Tea Time W,





「は〜?インチキ自称予知能力者を摘発するのに協力しろだって?何時の間に君の身分はそこまでの位に達したんだい?」
 この、ワタシの目の前ですげぇ面倒くさそうに話聞きながらついでに耳掃除している呉が、中等部全生徒の羨望を集める生徒会長なんだもんなぁ……異常気象で気温も狂うよ。
「生徒の平穏を守るのが、生徒会長だろーが」
「あくまで、中等部のね」
「先輩が困ってると、ワタシも困る。そしてワタシは中等部」
「君がそんなに年長者を敬う人だとは、気づかなかったよ」
「誰にでもじゃないけどね」
 それに、朱麻先輩が年下だったとしても、こうして本当は顔を見る程度のかかわりも持ちたくない呉の元へと協力を仰ぎに向かうだろう。朱麻先輩は、ワタシにとってそういう人だ。
「まぁ、とりあえずさぁ、そのアホな占いなんか信じちゃった先輩の顔でも見せてくんない?相手の事が解らないんじゃ、協力するか、殴るか蹴るか吹っ飛ばすか決めれないじゃないか」
 言った選択肢の過半数(というか最初の一つ以外)が暴力策の所を見ると、協力の欠片も無いなこいつ。
 しかし、めげるわけにも行かない。こいつの協力無くして、このミッションの成功は、無理とまではいかないものの、難易度がかなり高くなる。
 朱麻先輩の所へ向かう道中、話し掛ける。本当はしたくないんだけどさ。
「そう最初から毛嫌いするんじゃないぞ。朱麻先輩は、その辺のただ歳取っただけのやつとは違うんだから」
「ふぅん。阿柴はその先輩に入れ込んでいるんだね」
 そんな、入れ込んでいるといえば……いるかな?(肯定)
「照れるな気色悪い。ま、君程度に好かれるようなやつ、とてもわたしの趣味に合うとは思えないけどね。
 そうだな、理想としては少女と女性の微妙な過渡期を迎えながらも昔外ではしゃぎまわった時の少年のような心を持続しつつ、それでもうっかり見え隠れしてしまう女としての可憐で自然な色香が感じられるような人かな。そして、それとのギャップが激しければ激しいほど、ヨシ」
 ………………
「呉、ちょっと出直そうか」
「何此処まで言ってそんな事言うのさ」
「いや、ちょっと自分の人選ミスと危険を察知した。ほら、引き返そう」
 なんて必死に止めるのを無視し、ガラ、と先輩の待つ教室のドアを、呉が勝手に開ける。出迎える朱麻先輩。
「お、阿柴来たか?んで、こいつが友達?よろしくな」
「……………」
 その後。
 呉の中でのみ奏でられた筈の、運命の鐘というやつがワタシにも聴こえたような気がし、マイディスティニ-------!!という掛け声と共に呉は朱麻先輩に飛び掛った。その光景を見ながら、ワタシは自分を責め続ける。
 数分前のワタシのアホ。ドアホ。と。




「な、な、な、何だぁー!?いきなり飛び掛ってきやがって!って、思わず蹴っちゃったけど大丈夫かな」
「いーんですよ、朱麻先輩。こいつこれでも頑丈ですから。踏んだゾウの足の裏が痛くなるくらい」
 責任感じてるらしい朱麻先輩に、ンなもん持つ事ぁ無いんですよと言うワタシ(だいたいれっきとした正当防衛じではないか)
「ふふふ………」
 側頭部に回し蹴りをもらい、床と添い寝していた呉が、不気味な笑い付きで起き上がる。
「ばっちりストライクの風貌しているばかりか、こんなにも強い……!最高だ、ステキすぎる!!」
 なぁ、呉。その流れている鼻血は蹴られたものなのかそうでないのかはっきりてくれよ。
「あー、やっぱり打ち所が……」
「それが原因じゃありませんよ。非常に残念な事ですが」
「さて、窺うところ、朱麻先輩とおっしゃる。わたしは中等部の生徒会長を務める、呉 明流というものです。以後、お見知りおきを」
 一旦頭を下げて、角度を決めて自己紹介をする前に顔と床の鼻血を拭け呉。
「阿柴さん(←さん付け?)から訊いた所では、何やら不本意な行為を強いられて困っているだとか。任せてください。学年の違いはあれど、その不逞な輩には適当な罪状でっち上げて退学させ、貴方の平穏を保障しましょう」
 だから笑顔を決める前に鼻血を拭くんだ呉(床を優先的に)。
「た、退学ってそこまでしなくていーよ」
 相手の本気を察し、慌てる朱麻先輩。
「貴方にそんな理不尽な事を言った相手なのに?………寛大、なんですね」
 そりゃー、呉。自分を基準にしたら全部の人類が天使に等しく優しいだろうよ。
 とは言え、面白がってこのまま放置したら、話が進まないし、呉の理性もだんだん薄れてきて朱麻先輩も危険極まりない。
「あんまり話でかくすると、当事者が誰なのか、ていう詮索の眼が広がるだろ。する事は最小限でいいんだ」
「そうか……朱麻先輩が無責任な一般大衆のひまつぶしを満たす好奇の対象になるのは嫌だな……」
「それで、だ。神楽坂にお前が興味を持って近づく事にする」
「別に君でもいいんじゃないの?」
 明らかに囮の配役に、呉が不満そうに言う。
「ま、念には念を、て事だ。インチキ予知を見破る為にはもう一度見せてもらわないとならん訳だが、それをするにはどうしても朱麻先輩の紹介なくしては成り立たない。何故って、朱麻先輩しか知らないんだから。でも、それだけだと相手は見破りに来たんじゃないか、って思われて断られる可能性が非常に高い。
 朱麻先輩には正攻法じゃいかないと判断し、こんな奇抜な事を考えるくらいだ。女の扱いには手馴れていると自負しているプレイボーイだろうから、中等部生徒会長っていう肩書きに加えて、中身を知らないで外見だけ見る分には、美少年系美少女の呉の誘いを断ったりもしないだろう」
「何か言うセリフの端々に、遠まわしでわたしの人格を否定するようなものを感じるんだけどさ」
「ふー、今日はいい天気だ」
「わー、否定もしないですげぇ誤魔化し」
「で、朱麻先輩には神楽坂に頼んでもらわないとならないんですが………」
「大丈夫、わたしもついて行きます」
 やめろ、不安材料を増やしてどうする呉。
「そんくらいはいいけどさ、」
 朱麻先輩は何かを考えて居る。
「神楽坂って、プレイボーイなんか?」
「えぇ、中等部にも結構その手の噂が流れてきますよ。と、いうかウチの書記がさっそく食われてます。隠そうとしてるようですが、まぁ、わたしの洞察力を持ってみれば確実ですかね」
 さっきはそんな情報教えてくれなかった呉が言った(得意げに)。
 朱麻先輩は、さらに悩み込み。
「なんでそんなもてるヤツが、オレとデートしたがるんだろ?」
「…………………」
 これは無知か無垢か天然か。とりあえず、ワタシと呉でダブルで沈黙した。




 さて場面変わって茶葉専門店「Fall Leaf」。
 ワタシが立てたインチキ余地の仕組みを、店長に聞いてもらう。念を入れすぎる事に損はないし、間違った時に最終的責任を押し付けられる。。
「……と、いうのがワタシの考えなんですが」
「うん。それでいいんじゃないかな」
「ですけど、些か簡単というか、単純すぎませんか?」
「案外そんなものだよ。複雑に絡んだものだって、解いてみればたった一本の糸なんだから。
 まぁ、自分の素材単体で勝負出来ないであれこれ小細工する相手なんだから、それくらいの浅知恵で丁度いいんじゃないかい」
「店長、表情とセリフを合わせましょうよ」
「いいじゃないか、小説なんだから」
「またそんな事を言う」
 とか言い合ってる時に、呉が参上。
「店長さんこんにちわッス。阿柴ー、明日会う事になったぞー、茶出せー」
 これは店長の扱いがいいのではなく、ワタシの扱いが乱雑過ぎるのだ。
「ほー、成功率半々かと思ってたんだけど」
「はっ、あれくらいの相手、軽く困って微笑んでみせてば一発さ」
 勝ち誇った顔すんなよ。
「で、これで阿柴の考えが外れだったら、全部おじゃんな訳だ」
 つまり、呉の怒りのやり場になる訳だ。
「大丈夫なんだろーな。朱麻先輩があのニヤケ面の毒牙にかかるかどうかの瀬戸際なんだよ?そんな事になったら、死ねとまでは言わないけど、けじめとして腹捌けよ」
 神楽坂の毒牙から逃れても、呉の手腕に絡め取られそうだなぁ……と、言うか腹捌いてどうやって死なずにいれと。
「昨日まで朱麻先輩の事知らなかったくせに……」
「アホ。大切なのは、今、この時この瞬間に、朱麻先輩を知っている、という事なのさ。それまでの事なんか知るもんか」
 ちっ……!開き直った理不尽ほど、性質の悪いものは無いな……(本当に)。
「……まぁ、トリックが違ったとしても、「それ」をやれば確実にいかさまはバレる……ような気がする」
「頼りないなぁ」
「やかましい。100%の事なんかあるものか」
「あるとも。わたしと朱麻先輩の将来とか」
「呉、自分を追い詰めないほうがいい」
「一体君の中でどんな将来が確定してんのさ」
「とりあえず。いざとなったら、貴様の権力でも財力でも使って、相手を闇に葬れ。半分くらいはこっちがメインだ」
「オーケイ。超えげつない手段をとらせてもらうヨ☆」
 ウインクして爽やかに歯を光らす。呉……くれぐれも死人は出すなよ、死人は。
 マスコミや警察に聞き込みされるのが嫌だから。




 さて、当日。
 ざ!という効果音を付けたいくらいに、凛々しく呉と朱麻先輩とワタシが多目的室の前に立つ。中に、神楽坂のヤローが居る筈だ。
 ワタシは隣の教室で待機。呉に隠しカメラを持たせ、その映像を見届ける。当然、これは物質的で明確な証拠として撮るのだ。
「じゃ、がんばれよー。朱麻先輩、いざとなったらさっき渡した目潰し投げて逃げて下さいね」
「なぁ、なんで2つも渡したんだ?相手は1人なのに」
「まぁ、何が起こるか解らない世の中ですからふぎゅむ」
「さー、行きましょう朱麻先輩!気分は夜8時40分のつもりで、相手に引導渡してやりましょう!」
 ぶつける相手その2に朱麻先輩から押しのけられ、ワタシは壁とサンドされた。
 まぁ、ともあれ作戦開始だ。




 がらり、とドアが開く。襟元に仕掛けられたカメラは、室内をきちんと移している。
 窓にもたれるように立っていた神楽坂(待ちポーズまで気に障るやっちゃなぁー)
「や、こんにちわ」
 軽く微笑んで言う神楽坂。なんだかんだで呉は凄いと思う。本当のアイツを知っている身分として言うが、本能に率直に従った場合、呉は今の1言で3階のこの教室から相手を放り出してただろうに。
「こんにちわ、神楽坂先輩。今日は、わがまま言ってすいませんでした」
 こうして、猫被って甘えたような声で言えるんだから……しかし聞いてて鳥肌立って来たな。気付けにハーブティーでも貰えばよかった……ところで、やっぱりお茶はホットがいいよね。
「いいよ。減るものじゃないから……と、言いたい所だけど、やっぱり少々疲れるかな」
 だったらそのままくたばればいいのに。……呉、貴様の持ってきた高性能の小型カメラが本音まで取ってしまったぞ(まぁ、後で消してもらうか)。
「でも、本当にそんな能力あるんですか?嘘じゃないんですか?」
「君は信じないのかい?」
 質問に質問で返す。よくある、会話の主導権を取る方法だな……
「……よく解りません。あったらいいな、とは思うんですけど……」
「じゃぁ、あるよ。君が信じる力が、僕に力をくれているんだから」
 じゃーこっちが死ねっつったら死ぬのかオマエは。(あー、また拾っちゃった……)
「とりあえず、実際に見せた方が早いね。さぁ、呉君も朱麻君も、座って」
 言われるまま、座る2人。前には、腕を立て、組んだ指に顔の半分くらいを隠した神楽坂が居る。
「昨日も言ったけど……この事は、他言無用だよ。もし、他人に問われても、僕は白を切るしかないから」
「はい、言いません」
 本当だったらな。
「じゃぁ、始めようか」
 と、神楽坂は封筒を机に乗せる。
「もう、予知は済ませておいた。ここには未来が書かれている……」
 その表面を、指でなぞる。
「じゃ、カードを。調べてもらえるかな」
 5枚のカードを受け取り、調べる。カメラの映像は、基本的に呉の視界だから、カードははっきり見れた。朱麻先輩が言った通り、ありふれたもの。クローバーの1から5のトランプ。そして、怪しいところは特には見られない。
「返してくれるかい?じゃぁ、」
 カードを掌に全部収め、何かを念じるように眼を綴じ、間を持たす。
 ……いよいよだ。
 カードを呉に向かい、扇形に広げる。
「ここから、一枚選んで………」
 今だ!
 スタンバイしていた風船を、パン!と割る。うーん、耳に響くなぁ。
 その音に、驚く神楽坂。反射的に音の方向、即ち後ろを振り返る。
 と。
 すかさず、呉がカードを取り上げる。
「!!!」
 気づくが、時、すでに遅し。
「あれれ〜〜」
 どっかのめがね小僧みたいな声を上げる呉。
「これ、どーゆー事なんでしょうかねー?」
 カードを見せる。
 そのカードは。
 ”全部”クローバーの3だった。




「こういう時は論理的に考えよう。他に協力者が居ないなら、遠くはなれた封筒中身を替えるのはどうやっても無理がある。て事は、手にしたカードに仕掛けがある」
「でも、自分の思いのままのカードを相手に引かせるってのは、そうそう出来る事かい?」
 呉が意見する。
「もっと簡単に考えていいんだ。選ばせるのは難しい。
 なら、選ばせなきゃいい」
「……どういう事なのさ?」
「選ばせないって事は、それしかない、って事だ。
 つまり、全部同じカードにすればいい。それが一番簡単」
「でも、オレ、ちゃんと見たぜ?」
「多分、その後摩り替えたんです。気温に合わない不自然な長袖だったって、朱麻先輩も言ってたじゃないですか。マジシャンってのは、袖にショーのマジック全部のタネが仕込んであるそうですからね。カード5枚くらい隠すのなんて、楽勝でしょう」
 もっと突き詰めて考えれば、手を合わせた時、調べさせたカードと、5枚全部揃ったカードが掌の中に収まってたんじゃないだろうか。そして、調べさせたカードを上の掌で包んだまま持ち上げる。そうすれば、同じ数字だけのカードが残る。
「その摩り替えた時のカードを見てしまえば、いかさまだって事が解る。ワタシが何か音でも立てるから、その時に」
「オッケー。解ったよ」
 呉が言った。




 トリックを見破られて、動揺を隠せない神楽坂を尻目に、呉は封筒を開ける。
「”貴方は3のカードを引くだろう”。そりゃそーですよねぇ。それしかないんですから」
 にっこり、と笑う。悪魔というのは、多分、今の呉みたいな表情で笑うんだろう。
「ぁ……だから……それは………」
 おーおー、最初に見せた余裕の笑みがが泣いてますなぁ。
「----さすが神楽坂先輩」
 思っても見ない呉の言葉に、へ、と間抜けな顔になる。
「普通に手品をしますだけじゃ、それじゃ面白みが無さ過ぎてつまらない。だからこそ、臨場感や緊迫感溢れるような、こんな設定組んだわけですね?ご苦労にも、朱麻先輩も使って、わたしが興味持つように仕組んで」
「へ?あ、あぁ………」
 よく解らないまま、頷く神楽坂。
「手品を鑑賞するのが好きだって、学校だよりに載せましたもんね、わたし。それを見ての事でしょう?」
「あ、そう、そうだとも」
 口元引きつっていてちっとも格好良くないですよ神楽坂先輩。
「おかげで、楽しめました。ありがとうございます。
 ----と、いう事は、朱麻先輩と結ばれる運命だとか週末にデートするとかいう約束も、盛り上げるための演出ですよね?」
「へ?」
 間抜け顔第2弾。
「い、いや、それは……」
「演出なんですよね?」
 神楽坂……悪い事は言わん。頷け。頷くんだ。
 でないと……あぁ、思うのすら恐ろしい……
「……そ、そう、演出だよ。少々、強引だったけどね………」
 呉の絶対零度の視線を感じ取ったのか、単に自分の見栄を守るためなのか、神楽坂はそう言う。
「やっぱりそうですか。本当に、少々強引でしたね。
 さて、久しぶりにいいものを見せてもらいました。礼を言います。
 -----さ、朱麻先輩行きましょう」
 神楽坂に見せた人工ものじゃなく、本物の笑みを浮かべて朱麻先輩を促す。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!朱麻君には話が……」
「あ、そうだ。神楽坂先輩」
 朱麻先輩を引きとめようとするセリフを遮り。
「ウチの書記の子と、お揃いのリング。いいですねぇー。訊いてみたら、嬉しそーにデートの事、話してくれましたよ」
「…………」
「なので、次からは是非、貴方の方からも贈物、してやってくださいね」
 わー、お揃いと称して女の子に奢らせたのかこいつ。最悪だ。最も悪だ。
「では」
 と、最後に朱麻先輩。
「なー、先輩。行くはずだったお店、その子と行ってやれよ」
 うん、それがいい。と。
 その笑顔は、おそらくは神楽坂が見た朱麻先輩の笑顔の中で、一番輝いていた事だろう。




「わたしとしては、もーちょっとへこませてやりたかったんだけどなぁー」
「あれくらいでいい。聞いてるこっちが居た堪れなくなるくらいだったぞ」
 無事、ミッションは終了。朱麻先輩は、イカサマヤローとデートせずにすんだ。あぁ、良かった。
「まぁ、このビデオを書記の子にでも見せてやれよ。またひと騒動起こるぞ」
「いっその事、間抜け面の所を大プリントして掲示板でも張ろうか」
 などと、ワタシが呉と有意義な会話を交わしていると。
「2人とも、ありがとな。デートくらいちょっと我慢すればいいや、って思ってたけど、やっぱヤだったからさ」
「くらいじゃないですよ。好きな人とする事は、好きな人としかしちゃだけな事なんですから」
 おお、呉が珍しくまともな事を言った。
「なので、今度の週末わたしと街に繰り出しましょう!」
 おお、呉がいつも通りいかれた事を言った。
「うん、いいぜ」
 朱麻先輩!!?そんな狼の巣に飛び込むような事を!
「お礼に何が奢るよ。本当、助かったからさ。食い物でいいか?」
 あぁ、そういう意味か……
「そんな、誘った身で奢られるなんて甲斐性が廃ります」
「そうですよ、そんな大層な事をした訳でもないですから。
 なので、割り勘にしましょう」
 譲歩しつつも要望はかなえる。外交の極意。
「んー、そうだな。そうすっか!」
『はい!』
 と、同時にワタシと呉は返事し、そして同時に心の中で大パンザイして、そしてさらに同時に来る時にこいつが事故にでも巻き込まれないかな、と思った(だろうきっと)(すくなくともワタシだけでも)。
 週末は朱麻先輩とお食事か……うん、なんだって食べるぞ。マヨネーズだって食うぞワタシは。
 ほやほやと週末に思いを馳せたいたワタシに、朱麻先輩が肩を叩く。
「阿柴も良かったな!運勢回復して」
「運勢?」
 呉が訝しむ。
「……………」
 知らない間に動いていた時限爆弾が、最悪のタイミングで爆発した……
「えーと、朱麻先輩」
「阿柴の今月の運勢最悪でさ、先輩の悩み事訊くと運気がアップするんだってよ。これで上がるといいな、運気」
「そ、そうですね……」
 朱麻先輩の願い虚しく、今、ワタシの運気は今までに無い最低値にあるだろう。
「へーぇ………」
「………、」
 来た………!!
「それは、どんな雑誌の占いなのかな。是非、聞きたいなぁー………」
「……………」
 振り向けば、すんごい笑みを浮かべた呉が居た。




「アッサム君が紅茶を買うなんて珍しいね。しかも、オレンジ・ペコ。
 高いけど、質はとてもいいよ」
 高いから良い質なのか、良い質だから高いのか……まぁ、どっちでもいいや……
「店長……」
「何だい?」
「嘘って……良い悪いはさておいて、金が掛かるんですねぇ……」
 そんなワタシのセリフは、紅茶の立てた芳香のように空へと解けた。




<終わり>





やはり自分の作ったキャラだけに、2次制作でのキャラの性格が色々混ざってますな。
アッサム君は現郎の周囲への関心の無さ(そして特定の存在のみの執着)と激の狡猾さとカイの薄腹黒さを合わせ、
呉さんは雹様の暴走っぷりとエド兄さんの形振り無さ加減、

そして店長は炎様のラスボスぷりと真のいいとこ持ってけ取りさを併せ持っています。

良いか悪いかなんて、知らんとです……