mission,2



 時間の流れが緩く感じられるような、そんな昼下がり。
 窓の桟に手を掛け、物憂げに佇む中年1人。彼こそ、私の血のつながった実の叔父であり、それ以上に私の災厄の総元締めだ。
 ちなみに名前はクロフト=ディスティンクション。32歳。色んな経歴を持って現在は独身。
 そんな叔父さんが、空を見ている。その先には、儚いくらい淡い月が浮かんでいる。
「……もうすぐ満月か……気が重いくなるぜ……」
 おぉ、なんと。
 この、「眼鏡」「白衣」「長髪」で検索かければたぶんヒットしそうな容姿と、「鬼畜」「邪悪」「悪辣」で検索かければ必ずヒットする(断定)の性格を持ち合わせる叔父さんが、たかが月の満ち欠けでナイーブになるセンチメンタルジャーニーな感性の持ち主だったとは!!
 嬉しくもなんともない新発見だ。
 そんな新発見はさて置いて、私は再び本に目を戻す。
 ちなみに読んでいるのは聞かれれば青春のバイブルです!と即答出来る「ジバ○くん」だ(無駄な抵抗みたいに伏字)(そして止めるんだ、そんな哀れんだ瞳を向けるの)。
 何度も何度も読み返した為、指で捲る所に手垢がついてしまうのが悩みだ。しかし、保存用にと、もうワンセット買う域までには達したくないというか……(だから止めろって、その目)。
 でもDVDは欲しい。でも売ってないんだ。折角、コンプリート出来るだけの財力があるというのに!あぁ、出来るものなら昔の自分に、この命の危機にさらして稼いだ金を渡してやりたい……!絶対買うだろうから。
 私がそんな葛藤をしているとは露とも知らず(知られても困るが)叔父さんは勝手に何事かほざく。
「何で気が重くなるかっつーとな、今度ボルス魔道警備隊の特別非常実動部隊の指導の役目が回ってきちまったんだよな」
 実績には人格が付いて廻らないので、叔父さんは書類上、非常に優秀な人材と部類される。
「満月になると普通の犯罪も増えるし、魔物もしゃしゃり出てくる。全部が全部、満ちた月に血沸き肉踊るって訳でもねーけど、満月にしか出ねぇっていうのも確実に居るから、絶対に普段より増える」
 ほぅ、そうなのか(無興味)。
「指導係りは、その日にあった被害と退治した魔物の数や種類なんかをまとめて提出しなくちゃなんねぇ。
 つまり。魔物が増えると、その時間もかかるって訳だ」
 へぇ、そうなのか(無関心)。
「で、だ」
 -----私は気づけば良かった。普段は説明めんどくせぇ、と、どさくさに中忍になった元下忍みたいな口癖をのたうち、必要最低限すら言わない叔父さんが、ここまでよく喋るなんて。
「もし、名簿に乗っていない幻の隊員がサクサクその余分を倒してくれたら-----その分はまとめなくてもいい、って訳だ。なにしろ、名簿には乗ってねぇんだから」
 …………………
 ぽん。
 叔父さんは、私の肩に手を乗せ、絶対に聞き違えの出来ないくらい明瞭な発音で言った。
「て事でよろしくな、”幻の隊員”さん」
「…………………」
 ----特別非常実動部隊----
 主に、レベル3の魔物を対象に、第2種の攻撃魔法を操る部隊の事だ。
 魔物のレベルは勿論、多ければ多いほうが危険で、第2種というのは、攻撃魔法の中で、人が食らったら入院の必要があるダメージを与えられる魔法を指す。(ちなみに第1種は、その必要のないダメージの魔法です)
 ……そんな危険な魔物を相手に……そんな危険な魔法をバンバン使う陣営の中に入る……
 ………………
 ふと、視線を落とせば、第1話のクライマックスで、炎が爆に「夢に命を賭けるヤツは本物だ」と言っていた。
 いいシーンだ。
 しかし、炎様。
 夢でも何でもないものに命を賭ける私って、何なんでしょうね。
 ”それはただの馬鹿ものだ”だという松本ボイスが聞こえたような気がしたが----幻聴だ。きっと、ね。
 時間の流れが緩く感じられるような、そんな昼下がり。
 窓の桟に手を掛け、物憂げに佇む少年1人。
「もうすぐ満月か……気が重いな……」
「鬱陶しい。消えろ」
 そんな私に、ジルコニアは、冷たかった。(温もり募集中)



 叔父さんの馬鹿馬鹿。部隊に混じったら顔で一発ズキャンでバレちゃうよ!----という私のささやかな抵抗は、ささやかであった為か、ぷちっとあっさり潰れた。
 支給される部隊のフニフォーム。それと、インカムやその他機能内蔵のフルフェイスヘルメット。
 確かに、これを被っていれば、私が何処の誰だか、いろんな意味で解らない。
 ………誰だ!この格好指定したヤツ!!
 部隊はその日によって人も違えば数も違う。
 そんな中で、不法侵入者が紛れ込むのを防ぐのに大活躍するのが、身分証明カード。
 特殊な素材を用いたそれは、絶対にコピーが不可能。持ち主識別機能もついているので、誰かからかっぱらうのも不可能。
 当日に参戦する部員は前もって予め決められていて、それ以外の人には、たとえ正式に認証されている部員だとしても、警告ブザーが鳴り響く。
 しかしそんな最先端なセキュリティも、叔父さんの手にかかれば、近所の悪ガキが作った落とし穴程の罠にもならない。偽造カードが出来上がるのに、3分とかからなかった。
 聞けばなんて事も無い。このカードのレピシは叔父さんが作った。
 …………人選……しろよ………その人の性格でさぁ……………(そんなに実績が全てか!)
 私の他にはネイルが巻き込まれた(ご愁傷様)。
 まぁ、これは単なる身長の都合だろう。
 未成年はいない実働部隊で(そもそも第2種の攻撃魔法のライセンスが取れるのは成人を向かえてから)178センチの私や175のネイルはともかく、168のリオンはまだ小柄で通るかもしれないが、162のジルコニアちょっとは無理がある。
 ジルコニアが居たら余剰分はおろか、全部消せれるのに(それはそれで困るか)。
 さて同席しているネイルだが、さっきから何やら自分の獲物(マシンガン)を握り締め、「なしてワシげがこないな事せにゃならんねや」とか地元弁でぶつくさ言っている。うん、彼は今キれている。絶好調だ。
 誰か助けて!!!
「よぅーし、んじゃ、お前らな」
 ある程度の人数でチームに分けられた部隊に指導を終えた叔父さんがこちらへ来た。
 これでネイルも静まるかと思えば、口は噤んだが、殺気が倍増した。
「お前らは別々単独で動いてもらう。その場所は各チームに振り分けられたゾーンの調度境になっているからな、別に一人だけ居ても誰も気にはしねぇだろ。チームひとまとめで常に行動はしねぇから」
「本当に、バレる心配は無いんでしょうね」
 説明聞いている間に少し冷静さを戻したのか、丁寧語でネイルが言う(どう好意的に見ても敬語じゃないだろうよ。文法の問題でなくてさ)
「あいつらの相手は魔物と、身内を討とうとする裏切り者だ。影に隠れてバッタバッタと魔物を倒す不審者なんざ、気にも止めねぇだろうよ。つーか、管轄が違うしな」
 彼らの目的は、あくまで迅速に魔物を退治する事。不審者の発見ではない、と叔父さんは言う。
 ……いいのかなー、そんなんで。いや、その方が助かるけど、この場合。
「まぁ、万一の時にゃぁ、洗脳させるから」
 そんな人道に反れまくった手段をコンビニエンスに活用しないでください。
「なら、いいです」
 いいんかい。
 ついでの話として、今日、私はジルコニアの家に勉強会でお泊り、という事になっている。勿論、家族に対するカモフラージュであるのは間違いなく、その証拠に私はジルコニアの家が何処にあるのか、実際には知らない。
 いや、教えてもらおうとはしたんだけどね。
「ねぇ、ジルコニアの家って、何処……って、もう聞きません2度と聞きません金輪際聞きませんだから胸倉掴んだ手を離して!」
 と言ってしまった手前、もう聞けない。(あれで何度目だろうか。リアルに死を実感したのは)
「じゃ、行ってきやがれ」
 ……危険なんだからさー、もう少し重さもって言ってよ。
 そして私は夜の森に繰り出す。
 何事も無ければいいんだけど………
 いかんせん、そういう希望を持つことに、私はいささか疲れが見えてきた。
 つまりいつも何か起きるって事さ。




 ・続く




続いた。まぁ、気になる所は色々あるだろうけど……それを甘受するのも大人の条件だと思うしヨ。
そのうちセルフィユが「爆大好き!」とのたうち廻っても温く受け止めてあげてね。