mission,3





「ったく、誰が事件の中心で、無実を叫んで居るかと思えば……全く見知らぬ赤の他人じゃねーか」
「ちょっと待ってよ叔父さん血縁者-------!!!」
「あーもううっさい。出してやるよ、ホラ」
 ガチャリ、と鍵が開き、晴れて私は自由の身!
 うう、牢獄なんてもう一生入らんぞ、て言うか一度も入りたくないわ!!
 こんなのに一時間何万円のオプション付きで入りたいってヤツもいるから、世の中解らんよなぁ。やっぱオプションが決めてなのかなー。
 まぁ、どうでもいいけど。
「助けてやったんだからな。一生俺に仕えろよ」
「はははは」
 あれ以上、どうやってこき使われろと?
 いやしかし、ビビったよ。
 朝起きたら隣に知らない女性が、ってのはトレンディドラマでありがちだけど。
 それが遺体だったりしたら、あっという間に火曜サスペンス!!
 あっはっはこりゃ愉快、な訳ねぇだろぉぉぉぉぉぉ!!おかげで第一容疑者だっちゅーの!!
 や、その前に私は遺体と一緒に一夜を明かした訳か………
 ……あまり深く考えないどこ。無理にトラウマ作るまでもなし。
 で、そんな私だったが、叔父さんの計らいであっさり釈放された。どんな計らいがあったのかは知りたくもないし教えて欲しくもない。
「……まぁ、こうして釈放してもらったから言うけども……
 皆、よく私のいう事信じたな」
 叔父さんに限らず、リオン、ネイル、ジルコニアまで。
 誰一人、私の無実を疑う者は居なかった。
「それはそうだろう」
 とはジルコニア。
「貴様みたいな薄腹黒で小悪党が、オレに感づかれずに女引き連れて殺人なんて、そんなこてこてな悪行出来る筈がない」
 わーい、涙が出そー。
 今回、皆には大変お世話になったとも。
 叔父さんの力じゃ、こんな最重要人な私があっさり帰される筈も無い。
 実は貴族でその手の交流の深いリオン、そして父親が校長のネイルの手も借りて。
 ………ネイルって、父親ととんでもなく仲悪いんだっけねー………
「礼は要りませんよ」
 それは代わりに命寄越せと聴こえるのは、私の被害妄想だろうか。
「その分は事件解決に向けて下さい」
「事件解決?」
「お前……自分を捕まえた警察を見返そうとは思わないのか?」
 思わないでいちゃ悪いでしょうか、リオンさん。
「たまには国家権力を見下すもの面白そうだしな」
 ジルコニアが続く。
「ほら、さっさと行きますよ」
 ……皆………
 今まで君達が居た所に、「名探偵コナン」と「金田一少年の事件簿」と「名探偵・保健室のオバさん」の単行本が平積みになってなかったら、もう少し感動出来たのにね。




「それじゃあ、お前があの部屋に連れ込まれた経緯から教えてもらおうか」
 と、私に訊くジルコニア。
「その前にいいでしょうか」
「何だ」
「……何でいきなり室内にスチール製のデスクがあって、私とジルコニアが向かいに座っているのはいいんだけど。
 どうして私の方に向かって電気スタンドが煌々と照らされているんでしょうか」
「気分だ」
 ……まぁ、いいけどね。いいって事にしよう。
「えーと」
 と、私は思い出しながら言った。
「夕方の4時ごろだったな。本屋の帰りに、ちょっと裏道通って……個人ビデオとかキャバクラがある道。
 そうして、女の子が要るなーとぼんやり見てたら、後ろからがばっと来て、何か甘い匂いがして、意識が無くなって」
「で、気づいたらベットの上、という訳か」
 そういう事。
「あー、それにしても家族が皆旅行やら合宿やらで居なくて助かったー!」
 居たらもうとんでもない事になってたぞ(今も十分とんでもないけども)。
「それはちょっとご都合主義過ぎないか?」
 リオンが何か言うが、無視。
「ぼんやり見てたって……その女の子に何かあったんですか?」
「いや、鈴の音がリンリン聴こえるから、何処だと思ったら其処だったって訳で。
 あと数年したらリオンが好みそうな子だったぞ」
「……また牢屋に戻ってみるか」
「本当の事なのに……正直者が何時も損するんだ」
「使い方が違う!」
 吼えるリオンを無視。
「しかし……妙だな」
 と言ったのはリオンで。
「あ、必死で話題そらそうとしてる」
「別に個人の嗜好ですから恥じ入る事はありませんよ、犯罪スレスレなものだとしても」
「……お前らコンビで放り込むぞ」
 リオンは深呼吸をしてから言った(多分、怒りを抑えたものだと思われる)
「身代わりにたまたま其処を通りかかったセルフィユを使ってるという事は、この事件は衝動的なものだ。
 の、割にはそんな即効性の睡眠薬を持っている。道具を持っていたとすれば計画的になるが」
「いや、私があそこを通ったのは全くの偶然だ」
 私が狙われた理由としては……一番打ってつけ、というか、私しか人が居なかったからだ。
 さっき言った、女の子も居たが、あれを犯人にする訳にもいかない。
「準備の割に犯行が行き当たりばったりですね」
「そう。其処が解らない」
 そうだなぁ………
「何が解らないんだ?」
 と、言ったのはカツ丼食べてるジルコニアで。
「あ!どうして私にカツ丼無しでジルコニアが!」
「どうしても、貴様は犯人じゃないだろう」
「だったらこの扱いは何!?」
「今はカツ丼なんかどうでもいいだろう!後で食え!」
「いや、私はカツ丼はあまり好きでは」
「……クロフトに頼んで、もう一度お前を警察に突き渡す!」
「ごめんなさーいごめんなさーい」
「何か解ってるんですか、ジルコニア」
 おそらくリオンが訊きたかっただろう事を、ネイルが言った。
 お新香をつまんでジルコニアは言う。
「身代わりに使われたのがセルフィユだから、これは突発的で衝動的なものだとオレも思う。
 もうちょっと行って、広い公園にまで行ったら容疑者にしても身元が出にくい浮浪者が要るんだからな。
 オレが計画的に今回の事件を起こすとしたら、これを使わない手は無い」
 あまりそうやって、冷静かつ具体的に犯罪練られると怖いんですが(あくまで例えだとしても)。
「それなのに、通りすがりのセルフィユにしたのは、そこから一刻も早く立ち去りたかったからだ。
 後始末の事を入れないで、計画を組み立てるヤツは居ない」
「では、薬は何処から出たんですか。被害者はホステスで、とても薬物に精通も所持もしているようには見えませんが」
 そして現場も被害者の部屋。質素だけども色々ごちゃごちゃしている、極一般な成人女性の部屋だった。
「被害者が持ってないなら、犯人だ」
 白じゃないなら黒、みたいに言う。
「犯人が当たり前にごく普通に持っていたというんですか?」
 そんな馬鹿な、と言うネイル。
「別にその薬が本人の持ち物でなくてもいい」
 訳の判らない事を言い出すジルコニア。
 自分の物じゃないんなら、どうして持っているんだ。
「例えば、何かの証拠物件とかな」
「-----犯人は警察関係者とでも?」
 リオンが言う。
「まぁ、想像だけどな。
 そんな風に証拠品を持ち歩いているなら、それは解決した事件のものだ。何処か、別の倉庫にでも仕舞う為に運ぶ途中だったんだろう。
 多分、被害者とは愛人関係だろうな。被害者は化粧もしていた事だし、男性である事は間違いないと思う」
 空になったドンブリを机の端に寄せる。
「そしてこれも想像だ。
 犯人はそんな身分だから、愛人を作っても毎日なんて構ってやれない。
 が、被害者の方は当然構って欲しい。
 何とか暇を作って、解決した事件の後なら、少し姿を晦ましても言い訳がつくだろうと、証拠品を持ったまま愛人の所へ向かった。
 そうして、犯人がシャワーとか少し席を外している間に、被害者はその証拠品を出してしまう。一般人にしてみたら、証拠物件なんて興味の対象だからな。
 当然それはあってはならない事だ。下手したら指紋でもついてしまうかもしれない。犯人の窘める言葉は、若干キツいものになったんじゃないだろうか。
 それにカチンと来てしまったのが被害者の方で、発展してしまった口喧嘩の中で、うっかり家族や職場にバラしてやるとでも言ってしまう。
 そうなってしまっては身の破滅の犯人。つい、バラされるまいと口封じに殺してしまおうとその辺の何かで強打してしまう。調書を見ると、直接の原因となったのは首を絞められた窒息死となっているが、頭に殴打の跡があると出ている。我に返った後でも、もう引けないと止めをさしたんだろう」
 普通調書って門外不出なのでは。
「次に必要なのは代わりの「犯人」だ。首を絞めてしまったとなっては、事故死は難しい。
 と、そんな犯人に、いかにも凡庸としたヘタレ然とした男が目に入る。視線を巡らすなセルフィユ、お前の事だ。
 そうして、そいつを捕まえるのに丁度いいものは無いか、と探ったら」
「持ってきた物の中に睡眠薬があった、と」
「ま、あくまで想像だ。セルフィユ、お茶くれ」
「はーい」
「想像だから、裏づけが要るな」
 リオンが言う。
「クロフトに頼んで、最近起こった事件で何かクロロホルムとかが………」
「うぃーす、もう調べたぜー」
 がちゃ、と扉を開けて叔父さん登場。
「調べたって、どうしてこっちの話が解ったんですか」
 まさか「太陽に吼えろ」みたいに話は全部聞いたよと。
「お前に付けた盗聴器で全部聞いた」
「………………」
 何処!何処に何処に何処に!!
「まぁ、それはどうでもいい。で、クロフト、どうだった?」
「あ------私の身に一体何が!!!!」
 悶絶する私は煩かったらしく、空になったドンブリが飛んできた(当然当たった)。
「お前の想像はだいたいビンゴだ。
 この前、薬学部の悪ガキ共が戯れに薬使っての婦女暴行事件があってな。この前解決したばかりだ」
 口笛吹けたら、吹きたくなるのはこんな時だな。私は口笛は吹けない。そして、頭から血が流れている。
「その事件の本部長が、証拠品を倉庫に持っていくと自ら名乗り出たそうだ。自分から動く事が滅多にないヤツだったみてーで、皆結構覚えてたみたいだぜ。
 でもって、そこから車で20分あれば十分の所を、4時間後に着いている。こりゃ怪しい」
 なるほど。
 ここで、そんな事を逐一調べ上げられたアンタも思いっきり怪しいよって言ったら、何が飛んでくるんだろう。
「で、その本部長とやらだが、早朝にジョギングする日課があるらしい」
 へー。
「そこに行って、口止め料を交渉すんぞ」
 わー犯罪ー。
「500……いや、800いけますかね」
 算段するネイル。
「ついでだから、機密文書でも見られる手形でも発行してもらうか」
 上乗せするリオン。
「やっぱりドンブリは天丼が一番だな」
 ランク付けるジルコニア。
 ………皆、結局謎解きがしたいだけだったんだね。




 さて早朝。人よりも鳥が元気な時間帯。
「これでさぁ」
 眠気マックスな私が言う。
「これで本部長も死体で転がってたら、ますます火曜サスペンスだよなーあっはっは!」
 眠いせいか、自分でもハイだな、って思う。
 と、そんな私をネイルがゴズ、と殴る。
「何!」
「……………」
 ネイルは、さもお前のせいだ、と言わんばかりの不機嫌オーラで、それを指差す。
 それ。
 つまり。
 死体、を。




<続く>





とりあえず言えるのは。

これ絶対ファンタジーじゃねぇ。