mission,1





 やぁ、皆さん真夜中のネット徘徊ご苦労様です。(見ているのが朝だったり昼だったりしたら、このくだりは軽くせせら笑って読み過ごすのが大人への一歩だと思いますよ)
 私の名前はセルフィユ=マラスキーノ。ボルスネフェカ・スクールとかいう、魔道に関するビジネス殆どを掌握するボルスグループ内の施設で、スクールとは名の付くものの、殆ど魔道士育成所のような所に所属している15歳男性・178センチにあります。ちなみにシリアルナンバーは”H-B-1489”です。
 さて、私ですが、現在非常に緊張しております。
 あと一息で腹痛によりトイレに駆け込みならざるを得ない程に切羽詰まった緊張具合です。
「まぁ、くつろいでくれたまえ」
「はぁ………」
 出来るかっつーの(しかも”くれたまえ”って命令形じゃん。”たまえ”って)。
 見渡せば高級な調度品。
 目の前には高価そうなカップ。最上級だろう紅茶。
 床は当たり前みたいに絨毯張り(そして色は深緑)。
 対面のソファにゆったり座るのは50代入りかけの男性。その手のシュミの人には堪らないくらいのナイス・ミドル(私は違うから。私は)
 燃えているかのような赤毛を後ろへ撫でつけ、ピッシリとした着こなしのスーツ。
 今まで潜ってきた修羅場を相手に知らしめるような、顔つき。
 ----この人物こそ、他でもない。
 100年以上の歴史を誇る、ボルスネフェカ・スクールの18代目校長、その人だ。
 校長が言う。
「単刀直入に言わさせて貰う。回りくどいのは嫌いだ。(と、言うここまでの件が非常に回りくどいと思うのは気のせいだろうか)
 ------何やら君は、裏で色々とやってるらしいな」
「…………………」
 やっぱり。
 一介の生徒、を装っている私に、学校の最高責任者直々の呼び出しに値する事など----”あの事”くらいだとは思っていたさ。
 この学校に居る、実の叔父から私は月に2.3回のペースで「仕事」を請け負っている。内容は大っぴらには明かせないが、例を上げると、見るからに怪しげなブツを運んだりとか、見るからに怪しげな人物の護衛をしたりとか、うん、まぁ、そういう思い出しただけで冷や汗が背中に伝うものだと思ってくれたら私は嬉しい(これ以上説明しないで済んで)。
 その分金払いがいいんだから止められない。
 さらにその分もう嫌ですと言ったらじゃぁ死ねとか言われるので余計に止められない。
 しかしこの人も可哀相に。
 今までもちょくちょく、こうやって揺さぶりを掛けてくるヤツは居た。
 そして。
 そういうヤツは決まって後日、記憶を無くすか人格が崩壊するか、行方不明になってるかのどれかだ。
「別に、誤魔化したりする必要は無い------」
 静かに余生を遅らせたい気持ちもあるんだけどね。私の未来には変えられないでしょ、やっぱり。
「何せ17年前、私も君の叔父さんを使って同じ事で一儲けしたからな。
 私が引いた後も紹介したのとは別に独自にルートを確保したりと中々頑張ってると思っていたが、これ程までに成長していたとはな。
 天晴れの一言に尽きる、ははははは」
 ははははははははは。
 テメこのやろ今現在私が神経磨り減らして日々を送る羽目になっているのは貴様が原因かぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!
「だから君の事をバラすつもりはさらさら無い。芋づる的に私にまで及ぶ可能性があるからな」
 うわッ!この自分中心加減叔父さんとそっくりだ!!(受け継がれるものって、遺伝子だけが方法じゃないんだなぁ)
「そういう訳で、私も君をいつでも闇に葬れる準備があるという事は解って貰えたかね?」
「解リまシタ」
 私の鋭い直感が告げる。ここで頷かなければ消される、と。
 校長は納得してくれて嬉しいよ、と言う表情で満足げに笑う。
「では本題に入ろう。
 実は頼みたい事がある」
「はい」
 ……折角今週は叔父さんの呼び出しもかからないで平和な日が遅れる週だと思ってたのに……ぶちぶち……
「それに一枚噛んでるのにラスティ・ネイルという生徒が居るだろう」
「まぁ……居ますね、はい」
 仲間とは呼びたくないですけど。というかアレを仲間というモノにしたら敵という存在も居なくなってしまうような世界にはラブとピースが氾濫するような。
「彼の微笑んでいる所を写真に撮って来て貰いたい」
 あー、はいはい微笑んでいる所ね、ふーん。

 ----------------は?

「出来れば右斜め45度の角度で、背景が光の指した花咲き誇り噴水もある庭園なら尚良し」
 ちょちょちょっと、尚良しじゃねーってジーさんよぅ。
「いや、あの、ええと。
 ネイルの・微笑んだ・所を・写真に・撮って来るので・ゴザイマスですか?」
「あぁ、その通りだ。
 ----と、言っても語弊の無いように言っておくが、私は何も少年に愛を注ぐ趣向ではない。
 彼は、私の息子だ」
 知ってる、と心で呟く。半年前の就任式にて、あれがネイルの父親なのだと私に言ったのは、他でもない本人だからだ。
 そしてその時、『本当はこんな事口にするのも腸煮えくり返る思いですが、隠す事で気にかけていると思われるのは更に屈辱的なので先に言っただけです。なのでこれから僕が触れない限り、この話題を持ち出さないで下さい』と言いながら私の額に押し付けられた銃口の硬さと感触は今でも忘れない。つーか誰か忘れさせてくれぃ。
「息子の成長を何か形に残して記録したいと思うのは、父親として当然だろう」
 ふ、と校長の雰囲気が変わったのは、父親としての顔だろうか。
「……………」
 一瞬緊張の余りに生み出した自分の幻聴かと思ったが……幻聴にしてもう帰りたかったのだが………ぶっちぎりの現実みたいだ。
 ……ふ。自分の聴力の高性能を確かめるよりいっそ脳に異常があった方が良かったくらいだ………
 ネイル……あのネイルの微笑む所……
 私の中のネイルに対する考察→非情・無常・無感動・無表情・冷徹・冷酷・冷血漢。等。
 微笑という単語の入る隙間も無ぇッッ!!
「いやぁ……多分……それは無理かと……
 と言うかご自分で撮ったらどうですか(でも多分それも無理だ)」
「私としてもしたいのだかね、これでも雑務が細々とあるのだよ。
 息子と直に会うなど、とてもとても」
 私の方もネイルと直に会うなどとてもとても。とても、嫌だ。
「まぁ、そんな身分だからこそ、息子の笑顔に励まされたいとは思わないかい?」
 確かにネイルは何だかんだで美形だし、微笑めばとびきり綺麗になり、ましてやそれが実の息子だったらさぞかし和むだろうというのは認めるが、アイツが微笑むなんてのは認めん。現実に立ち向かって生きる者として。
「今まで撮ったネイルの写真は、背景が暈けていて視線も外れているし………」
 ひょっとしてそれは隠し撮りか?
「おまけに銃口が被って顔がよく見れん」
 ってバレてんじゃん!!
「それに……写真が撮りたいと言っても、素直にさせてもくれんだろう。
 今はまさに難しい年頃だしな………」
 いやいやいやいや。『僕にとっての至福はあの男の心臓に実弾ぶち込む事だと思います』なんて据わった眼をしてマシンガン撫でながら呟くのを”難しい年頃”なんてほのぼのした一言で片付けんでくれよ。
「でも、それさえ過ぎれば、一緒に団欒出来る日も近いと思うのだよ」
 そんな日を待つよりカタツムリがこの学校の頂上にたどり着くのも見続けている方が余程早いと思う。
「なんてたって、私にとってはいつでも可愛い息子だからね。温かく見守るさ」
 向こうは貴方を目標人物に標準を定めた狙撃手の眼、もしくは獲物を狙う猛禽類の眼をしてますが。
「………さっきから何かやたらに否定的な雰囲気を感じるが、言いたい事があればはっきり言い給え」
「めっそーもゴザイマセン」
 ここで本当に言いたい事をはっきり言えば、視界が自分の血で赤く染まることを、私は嫌というのが嫌になる程知っている。
 先程から私の頭の中は上手く言い逃れるセリフを考えるので一杯だ。
「で、どうしてそれを私に頼むんですか」
 はぐらかしの第一歩と共に、依頼の転換を図る。
 一枚噛んでるのには、私とネイルの他にあと2人居る。その2人も、また校長とネイルが親子だと知っている。
 ……頼んだ所でこの部屋破壊して断るだけだろうけど……2人とも。
「最初は君の叔父さん……クロフトにやってもらおうかと思ったんだがね、「テメー、じじぃ。ついに耄碌したかあのネイルが微笑むよーなヤツに見えるんだったらその眼ン玉刳り貫いて変わりに地面に思いっきりバウンドさせたら2階建ての屋根を越すスーパーボールでも詰めてやがれその方がマシだ」とか言われてな。
 その場で思わず乱闘になってしまってね」
 叔父さーん。32歳になってそんなに言いたい放題なのはどうかと思うよー。
 そして校長ー。沸点低いってアンタも。
「譲歩に譲歩して人を借りる事で戦闘を止めにしてだね、そこで紹介して貰ったのが、君だ」
 叔父さんからの紹介!?
 お……思ってもみない展開だなオイ………!!あの叔父さんが人を斡旋するなんて……オマケに私を!
 さてはその時の叔父さん誰かの変化?偽者?
「他の者は頼んでも部屋破壊して断るだけだろうけど、君なら金と暴力次第で言う事を聞くというお墨付きで。
 ちなみに私は出来るなら金で話を進めたいと思っている」
「はい、私もそうして頂けると幸いです」
 こうして私の将来は決まった(決定権が私に無く)
 せめてもの慰めだったのは、依頼額が普段のものより、ゼロが2つ多かった事だろうか。
 それにしても……ネイルの微笑んだ所の写真、か…………
 …………今まで請け負ったもののなかで、ダントツに難攻不落の内容だ……………





 打って変わって場所は”詰め所”。
 あくまでこれは通称だ。本当は此処は、叔父さんの校内に設けられたプライベートルーム。いざ泊り込みになっても大丈夫のようにと、重役のポストに収まる者は全員持っている。
 その内装は、ちょっとしたものどころかスターも泊まる一流ホテルのスイート並だ。場所も最上階。私は高所恐怖症なので、窓の外はなるべく見ないよう首を曲げている。
 此処に本来の主である叔父さんが来る事は殆ど無い。
 「仕事終わった後にもこんな所居てられっか」と早々に近くの自宅へと帰ってしまうからだ。自宅が学校の近くにあるというより、自宅の近くだったからこの学校に勤めている。
 何せ叔父さんは少なからず自分と血が繋がっているものの、かなり弾けた人だからな。
 例えば普通の一般人が猿から地道に進化して人間になったというなら、叔父さんは村人に生贄を要求しそうなドラゴンが気紛れに人間に変化したような存在だ。
 で、その叔父さんをかつて顎で使った校長に、私は依頼を受けて………
 あーもう、親バカなトップは居るわー傍若無人な上司は居るわー。
 あとは地元弁を喋り倒す伊達集が居たら完璧ってヤツですかい。
 あーぁ…………
「……さっきからパソコンの前でため息付いて、鬱陶しい………」
 本当に鬱陶しそうに言うのはリオンだ。
「お気に入りにいれたサイトでも閉鎖したか」
 全く縁起でも無い事を言ったのはジルコニアだ。
 まぁ、私がディスプレイの前でため息付くのはサイトが閉鎖した時-----だと心底思われている私は、彼らにどういう眼で見られているのか。知りたくないけど。心は常に安静にしてあげたい。
 この2人が一枚噛んでる残り2人。
 ダークブルーの髪と眼のリオン。いつもフォーマルな服を着こなして、何処かええ所の坊ちゃんを連想させる。しかしその分というか、その割りにというか、眼に掛かるほど伸びた前髪は、何かの自己主張だろうか。
 そしてジルコニア。アメシストを濃くした色彩を持つ。その中身はレンジでチンした卵より危ない。
 外見は-----何て言うか-----まぁ、言っちゃうけど………
 ぶっちゃけ、ジルコニアは私の好みのタイプをダイレクトに反映させた風貌をしていたりするんだ、これが!
 同性だとかそういうのははっきり言ってどうでもいい。元より、性別の上に胡坐をかいてするような恋愛は御免だ。あの、「オマエ男だから女を好きになれ」みたいな感じが嫌だ。
 かと言って率先して男の子を相手にする気もないんだけどね。私は叔父さんみたいに避妊に失敗してトラブったので少年専門にしますなんていう過去はないもん(そーです叔父さんは美少年キラーなのです)。
 出会った当初、私も若かった。算段も画策も立てず、ただ赴くままにジルコニアに言った。
「ねー、エッチな事しよv」
 刹那----風のように、しかし衝撃は鉄のようにあった強力な蹴り----気づけば地に伏せていた---- 
 この事を思い出す度に、胸が痛くなるのは、甘酸っぱい若気の至りによる感傷-----ではないのだろう、きっと。
 その時は、もう彼とは会う事は無いだろう。ていうかもう誰にも会えないかもしれないと、地面に倒れたままで思って居たのだが、何の因果か運命か、またこうして出会っている。
「今度は手加減は無いと思え」
 再会一番のこのセリフに、深い沈黙をする私だった。
 諦めてはないけどね。本人に言ったらまた肋骨折られちゃうけど(手加減で折られましたよ、肋骨)。
 でもまぁ、アレだ。
 この気持ちは好きというより、単に”欲しい”だけ。
 そう、ジルコニアが欲しいんだ。まるで、ショーケースの中のオモチャを欲しがる子供みたいに。
 最も、そのオモチャが猛攻ふるって来たら、子供だって大人しくなるしかないけどね。
「そんなんじゃないって。
 ……えーっと、ネイルの気配とかない?」
「あいつは今日ピンでの仕事だ」
 リオンの言葉に安心して事情を説明する。
「…………昨日校長に呼び出されちゃってさー。
 何かと思えば、ネイルのベストスマイルショット撮って来いだって☆参っちゃうよネ、アハ☆」
「…………お前…………不可能だと解りきってる事を何故引き受ける………
 ………と言うか親ばかだったのか校長…………」
「うん……脅しと金に乗ったとは言え、ちょっと浅はかだったかな、と反省してます…………
 …………そして親ばかでした校長………」
 これなら校長と直にバトルした方がまだ逃げ道があったような、やっぱりそれでもダメのような。
 今更やっぱ無理でーす。在り得ないでーす。とかすっかり息子の写真を心待ちにしている校長に言ったら、明日の池の魚達の餌はちょっと豪華に肉かもしれない。
 ………しゃ………洒落にならん………!!
 それに上手く校長を言いくるめたとしても、その次に叔父さんが居るのをお忘れなく。
「それで諸事情で断り切れないんで、何とか出来ないかなーと。
 こうして片っ端から笑茸のサイト見回ってんだけど」
「そんなモン使用しても微笑は得られんぞ」
 そうかな、やっぱり。
「……微笑ってのがネックなんだよなー……
 自分の得物のマシンガンを敵に向かって連射している時にはぐあはあははははは!!って辺りを響かせる哄笑なら、まだシャッターチャンスが」
「それじゃダメだろ」
「ダメか」
 でもあの分だったら校長それでも喜びそうだと思うけど、そんな光景を目の当たりにする私に対するダメージが計り知れないから、やっぱり止めておこう。
 ここでジルコニアが話に入る。
「いっそキャンセルしたらどうだ。下手に失敗して庭の肥料になるよりは少しボコられた方が生存確率は高いぞ?」
 ……私の心配をしてくれてるのかなー……だとしたら、素直に喜べないのは私の心に問題があるのか……?
「いやー、でも楽しみに待っていたものが手に入らない、って時の落胆は人を鬼に変えるからねー」
 素性を偽って、他の部隊に混じって仕事をこなしていた時。勿論、それは叔父さんが指揮をとっていた為だ。
 その時、部隊の1人がつまらないミスを犯し、その時叔父さんはその人に………
 ………この部分記憶が綺麗にカットされているので、脳がその様子の過激さに耐えかねたものだと判断が出来る。
 校長、叔父さんと結構通じるものがあるからなー。
「それに何だかんだで眼が眩んじゃった程の金額だし」
 それが最後の慰めなのだよ。
 今、私は不可能という暗闇の仲を、自分の希望で灯されたカンテラのみで突き進む孤独な旅人なのさ。
「………ネイルの微笑んだ顔、か……
 手がない訳でもない」
 えぇぇッッ!!?(暗闇の中で太陽が昇った!!)
「ほ、本当にそれは本当でゴザイマスか!?
 まさその後間を一杯溜めて「という訳でもない」とか付け加えたりしない!?」
「誰がそんなベタな事をやるんだ」
 ゴメンね、私の叔父さんなんだよ。
「で、何をどうすれば!」
「3分の2」
「へ?」
「金。寄越せ。アイデア料だ」
 んなッ…………!!
 3分の2っつったら3等分にしたうちの2つ分で半分より多いじゃねぃかよぅ………!!
「……金は半分こで……残りは身体でv」
「そうなったらオレは病に伏せている子を持つ金持ちに貴様の臓器を売りつける」
「そんな売り方じゃなくてもっと気持ちいいの!!」
「新しい違法薬物の実験台か?」
「1人でトリップすんのは嫌-----------------!!」
 く………!仕方ない………!!
 ここは相手の要求を呑むか………!この依頼の唯一のメリットだったのだが………
 命あってのものだねとは上手く言ったもんだ……!!
「3分の2、お支払いさせて頂きます………」
「よし、じゃぁちょっと寄れ」
「どさくさにちゅーして良いですか」
「自分の右眼の眼球を左眼で見たいか?」
「見たくないので絶対しません」
「よろしい」
 そうしてジルコニアが言った事は----確かに、実現可能かもしれないと思わせるものだった。




 人と他の存在のハーフ、または明らかに人ではないものも通うこの学校でも、ネイルの姿は簡単に見つけられる。というか、ネイルもまた人外種にあたる存在。
 ネイルは精霊族というヤツで、遠い祖先が精霊と交わっただの、契約を交わしたのだと言われているのがその一族だ。
 外見上は全くの人間とあまり変わらないが、比較にはてんでならない魔力の影響なのかなんなのか、身体の各パーツが少し違っていたり、何もしてないのに文様が浮かび上がったりもする。
 持った色彩は、それぞれの属している精霊に通じる。
 赤色の髪と眼のネイル(と校長)は火精霊族だ。
 ちなみに精霊族のもう一つの特徴として、加護を受けている精霊の魔法は、呪文詠唱も儀式も無しに発動させる事が可能だ。
 さて、さっそくネイル発見。
 赤い長髪、リングのイヤリングが付いた鋭利な耳。襟が広く開いた服。どれもネイルだ。
 後ろからバンダナがちらちら見える。このバンダナと前髪で、ネイルは右目を徹底的に隠している。
 どうして、と訊けば弾が飛んでくるのは確実なのであえて触れた事は無いが。
 幸いな事に、廊下は誰も居ない。
「ネイル」
 呼べば、振向く。仕事に関係したりしていたら、後々で面倒になるからな。
 しかし、そういう眼で見たら、ネイルと校長はやっぱりよく似ている。
 ネイルに余裕と歳を持たせたら、尚似るだろう(わー、本人に言ったら射殺されるねー)。
「何ですか」
 早くしろウゼェ撃つぞという雰囲気をふんだんに取り込んだネイル。
 ま……負けるな私!
「いや、まぁ、その………
 これを見てくれないか?」
 ファイルに入れてあった、B5サイズの紙を手渡す。
 それをじっと見て----最初、ネイルに浮かんだのは驚愕。
 そして----
 よし、今だ!
 襟にカメラが隠してある。掌の中のスイッチを、こっそり押した。




「…………-------〜〜〜〜〜ッッ!!!」
 ”感極まる”
 それが物凄く解る様子の校長だ。
「さすが……さすがクロフトが推すだけある!よくこなしてくれた、こんな無理な願い!」
 あ、やっぱり無理だって思ってたんだ。
 校長は、改めて手持ちの写真に目を落とす。
 そこには、勿論彼の息子、ネイルの姿。
 細まった目(左目)に、僅かに持ち上がった口元。
 普通の人と比べると、まだやや感情乏しいかと思うかもしれないが、ネイルだという事を踏まえるならば花丸合格だ。
「本当に、よくやってくれた………
 よし、さっそく拡大してパネルにいれて、後ろにでも飾っ」
「止めてください見付かったら殺されます私が!!!!!」
 なにせこの時目の前にいたのは私だけだもんね!消去法用いるまでもない!!
「ぬぅ……そうか………
 まぁ、確かにネイルに知れたら、また照れたりもされたりして会ってくれないかもしれないな」
 照れるどころか暗殺されるっちゅーに(しかも何気に私が殺される訴えを無視したな?)。
 まだ写真を見て、今度は校長は穏やかな笑いを漏らした。
「ふふ……銃口に邪魔されずに息子の顔が見れたのは、久しぶりだ……」
 よくある父親の日常みたいに言うか、そんな事情の親子はネイル以外には「スター・ウォーズ」ぐらいなものだろうよ(アレって見方変えると宇宙を舞台に壮大に展開された親子喧嘩には思えないか?)
「昔はちゃんと(上手に隠し撮りが出来て)顔が見れたんですか?」
「と、いうより一緒に暮らしていた。アレが10歳にまるまでだがね」
 ……………!!
 初耳だ………
 そうか……どうりで……どうりで南の地方出身で訛りが強いはずのネイルがやたら丁寧語を喋っているのは、その時の記憶を否定している事の現れだったのか-------!!(でもキレると地か出るんだよ)。
「そう……あれから、もう5年か……もうすぐ6年だが……」
 遠い眼で語る校長。
「ネイルが、火を放って家を飛び出したのは………」
 いやー、こっちが怯えるくらいのディープかつショッキングな出来事ッスね。
「そ……それは……住む所が無くなって困りましたね………」
 なんとか恐怖を打ち消したくて、世間話にでる私。あぁ、でもちっとも内容が世間様一般じゃない!!
「?何でだね?」
「え、だって火を付けられたって……」
「………あぁ、そうか。いや、言い方がまずかった。
 火をつけたのは、私に自身にだよ。
 紛らわしくなってしまったね」
 ネイルー。お前本当にこの人殺したいんだなー!!
「そ、それはよ、よ、よく生きてられましたねねねねね?」
 あぁ、ますます内容が世間一般から外れる日常会話………
「それについては大丈夫だ。
 常日頃から息子からの鋭い切れ味のナイフのような殺気を覚えていたからね。
 寝るときはいつも防火の術を纏っていたんで、、全く無傷だったよ」
 ……この人、どういうつもりでネイルとコミュニケーションを図りたいんだろう…………
 つーか実は全然信用してないだろ、息子の事。
「あ……じゃあ、これで失礼します。予定があるんで」
 これ以上ここに居たら精神病の1つや2つ作ってしまうかもしれない……
「そうか、すまなかった。では、約束どおり報酬は振り込んでおく」
「どーもー」
 実際はそれの3分の1なんですよね、取り分。
「それはそうと……これはどういう場面だったのかね?
 実は今度休みが取れそうなので、自分でカメラを握ろうかと思っているんだ」
「え!……っと、それは……
 偶然のことだったんで、しかも遠くでしたし。どういう情景だったのかはちょっと……」
「そうか……それは残念だな………」
「では、これで。
 あ、少し私からいいですか?」
「うん?何かね?」
「こんな依頼これっきりにして下さい」
「いやー、ネイルはいつもても美人だな」
「はぐらかさないではっきり返事してください。もう、こんな事は」
「目元とかはやはり私に似ているか?でも顎のラインは家内だな」
「出来ればはっきり書類か何かに書きとめてサイン等もして約束して下さい」
「写真もいいが、はやり実物だなー」
 ガチャリ。
「ちょっと校長、聞いてるんですか。答えてください。校長、校長ー?」
 相手がプライベートルームに篭ってしまった今。
 校長室に響くのは、私の声とドアを叩く音だけだった。




 こうして一見不可能に思えていっそ身分隠して旅に出ようかと思った依頼だったが、どうにか終わらす事が出来た。
 しかし----この一件が与えた私への影響力は凄まじい------
 その日、私は夢を見た。
 何ともファンシーな、うさぎ耳のついたパーカーを持った校長が現れ、
「これを着ているネイルを撮って来てくれないかい?」
 と、話を持ち出す夢を------
 ------私は、自分の上げた悲鳴で眼を覚ました。




 ネイルの笑顔の先にあったもの。
 校長はおそらく絶対解らないだろう。と、いうか知らない方が良い。
 あの時ネイルが見たものは-----睫眉毛鼻毛唇鼻の穴額に肉や唐突に生えた花等----考え付く限りのラクガキを施した。
 校長の写真、だとは------ 
 ちなみにそれはネイルが欲しいと言ったので素直に上げた。あの後、凄い嬉しそうに哄笑あげて写真に向かって銃乱射したんだろうなぁ。わー、すっげーリアルな想像出来るー。
 それはそうと、あの校長の言葉。
”実は今度休みが取れそうなので”…………
 ----あの一言が、どうにも私の日常に影を落として止まないのだった………(もしやその日はアルマゲドン勃発か?)





お仕舞い☆(にさせて欲しい、本当に)






はい、オリジです。
いや……これ本当はパプワのミヤトトで書こうと思っていたネタなんですがね。
「シンちゃんの写真撮って来てよv」「無理」「トットリくんとの休みあわせるから」「やります」みたいな。
でも書いていく内に「シンタローさんどこの極悪人ダヨ!」という思いに捕らわれたので、目出度くボツに。

文中のセルフィユと校長のやりとり。ミヤギとマジックのやりとりそのままでした会話が。(アレじゃあダメだろ、アレじゃぁ……)
でもトットリを餌にミヤギをいいように扱ってシンちゃんゲットするマジックが書きたいのでまたゼロからプロット立ててますです。
んで、こうやって苦労を重ねて掴んだ同じ休日に、「あれ?ミヤギくんも休み?「おー、奇遇だべやなー」とか言うのですよ!
ホントはヘタレなくせにトットリの前でだけ格好つけてるのがワタシのミヤギっすからね!

オリジの後書きでパプワ語るのってどうよ、と誰かに突っ込まれる前に自分で言ってみる。