだろう。
「お、マジ美味い」
「でしょう?」
もくもくと子供用サイズスプーンとフォークで食事するエド。普通大人用サイズだと大きすぎて食べづらいのだ。
「あ。
あーあー、兄さん、ほっぺたにケチャップ付けてるよー」
「んぇ?」
「もう、口に入れたまま喋らないでって」
もごもごと口を膨らませるエドに躾けるアル。
と、お絞りを取り出して、汚れた口元をごしごし拭ってやる。
その後、もって来たポットから野菜スープをカップに注いだりと実に甲斐甲斐しい。
と、言うか。
何か。
「……大佐、大佐」
ハボック(とりあえず喋れる程度に無事だった)が、横に居るロイにこそっと言う。エドには決して聞かれないように。
「何つーか、アルのやつ、大将に甘くないですか?」
「私もそう思っていた所だ。実に羨ましい」
真剣に羨ましがってる場合か。
「甘い……と言うよりは、可愛がってる感じかしら?」
「アルは仔猫が好きらしいからなぁ」
エドとアルを見る。
むしゃむしゃと一心不乱に食べるエド。と、それを優しく見るアル。まるで野良猫にミルクをやっているような光景だった。
<END>
|