そんな訳で、七夕です。
だから、皆は短冊に願い事を書いている真っ最中。
「『アルと幸せに暮らす』『アルと楽しく暮らす』『アルと穏やかに暮らす』---------!!!」
「『中尉とディナーに行きたい』『アルフォンス君とデートしたい』--------!!!」
あまり、舞台背景とか時代考証とかは、気にしないでくれると嬉しい。
「ハボックさんは、何を書いたんですか?」
ひょっこりとアルがハボックの短冊を覗き込む。
「ん〜『これ以上、煙草が値上げしませんように』だな」
「ハボックさんらしいですね」
あはは、と明るく笑うアル。
まぁ、一番願いたい事は、とてもお星様が叶えられるようなモンじゃねーしな……と確実に短冊を増やしている2人を見やる。
「ほら、大佐、お前の分も書いてやったぜ『まともな大人になれますように』」
「ほら、鋼の、君の分も書いてやったぞ『背が伸びますように』」
刹那。破壊音が一角に轟いた。(2人とも沸点がとても低いです)
「リザさんは、何にしたんですか?」
「そうね、まだ書いてないけど……『世界平和』ってのにしようかしら?」
そんな風に悪戯に微笑む彼女の後ろで、錬金術師2人が抗争勃発中。
「人のばっかり見てないで、自分のはどーなんだよ」
「そうね、是非教えて欲しいわ」
ハボックとリザに言われ、アルがえ、と詰まる。
「ボ、ボクはまだ決めてなくて………」
「決めても何も、願い事だろ?すぐに浮かばねーの?」
「ん〜、だって………」
まだまっさらな短冊を握り、困るアル。
「……もう、これ以上叶える事は、無いから」
そんなアルの視線の先に、エドの姿。
なるほど、と2人は納得する。
「アル!願い事は何にしたんだ?」
間がいいのか悪いのか、ロイを伸したエドが、愛するアルの願い事を気にしてやって来た。
えーっと、とアルは言葉を捜して。
「兄さんには、内緒」
「え、何でだよ」
「何でもー」
「は!兄さん”には”って事は………!?」
「えぇ、私は訊いたわ。ばっちりとね」
すかさず、リザが言う。
「んな!おい、アル!中尉に教えて俺になんで教えてくれねーんだよ!!」
「そうだね。牛乳、ちゃんと飲んだら教えてあげるよ」
「う、うぅぅ………」
「あと、ハボックさんに力突くで聞き出してもダメだよ」
「うぅぅぅぅ…………」
あのエドを八方塞したアルを、皆はとても凄いと思いましたとさ。
「そーいや」
しゃぐしゃぐとスイカを食べながら、ハボックが言う。
まだ伸びているロイの分はエドが頂いた。
「彦星と織姫って、仕事しないていちゃこらしてたから、引き離されちまったんだよな」
「あっはっは。まるで俺とアルみたいじゃねーか」
「解ってるなら自粛して頂戴」
無駄と解っても言ってしまうリザだった。
「その後、2人があまりも哀しむものだから、年に一回会えるよう、温情ある計らいが持たされた訳だ」
復活したロイが、ハボックの補足をした。
「ところで、私の分のスイカは何処かね?」
「俺が食った」
「……………。
私の………ッ!私のスイカが………!!!」
「スイカで目くじら立てるなよ」
打ちひしがれるロイは、そのまま放っとかれた。
「ま、彦星も根性無ぇよな」
エドが言う。
「そんなに好きな相手だったら、俺は相手が誰だろうが、どんな手を使おうが、絶対毎日会ってやるぜ」
「それって、ある意味ストー………」
ぼぐご。エドの拳を受けて、ハボックは沈んだ。
「兄さん、浴衣ってこういう着方でいいの?----って、うわ!どうしたんですか!」
別室にて着替えていたアルが帰って来た。
そんでもって部屋に戻ったら2名程部屋の隅で沈んでいて、倒れていて。
「特には気にするな。あまり得にもならないぞ」
もうちょっと、2人を傷つけない言い方は出来ないのか、エド。
「訊くくらいなら、最初から俺に着付けされろよな」
「着付けだけで済むの?」
「………済みません、ね。ハイ」
実に素直なエドだった。
「さて、アルフォンス君が戻った所だし、外で花火しましょうか」
やはり浴衣のリザが言う。
「花火なんて、久しぶりだね、兄さん」
無邪気に笑い、そう言うアルに、エドもそうだな、と無邪気に答えた。
こんな笑顔、年に一回だけなんて、狂っちまうよな、と心でそう思って。
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